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令嬢将軍はやり直したい【連載版】  作者: Altemith/あるてみす
第1章

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第31話 速力は最大の防御なり

 観艦式を終えた各艦は、各々母港へと帰投を始める。

私も艦後尾に用意された席に戻り、左手を庇うようにゆっくりと腰かけた。

すると、フィッシャー提督が私の右隣に座ってきた。


「どうでしたかな? 我らが海軍の観艦式は」


「どの艦も兵の練度が高く、艦自体の性能も運用能力も非常に優れている、まさに海軍大国と呼ばれるにふさわしい威容の艦隊であったと感じました。ブリタニアに海軍で敵うことはない、そのような牽制の意図も感じ取れましたが」


「それはよかったです。この観艦式の表の目的は陛下の在位50周年を祝った行事でありますが、裏の目的は君が感じた通り他国に対する牽制と、それによる平和の維持です。よって目的は達成されたと言えるでしょう」


 フィッシャー提督はにこやかに微笑む。

……そういえば、ヴィルヘルムとブリタニアの建艦状況などに関して聞いてみる約束をしていた。

幸いにも今隣に座っているフィッシャー提督は第一海軍卿、艦の設計をつかさどる役職の彼であれば何かしらの情報を話してくれるかもしれない。


「……提督、貴方は第一海軍卿として建艦を取り仕切る立場におられますが、何か建艦に際して信念としていることなどはありますか?」


「そうですね、私が設計を担当した艦においては、主にこの言葉を設計の根幹に置いています。『速力は最大の防御なり』、これが私のこだわりであり、長きにわたる私の軍人としての経験の集大成です」


 フィッシャー提督は、自分の仕事に興味を持たれたことを嬉しく思い、あれやこれやと話し始めた。

しかし話していいこと話してはいけないことがあるので、言葉を選びながら色々と説明してくれる。

私はその話を聞きながら、時折相槌をうった。


「加えて、我々は艦の、特に戦艦の速力をより高速にすべく蒸気タービンを機関に積極的に採用しています。また従来の石炭専焼缶や、石炭・石油混焼缶に代わり、石油専焼缶を採用しています。これにより従来よりも早い速力を実現しているのです。その流れにおいて建造されているのが、新しい巡洋戦艦と呼ばれる艦種です」


「……しかして提督、お話にあった通り主砲口径の統一や機関の近代化は素晴らしいと思います。しかし速力のために装甲を削っては、被弾時の防御において問題があるのでは? また従来艦においては、新鋭艦と比較して速力が遅く、結局そちらに合わせることになり本領が発揮できないのでは?」


「鋭い指摘ですね。確かに装甲を削ると、防御面において支障が出ることは否めない。しかし我々のドクトリンが敵を圧倒する速力による回避と、敵艦との間合いの支配である以上敵の砲弾は当たらないことを前提としています。その回避性能は装甲による防御力にも勝ると我々は考えています。言ってしまえばどんな砲弾であろうと、当たらなければどうということはないということですよ」


 フィッシャー提督はそう言い、軍刀の石突で甲板をコツコツと叩く。

この手の艦の設計は前世でも流行っていたと聞いたが、確かユトランド沖海戦においてその脆弱性が指摘されていたはず。

ティルピッツやシェーアが何と言っていたかは覚えていないが、大型艦の限界を感じる戦いであった記憶がある。


「それと速力の問題については、私が第一海軍卿に就任してからおよそ150隻の艦を廃艦ないし予備役送りにしています。その予算と人員で新鋭艦隊を構築しているので、足の遅い旧式艦は姿を消しつつあるので時期に問題は解決されるでしょう」


「廃艦? スクラップにでもしているのですか?」


「そうです。まだ廃艦か予備役かの分類で止まっている艦が多数あるため多くは係留されたままですが、一部の旧式の装甲艦などは既に解体が始まっています。残された鉄と人員で新戦艦を建造する、という訳ですね」


 旧式艦とはいえ、多くの艦艇が一線を退こうとしている……。

もしかすると、これらの艦を購入・取得することが出来るかもしれない。

旧式艦であるため外洋航海や植民地防衛には適さないにせよ、近海での作戦行動には一定の需要があるだろう。


「もしその気があれば、それらの廃艦ないし予備役送りになる艦をゲルマニアに売却することはできますか?」


「……艦を売る、という行為自体は『はい』です。しかしゲルマニアは隣国であり、海域を共有する関係。ゲルマニアの海軍力の増強はブリタニアの安全保障を脅かすことに繋がり、また技術の流出等の問題も残ります。そのため現実的ではないかと」


 フィッシャー提督の言うことは最もで、そもそもゲルマニアとブリタニアは王族と皇族の血縁関係こそあれど、特に同盟関係にあるわけではない。

技術流出を危惧するのも、安全保障を危惧するのも当然だ。


「しかし、現在のゲルマニア皇太子の御后さまは、我らが女王陛下の王女様。二か国の距離は接近しつつあり、一部では同盟も噂されています。もし両国が手を取り合えば、近海における安定性はもちろん、艦隊を近海に置く必要性が薄れるため、我が国の外洋での影響力も強めることが出来ます。その選択肢を両国がとるのであれば、売却は可能性の高い選択肢になりうるでしょう」


「提督としては、二か国の同盟には賛成でしょうか、反対でしょうか」


「……個人としてはなしではないと思います。もともとブリタニアの伝統的な仮想敵国はガリアおよびノヴゴロドです。両者の艦隊は強大であり、それらと対峙するために二国標準主義という艦隊設計を行っているほどです。そしてゲルマニアは我々とは違い、海ではなく陸でガリア、ノヴゴロドと向き合っている。つまり共通の仮想敵国を持つ存在であり、わざわざ敵対するだけの必要性もないでしょう。むしろ海軍としては、艦隊の配置においてゲルマニアを気にする必要がなくなり、貴官の言う通り外洋での影響力を高めることが出来ますしね」


 勿論いち将校の意見であり、それがどう転ぶかは両国の政府と外交の傾き次第ですが、とフィッシャー提督は付け加える。

前世においてドイツはイギリスとの不毛な建艦競争に陥り、大量の資源を失い、引き換えに巨大な艦隊と巨大な敵国を得た。

それを回避するための同盟……今世ではそれが最善策なのであろうか。


 ともかく、ヴィルヘルムへの土産になりそうな話は聞きだせた。

海軍の造船ノウハウについて触れることはできなかったが、十分な成果であろう。

私は何かが変わりつつあるのを感じながら、重油で進む艦の流れに身を任せるのであった。

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