ドアガードを開けるのなんて簡単よ〜モブキャラみたいなサブヒロイン×2を添えて〜
「ごきげんよう、さーちゃん」
翌朝、自室で目覚めると目の前にお嬢様系幼馴染がいた。前回不法侵入された反省を踏まえて対策したはずなのに、なぜこの幼馴染は当たり前のように添い寝しているのだろう。
「……ドアガードしてたのになんで入ってこれてるんですかね?」
「あんなの輪ゴムと養生テープを使えば簡単に外せるのよ。手順は……」
「だから怖いって!」
なんでここまで不法侵入に精通してるんだよこのお嬢様は。ピッキング系幼馴染とか普通に嫌なんですけど!?
朝比奈さんが彼女(※フリです)なんだから朝もわたしの家にやってきて……と思ってたら、知らぬうちに上がり込んでいるのはいつも通り奇行上等の財閥系幼なじみだった。
「ごめんしろちゃん、今日朝から来客の予定があるんだけど」
「あらそう、わたくしは別に構わないわよ?」
「いや、あなたはそうかもしれないけどさ。わたしとしてはこんな状況見られたくないわけで……」
毎度のように裸ワイシャツで人のベッドに潜り込んでるのは何故なのだ。ああ、今日は裸エプロンか。どっちでも大差ない気がするけど。
「この間の要望に応えて今日は裸エプロンにしてみたのだけれど」
「頼んでないし!」
こんな感じで朝からバタバタしているうちにインターホンが鳴った。
「やば、お客さん来ちゃったじゃん。は〜い今行き……むごっ」
「しっ、静かに!」
急にしろちゃんに口を押さえられた。もしかして居留守使おうとしてる? はだけたエプロンの隙間からもろに見えているしろちゃんの胸先が間近にあって目のやり場に困っていたそのときだった。
「あ、鍵開いてる。さくらちゃん、入るよ〜」
「あらやだ、閉め忘れたみたいね」
不法侵入してるんだからせめて戸締りぐらいちゃんとしてほしい。
しろちゃんはその瞬間はっきりと口角を上げた。一体何がしたいのこの幼馴染は。
「さくらちゃん……って、なにこれ」
ドサ、という音と共に鞄が床に落ちる。朝比奈さんは最初何が起こっているのか困惑しているようだった。
「ごきげんよう櫻咲……もとい”朝比奈紅羽”さん?」
「……何やってるの?」
「見ての通り、わたくしとさーちゃんは朝から愛のイチャラブを……」
「ぷはっ! ちょっとしろちゃん、やめてよね。変な勘違いされちゃう!」
「あら何を言っているの? 勘違いなんかじゃないでしょう、昨夜だってあんなに激しくわたくしを求めて……」
まるで朝比奈さんに自分とわたしが親密な関係だと見せつけるように……。こいつ、これがやりたかったのか!
「あー、思い出した! いつもさくらちゃんの学校で見かけるデカリボンの負けヒロインさん!」
突然朝比奈さんがわざとらしい仕草でしろちゃんに毒を吐いた。
「ままま……負けヒロインですって!?」
「だって、あなたからそこはかとない負けヒロイン臭がするんだもん」
さっきまで余裕そうだったしろちゃんが逆に今度はペースを乱される。
「ふふ、幼馴染は最強なの。誰にも負けることはないわ。過去から未来永劫勝ち続ける唯一の存在、それが幼馴染なのよ」
「うーん、幼馴染って現代だと弱い気がするんだけどなぁ。ポッと出のスペック高いヒロインに横から掻っ攫われてるイメージしかないんだけど」
「なんですって……」
しろちゃんが全身から殺気を漲らせる。一方で朝比奈さんはどこ吹く風といった感じだった。するとエプロンのポケットから振動が伝わってきた。しろちゃんがスマホを忍ばせていたらしい。それわたしのエプロンなんだから裸で着ないでほしいんだけど。
「さーちゃん今日はねぇ、わたくしもスペシャルゲストを呼んでいるの」
しろちゃんは嬉々として電話を取る。
「そろそろ着いたみたいね。鍵は空いてるから入ってきなさい」
「何回も言ってるけどここわたしの家だからね!?」
家主の許可なしにホイホイ人を入れるのやめて! そもそもわたしの許可なしに不法侵入してこないで! 篁さんかと思ったらそこに現れたのは意外な人物だった。
「あお……森薗さん!?」
蒼依が顔面蒼白でわなわなと震えている。
「あんた何やってんの!?」
「見ての通りよ、さっきまでさーちゃんを美味しくいただいて……」
「あー、大丈夫だと思うよ。その人見るからにヘタレだし、そんなことできないでしょ」
「……この女。言わせておけば」
実際朝比奈さんの言う通り、意外にもしろちゃんからそういうことをされた覚えは今までない。
「それにさくらちゃんが何してようと元カノジョさんには関係ないと思うんだけどなぁ」
「”元カノジョ”?」
「だってさくらちゃんの今のカノジョは私だから」
朝比奈さんはしろちゃんを押しのけてわたしと腕を組んだ。まるで蒼依に見せつけるように朝比奈さんが小悪魔な表情を向ける。蒼依の雰囲気もピリッとしだした。なんか朝比奈さん、今日は色んな人を煽ってない?
「関係なくないんだけど」
「どうして?」
「あたしが気に入らないから!!」
ただの感情論キター! 蒼依って付き合ってたときからこういうところあるんだよね。
「そんなこと言い出したらわたくしだって気に入らないわよ。だいたいあなたが最初に……」
わーわーと3人が好き勝手騒いで三つ巴の戦いみたいになってきた。朝比奈さんだけじゃなく蒼依までやってきて完全に修羅場! 逃げ出したいけどここはわたしの家だから逃げられない、すでに後退できるところまで後退済みだから!
「あー、みんなごめん。ちょっと待って」
いい加減朝から近所迷惑みたいになってきたから、とわたしが静止する。
「とりあえず今日約束してた先客は朝比奈さんだから、残りの2人は帰ってください」
「「あ……ハイ」」
蒼依としろちゃんは申し訳なさそうに家から出ていった。
「相変わらず2人とも面白いなぁ。特に蒼依って子、昨日も私がさくらちゃんに抱きついたらすごい顔してたよね」
「朝比奈さん、いくらなんでもベタベタしすぎじゃないですか?」
「え〜そうかなぁ。恋人同士ってこれぐらいイチャイチャするものじゃない?」
静かになった部屋で、朝比奈さんは上目遣いでわたしに顔を近づけてくる。そのカオの画角、強いと分かって故意でやってるでしょ?
「それに私達がイチャついてたら、森薗さんがどういう反応するのかも気になっちゃってね」
わたしはその一言で一瞬心がザワっとした。
「蒼依をおちょくるために、あんな見せつけるようなことしたんですか?」
「そうだよ。全ては演技力アップのためなの」
「だからって」
「さくらちゃんも、推しが有名になってもっと活躍すれば嬉しいでしょ?」
「それはそうですけど」
このやりとりでわたしは生まれて初めて推しにモヤッとした。確かに朝比奈さんのいう通り、推しが活躍することはファン冥利に尽きる。だから積極的に応援するし、できることならなんでも力になりたい。
でもいくら演技力向上のためとはいえ、蒼依の気持ちを逆撫でするのは気分が悪い。仮にもわたし達は真剣に付き合ってたわけだし。
だけど……とわたしはこの前のライブを思い出す。実際のところ蒼依は今のわたしをどう思ってるんだろう。あのライブで蒼依はわたしに『これからは別々の道を歩いていこう』って歌っているような気がした。なら今のわたしを見たって蒼依が怒る理由なんて何もないんじゃ?
ううん、もう考えてもしょうがない。わたしと蒼依は完全に終わったんだから。そう思っていると、わたしの推しはまた突拍子もないことを言い出した。
「お邪魔虫2人もいなくなったことだし、わたしから1つ提案があるんだけど」
「藪から棒に、一体なんですか?」
「今度私とデートしてくれない?」
「ででで、デート!?」




