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令嬢将軍はやり直したい【連載版】  作者: Altemith/あるてみす
第1章

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第26話 大いなる栄誉

 襲撃事件からも幾日が過ぎ、私の腕も回復に向かっていた。

最初は強固に巻かれていた包帯も、今や少なくなり締め付けも緩くなっていた。

しかしまだジェームズがうんとは言わないので、しばらく療養は続きそうだ。


 療養中には様々な人が見舞いに来てくれたため、部屋には大量の見舞い品が置かれていた。

お菓子や本などが山積みになっており、私はそれらで暇な時間を潰していた。

そんな自堕落な生活を送っていたが、今日はそうという訳にもいかないようだ。


 私はロッキンガム宮殿のメイドに手伝われながら、士官学校の服に身を包んでいた。

この日のために彼女らが完璧にアイロンをかけており、服にはしわ一つ見当たらない。

鏡に写る自分の軍服姿を眺めていると、扉がノックされた。


「ヒンデンブルク、いるか?」


「ええ。どうぞお入りください」


 ヴィルヘルムは扉を開け、室内に入ってくる。

彼は私とその周りのメイドを見て、何をしていたのかを察したようだ。

ほんの少しだけ顔を赤くしながら、彼は弁明する。


「……着替え中であったか。すまない」


「構いませんよ。ところで何の御用で?」


「父上からの伝言と、これを預かってきた。まずは読みたまえ」


 私の代わりにメイドが受け取ると、封を切って私に渡す。

右手で手紙を受け取った私は、ぎこちなく手紙を広げて読み始める。

そこには、少し震えるような字でこう書かれていた。


『まずは息子の命を、そして他の王子たちの命を助けてくれてありがとう。言葉にできないほどの感謝をまずは示したい。そしてその為に受けた傷が早く治ることを祈る。そのうえで、余は貴官に感謝の印として一振りの軍刀と金糸の飾緒を送ろうと思う。どちらも余が身に着けていたものだが、貴官と余の身長差はそれほどないと聞く。ぜひ役立ててもらいたい。こうして文で書くことしかできず、また実際に会うことが出来ないことを心苦しく思うが、許してくれると嬉しい。また体調が戻ったら、ゆっくり話し合おう。ゲルマニア帝国皇太子・フリードリヒ』


 私はその手紙を読み終えると、ヴィルヘルムは私に近づいてくる。

そして彼は私の腰にグルメットを取り付け、そこから軍刀をつるした。

また彼は箱から飾緒を取り出し、私の首元から右脇の下を通すように取り付けた。


「……今から祖母上のもとに行くのだろう? ならばそれを付けている方が見栄えが良くなる」


「確かにその通りですが、まだ士官学校も出ていない人間が身に着けてもいいのですか?」


「もちろん。さあ、祖母上が待っておられるぞ」


 私はフリードリヒから贈られたものを身に着け、メイドに連れられて部屋を出た。

ロッキンガム宮殿の長い廊下を歩き、途中で出会う貴族たちに礼をしながら進む。

そして廊下を進み、私は玉座の間の前の扉に到着した。


 扉の両脇には近衛兵が2人立っており、私に向かって敬礼をする。

本来は私が先に敬礼をする立場であるが、例外的に私が礼を返すことになった。

そして彼らは表情を変えないまま、扉の取っ手に手をかけた。


『陛下、勅命に基づき、ブリタニアのジョージ王子殿下並びにゲルマニアのヴィルヘルム王子殿下を命を救うという際立った格別の功績に対しまして、バス勲章及びロイヤル・ヴィクトリア勲章を授与するため、アリス・フォン・ヒンデンブルク閣下をご拝謁入れます』


 部屋の床を杖で突く音が鳴り響き、それと同時に扉が開かれた。

玉座の間には無数の政府高官や軍の高官、王族が勢ぞろいし、その中央一段上がったところにヴィクトリア女王が佇んでいる。

私は一礼し、ゆっくりと足を前に進めた。


 色とりどりの勲章、軍服に身を包まれた彼らに囲まれて進み、部屋の中ほどで一度、そしてヴィクトリア女王の前でももう一度礼をした。

ふと目線を横に向けると、そこにはジョージ王子が立っていた。

彼はニコリと笑うと、ヴィクトリア女王の方に行くように視線で促してくれた。


 女王の前についた私は、置かれたクッションに左ひざをついて座る。

ヴィクトリア女王は玉座から立ち上がり、傍に仕えるものから儀礼用の長剣を受け取った。

そして彼女は一度私の左肩に長剣をトンと乗せ、その後持ち上げてもう一度右肩に剣を置いた。


 ヴィクトリア女王は側仕えの小姓が持つ、ベルベットのクッションの上に置かれた勲章を手に取った。

バス勲章、ロイヤル・ヴィクトリア勲章という二つの勲章の星章が左胸に付けられ、その重みが伝わってくる。

女王は立ち上がる直前、私の耳元でそっと囁いた。


「私の孫たちを助けてくれてありがとう。私はあなたの勇敢さを決して忘れません。勲章だけでは到底変えられないけれども受け取って頂戴。それととあなたの部屋にプレゼントを運ばせました。喜んでもらえると嬉しいわ」


 ヴィクトリア女王はそう言うと、すっと立ち上がった。

そして私を見て、優しく語り掛ける。


「さあ、サー・アリス・ド・ロートシルド。お立ちなさい」


 サー、それは本来はブリタニア国民に対して与えられる、騎士を意味する称号である。

外人にもかかわらずその栄誉を受けることが出来たということは、ブリタニアの王家・政界がこの事件をそれほど重要視しているかということも意味している。

私は立ち上がると、深く一礼した。


 そして退場であるが、背を向けてはいけないため私は後ろ歩きで退出する。

しかし私がけがしていることも考慮し、両脇には近衛兵がついてくれた。

私はそのまま玉座の間を退出し、近衛兵に介抱されながら部屋に戻った。





 部屋に戻ると、そこには小さな小包が置かれていた。

ブルーのリボンで結ばれた小包を開けると、そこには宝石のついた青いリボンと、一通の手紙が入っていた。

私は手紙の封を開け、中身を読んでいく。


『あなたが被弾したときに、ヴィルヘルムが巻いたガーター勲章でリボンを作らせました。お抱えの宝石職人に作らせたものですが気に入っていただけると幸いです。ガーター勲章星章のミニチュアもつけていますが、本来は貴方にこの勲章を授与したかったものの叶わなかったのでせめてもと思いつけさせました。また保養のために私の別荘を貸し出します。海辺の保養地で傷をいやしてくださいね。あなたの女王・ヴィクトリア』


 私は包まれたリボンを手に取り、それで髪をくくってみる。

ガーターブルーのリボンは、個人的なヴィクトリア女王から私への信認の証である。

私はそのリボンを撫でながら、次の別荘に移るための荷物の整理を始めるのであった。

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