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百合△から逃げられない!?  作者: りんきり
2話 未経験でアイドルのマネージャーなんてムリでしょ!
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side 蒼依:なんでこのお嬢様はこんなにあたしのことを嫌ってるの?

 ライブの翌日、いつもクールな森薗蒼依はそわそわしていた。さくらと顔を合わせるのが不安だったのだ。破局してから何度もライブに誘おうとしていたのに、あのツーサイドアップ美少女に悉く邪魔されてきた。それがようやく昨日実現したわけで、蒼依は長い間抑えていた気持ちを吐き出せてすっきりもしている。

 さくらをライブに誘う前も蒼依は緊張していた。別れた元カノのライブに本当に来てくれるか不安だったから。だけど今はそのとき以上に、自分の想いが伝わったかどうかで気が気でなかった。自分だけ気持ちよくなっても、肝心の相手に気持ちが伝わっていないのでは意味がないから。

 とはいえ、ライブ中にさくらとも目があったことも覚えているし、蒼依はやれることはやったという自負があった。

 伝わったかな、あたしの気持ち。そうだといいなと蒼依は願った。こんな感じで、別れたはずなのに当の蒼依はさくらに未練たらたらだった。

 机に座って落ち着きなく待っていると、さくらが教室に入ってきた。ライブ本番でも緊張しないのに、蒼依の手には汗か浮かんでいた。

「百合嶋、おはよ……」

「おはよう、森薗さん」

「あのさ、あたし……」

 さくらはにっこりと微笑んだけど、蒼依の次の言葉を聞かずにスッとその横を通り過ぎていった。

「さくちんおはよ〜。二日ぶりだにゃあ」

「おはよう、陽ちゃん」

 後から登校してきた陽がさくらに抱きついた。2人とも同じグループで仲良しの友達なんだから、蒼依もその場に混ざるのは容易だ。だけど蒼依がさくらに話したかったことは友達の話ではなく、陽も知らない別の要件だった。

「ねぇねぇ、例のアイドルのスキャンダルなんだけどさぁ。昨日SNSに挙がってた噂でね……」

 さくらが1人でいるときを狙いたかったのに、こうなってしまうと蒼依のしたい話ができるわけもなく。蒼依は自席に座って頭を抱えていた。その日さくらと1対1で喋るチャンスはとうとう訪れなかった。


「今のあなた、哀れすぎて見てられないわ」

「なんの用スか……」

 帰り際、蒼依は自販機でいちごミルクを買ったあと下駄箱前でクラスのお嬢様から声をかけられた。

「かわいそうね。やっとの思いで自分の歌を聴かせたのに、さーちゃんに避けられることになってしまって」

「あ、さくらにチケット渡してくれてありがとう。それじゃ……」

 蒼依は茉白からダル絡みをされてメンドウに感じ、その場から去ろうとした。

「お待ちになって。森薗蒼依、一時休戦といかないかしら?」

「休戦もなにも、あんたが一方的にあたしのこと嫌ってるだけだろ……」

 ほんと、なんであたしはこの人に目の敵にされてるんだろう。多分幼馴染のさくらを独占してたから逆恨みされているのだろうと蒼依は思った。

「わたくしと手を結ばない? あの紅い新ヒロイン、とても厄介な匂いがするわ」

 ああ、放課後さくらと待ち合わせしてるあの子か。あの得体の知れないツーサイドアップが現れてからというもの、放課後になるとさくらは校門前から車で連れ去られてしまうのが日常となった。校内で見たこともないし、多分同じ学校の子ではないのだろうと蒼依は分析した。

「わたくしが想定していた中で最悪の事態なのだけれど。現役アイドルまでさーちゃん争奪戦に参加するっていうの? 本当にあの女たらしは昔からいつもいつも……」

「待って。あの子アイドルなの?」

「ええ、それもさーちゃんの推しよ、あの子」

「なんてグループか教えてもらえないかな」

「それぐらい自分で調べなさいな」

「教えてくれてもいいだろ、ケチ」

 さーちゃん争奪戦ってなんだよとか色々聞きたかったけど、現役アイドルという肩書きが強すぎて蒼依はそちらに気を取られてしまった。

「手を結ぶって、それであたしは何をすれば?」

「わたくしも色々考えている途中なの。追って連絡するからそれまでは好きに過ごしていなさいな」

「はぁ」

 蒼依はしぶしぶ同意した。

 それ以降は特に喋ることもなく2人で無言で歩いていた。っていうかあたしこのお嬢様と友達ってわけでもないし、喋ることなんか別にないんだけどと蒼依は思った。

 そんなとき、いつものように校門前でさくらが車に乗ろうとしている光景を目撃した。

「「あ」」

 蒼依と茉白、2人揃って声を出した。瞬間、誰に言われるでもなく2人同時に駆け出した。

「百合嶋、ちょっと話があるんだけど!」

「さーちゃん、この後わたくしに付き合ってもらえるかしら?」

「ごめんね2人とも。これから用事があるから」

 ダメ元で聞いてみた2人だったが返答はわかりきっているほど自明だった。開いた車の窓ガラス越しに苦笑いするさくらの後ろから、例のツーサイドアップ美少女が身を乗り出した。

「初めまして、さくらの現カノジョの朝比奈紅羽です。以後お見知り置きを」

「彼女ぉ!?」

「彼女ですってぇ!?」

 赤い服が似合いそうなその少女は、蒼依と茉白に見せつけるようにぐいっとさくらの腕を組んだ。

「それじゃあね、”森薗蒼依”さん」

「ちょっとアンタ、何を言って……!」

「待ちなさい! わたくしのことは眼中にないっていうの!? わたくしはさーちゃんの唯一無二の……」

 幼馴染、と茉白が言いかけたところで車は無慈悲に発車してしまった。

「あっ、百合嶋……」

 蒼依の伸ばした手は届くことなく空を切る。

「森薗蒼依!」

「ひゃい!?」

 怒声を上げたお嬢様の全身からはドス黒い邪悪なオーラが漲っており、恐怖のあまり蒼依はたじろいてしまった。

「ちょっとこの後付き合いなさい。たった今いい考えが思いついたわ、日帰りのバイト紹介してあげるから」

「はわわわ……」

「ふふっ、わたくしをコケにするなんて1000年早いんだってことあの女に教えてあげるわ」

 かくして、元カノと幼馴染による朝比奈紅羽包囲網が本格的にスタートしたのだった。

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