拉致された車内で反社からラブコール!?
「わたし拉致されてるんですか!?」
「昨日言ったでしょ? 『近いうちに、また』って」
あれってそういう意味だったのか。
「にしても急すぎじゃないですか。わたしにも友達付き合いってものが……」
「えー、昨日言ってたはずなんだけどなぁ。私に何かあったら絶対に助けに行くって」
くれはちゃんはくすくすと笑っている。かわいい。
「この前も三つ編みにメガネでしたけど、変装ですか?」
「そ。一応芸能人だからね、念には念をってこと」
くれはちゃんはトントンと眼鏡のふちを叩いてみせた。昨日と同じその姿はライブで見るより控えめな印象を与える。
「ちなみに私の本名は朝比奈紅羽って言うの。絶対誰にも言っちゃダメだからね? あと、これからは本名の方で呼んでね」
「わ、わかりました。……朝比奈さん」
真名を教えてもらえるなんてファン冥利に尽きるなぁと勝手に感動していた。
「なんかアイドルじゃないときはやっぱりキャラ違ったりします? 昨日よりだいぶ喋りやすいというか」
「そりゃ初対面の相手には猫被ってるもの。これが本当の私よ」
ニコニコと穏やかな感じは同じだったけど、朝比奈さんは昨日よりずっと活発な印象の話し方だった。
「それにしても、なんでわたしの学校を知ってたんですか」
「昨日帰り際に見た写真に写ってた制服でピンときたのよ」
なるほどと思っていると、朝比奈さんが何かひらめいたように人差し指を口元に当てている。
「あなたの元カノ、さっきの2人のどっちかでしょ?」
「!?」
「あははは、百合嶋さん耳まで真っ赤にしてかわいーっ! 2人共可愛かったけど、どっちなんだろ〜。黒髪ロング? それとも白いデカリボンの子?」
朝比奈さんはおなかを抱えながら、まるで新しいおもちゃを見つけた子どもみたいに楽しそうに笑った。
「そういえば名前なんていうの? デカリボンの白い子じゃなくて、黒髪ロングの子」
「森薗蒼依っていうんですけど」
「ふふふ……あはは」
朝比奈さんは口元を押さえて笑っていた。
「知ってるんですか? 蒼依のこと」
「ううん、なんでもないから気にしないで。それより、ちょっと電話代わってもらえる? 百合嶋さん宛みたいだよ」
「わたし宛……?」
朝比奈さんからスマホを受け取って耳に当てると、聞き覚えのある声が聞こえた。
「よぅ、この親不孝者! ……お前、さっきの電話ワンコールで出ろや」
「ヒッ……急に凄むのやめてもらっていいですか?」
ヤクザの親分かな? やっぱり反社って名前で登録してるの間違ってなかったじゃん。
放課後わたしのスマホに大量にメッセを送った張本人、わたしの連絡先に『反社』と登録されているこの人こそわたしの母である。百合嶋流剛柔術16代当主である母は、当然ながらわたしなんかとは比べ物にならないぐらい強い。
そんな現当主様である母にはどうやら全てばれているようだ。
「この電話に出たってことは、アンタ今拉致られてるんだよな?」
「はい、現在進行形で攫われてます」
「ふふっ、ウケる」
自分の娘が攫われて他人事みたいに笑ってる母親とかヤバいでしょ。もしかしてわたしはこの人からネグレクトされてるのか!? 児童相談所に電話しないと。
「さっきあんたに連絡したのは仕事の話。今回の依頼主はその人達だからね」
「わたしの承諾なく安請け合いしないで欲しいんですけど」
百合嶋流剛柔術は、現当主(つまり母)がその手の野蛮な仕事をたまに引き受けてくる。
「もちろん今回もアンタに選択権はない。アンタの家賃、誰が半分払ってやってると思ってんの?」
「うっ。そ、それは……」
そう、毎回のことだが母からのパシリに対してわたしに拒否権はない。
「わかったら汗水流して血反吐吐いて依頼頑張りな。いつもみたいに報酬の50%はアタシがきっちり中抜きしておくから」
「はぁ!? この鬼畜! 悪魔! ひとでなし!」
「そういうことだから。あ、そろそろ韓ドラの再放送始まるから。じゃあね〜」
「あ、ちょっとコラ。お母さん!」
ブツっという音と共に相手との通話が終わった。
「ったく……」
いつもこっちの都合なんか全く考えずにあれやれこれやれと言ってきて、毎回母に振り回されてばかりだ。朝比奈さんはわたしからスマホを受け取るとにっこりと笑った。
「というわけだから、早速本題の方に入りましょうか。これよ、これ」
朝比奈さんが鞄から取り出したのは何かの台本だった。
「恋愛リアリティショー?」
「そ。私、今度このリアリティショーに出ることになったの」




