もう2度と戻らない、蒼い日々(簡略版)
高校1年生の頃、当時わたしは陽ちゃんと同じクラスだった。蒼依は別のクラスだったけど、美人で目立っていたからその頃から知っていた。
陽ちゃんに聞いたところ、陽ちゃんの親友のマコちゃんと仲が良くて学外で音楽活動もやっているらしい。陽ちゃんは紹介してくれるって言っていたけど、人見知りなわたしは断ってしまった。
いつもつまらなさそうに頬杖をついて窓の外の空を眺めている蒼依の横顔。マコちゃん以外誰も寄せ付けない、アンタッチャブルでどこか陰のある雰囲気を醸し出していた。わたしはただ、それを遠くからただ見つめているだけだった。
学校で見る蒼依と同じように、わたしも灰色の人生を送っていた。わたしはその頃既に、嫌なことから逃げ出すようにアイドルにハマっていた。
わたしにとってアイドルは女の子の代表で憧れだった。汗臭くてつまらない武術の稽古から、わたしを華やかな世界に誘ってくれる存在。気づけば稽古から逃げ出してアイドルを推すのがどんどん楽しくなっていた。
でもそれと同じぐらい、学校にいる蒼依の姿が目に焼きついて離れなかった。蒼依はいつも仏頂面だけどすごく美人で、笑えば絶対に可愛いはずなのに。
どうしてそんなにつまらなさそうにしているの? あなたは一体何を考えているの? あなたの好きなものは何?
独りで佇んでいる蒼依を見るたびに彼女のことが気になって、彼女のことを考える頻度が増えていった。でも自信がないわたしには彼女に話しかける勇気なんてなかった。
そんなある日、校舎の掲示板で1枚のフライヤーが貼ってあるのを見つけた。
「ライブ?」
参加者のリストに蒼依のバンドが載っていた。場所は学校から2駅ほど離れた街中にあるおしゃれなライブハウス。これは絶対見に行かなきゃと思って、蒼依が何の楽器を担当しているのかも知らないまま足を運んだ。
初めて行ったライブハウスは、薄暗いアンダーグラウンド感満載の空間だった。なんだかちょっとワルっぽくて非日常を感じられる場所。
ライブが始まってしばらくして、蒼依達のバンドが出てきた瞬間は今でも良く覚えている。ギターを持って現れた蒼依はヴォーカル担当だった。他のメンバーもイケイケの感じだったけど、蒼依はその中でも特に目立っていた。
演奏が始まってすぐ、蒼依の歌のうまさに圧倒された。こんなに綺麗でカッコいい声なんだって感動した。普段学校では絶対見せないような笑顔で楽しそうに歌う蒼依の姿が眩しくて、目と耳に強く焼き付いた。
学校ではあんなに気だるそうにしている彼女が、ライブハウスでは水を得た魚のようにイキイキと音を奏でていた。普段わたしが見ていた彼女と全然違って、わたしが今まで見たこともない様々な表情を見せ、喜怒哀楽に富んでいる。
わたしはあの日初めて、本当の森薗蒼依を見たんだと思う。初めて見にいったその日のライブでアーティストとしての彼女に心酔し、蒼依はわたしの憧れになった。
ライブという非日常的な空間で気分が昂ってしまったからか、人見知りなはずのわたしは勇気を持って蒼依に話しかけた。
「あの……! ライブ本当に最高でした!」
「百合嶋さんだよね? 緑風さんと同じクラスの」
「え? 知ってるんですか?」
「知ってるよ。あたし、可愛い女の子の顔覚えるの得意だから」
クールでカッコよかった第一印象とは違って、蒼依は柔らかい自然な表情で微笑んだ。
「かわいいだなんて……そんな」
美人な蒼依にそんなふうに言われて気恥ずかしかったのを今でも覚えている。
それからわたしはアイドルのライブだけじゃなくて蒼依のライブにも頻繁に足を運ぶようになった。普段学校にいる蒼依とステージに立って歌っているときとのギャップを見比べるのが本当に楽しかった。ライブに行くたびに新しい蒼依を発見することができた。ステージ上の蒼依はいつだって自分に素直で、キラキラしてて、眩しくて、カッコよかった。
やがて月日が流れ、学校で顔を合わせるたびにわたし達の話す時間も長くなっていった。一緒に帰ったり、休日に2人だけで遠くの街に出かけるようになった。そしていつものように2人で買い物に行った日の帰りの別れ際。
「あたし、百合嶋さんのことが好きだよ」
「わたしも森薗さんのことが大好き」
「あたしの言ってる意味伝わってなさそうなんだけどな」
蒼依は照れくさそうにはにかんだ。
「あたしは恋愛感情としてあなたが好き。さくら、あたしの彼女になって」
彼女という言葉があまりにも衝撃的すぎたけど、わたしも蒼依と気持ちは同じだった。
「はい。わたしをあなたの彼女にしてください」
断る理由なんて何もなかったわたしは、人生で初めて同性の女の子の告白を受け入れた。OKした直後、蒼依にハグされたときの蒼依の体温、匂い、感触全部がわたしを幸せにさせた。あのときのドキドキは今まで感じたことのないぐらいキラキラで幸せな瞬間だった。




