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令嬢将軍はやり直したい【連載版】  作者: Altemith/あるてみす
第1章

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第23話 凶弾

 ジュビリーの会場にいた観客たいは、まるで時の流れが遅くなっているように感じる。

飛び出す一人の男がコマ送りのように少しずつ前に進み、ゆっくりとポケットから銃の鈍い光が姿を現す。

そして視界の端からもう一人――アリスが飛び出す様子が見えていた。


 男は警護が固いヴィクトリア女王をあきらめ、その銃口を向ける先を変える。

彼が銃口を向けた先にはブリタニアの王子のジョージ、そしてヴィルヘルムがいた。

銃弾から逃れられないことを悟りながらも、彼らはなんとか避けようと馬を操る。


「お覚悟を!」


 男はそう叫ぶと、銃の引き金に手をかけた。

絶対に外さないよう、絶対に失敗しないよう……彼はそう思いながら引き金を引いた。

すべては彼の思う通り、そうなるはずであった――


「お命頂戴――な、なんだ!」


 突如彼の視界の端に、ドレスを着たアリスが写る。

そしてそのドレスはジョージやヴィルヘルムの姿を隠すように視界を遮った。

彼がそのことに気が付いた瞬間、既に撃針は雷管を叩いていた。


ドンッ! ドンッ!


 鈍く銃口から音が鳴り、鈍く輝く銃弾が二発放たれた。

放たれた弾丸は、もとの標的をすっかり見失い、全てアリスの体に吸い込まれていく。

刹那、アリスの左肩と左腕からは血が霧のように飛び散った――





「――間に合え、間に合え!」


 私は心の中でそう叫びながら、ヴィルヘルムらの前に立ちふさがる。

女性としての尊厳も恥じらいも捨て、私はドレスを遮蔽物として広げた。

そしてヴィルヘルムへの射線を切るように、男の前に飛び出た。



ドンッ! ドンッ!


 二発の発砲音が聞こえた直後、私の左腕に二発の衝撃が走った。

二発の銃弾が命中し、数秒後に激しい痛みが襲い始める。

血は噴き出していないから動脈は免れたようだが、既に左腕は動かなくなっていた。


「まだ犯人は銃を持っている……再び撃たれる前に――」


 男は想定外の事態に戸惑い、銃を撃つことを忘れていた。

その隙をついて私は男に接近し、慌てた男は再び銃の引き金に手をかける。

しかし距離を詰めた私は、優位な体格差を生かして男の体を押さえつけ、銃弾は虚空へと放たれた。


「お前、何者なんだ! って俺の銃!」


「……身命を賭して陛下をお守りするのは軍人たるものの務め。ましてや私のような死にぞこないであればなおさらだ」


 私は男の銃を奪い、右手と両足にそれぞれ銃弾を浴びせかける。

全てきっちり急所は外してあるので、ただ動けなくなるだけで死にはしないはずだ。

リボルバーに残った薬莢を地面に落とすと同時に、私は激しい痛みで地面に倒れた。


「……ブルク! ヒンデンブルク!」


「……陛下。ご無事ですか?」


 ゆっくり目を上げると、そこには見たこともないほどの焦りに満ちたヴィルヘルムの顔があった。

周囲は騒々しいが、何を言っているのかはあまり聞こえない。

彼は私を抱えると、彼は身に付けていたブリタニアの最高位勲章のサッシュを強引にはぎ取り、メダルがまだ付いたまま傷口の上からきつく縛って止血処置を施した。


「……撃たれるというのはこのような感覚なのですね。戦傷勲章を受章したものの気持ちが分かるようです」


「そんなことを言っている場合か! 全く……」


 私の周りにはいつの間にか人だかりが出来ていて、赤い軍服を着た近衛兵が取り囲んでいるのが見えた。

私を撃った男は強引に連れて行かれたようで、遠くからかすかに彼が叫ぶ声が聞こえる。

『共和国万歳!』――たしかにそう彼は言った。


「アリス! アリス!」


 遠くから、何やら懐かしい声が聞こえてくる。

シャルル、そうだ、ガリア王子のシャルルの声だ。

私が再びうっすらと目を開けると、何度見てきたか分からない彼の顔が見える。


「おや、シャルル殿下ではありませんか。文句の一つでも言いに来られたのですか?」


「この状況でそんな話をしている場合か。一体ヴィルヘルム殿下とはどのような関係なのだ?」


「ただの腐れ縁ですよ、シャルル殿下。貴方よりもずっと長い、ね」


「な、なんだと……?」


 この二人は一体何を言い争っているのだ……

私が呆れたようにその話を聞いていると、人混みをかき分けて二人の兵士がやってくる。

そしてその後ろには、ジュビリーの際に女王を乗せてきた馬車が停まっていた。


「女王陛下の命を受け、貴殿をロッキンガム宮殿へと護送いたします」


「……女王陛下の馬車を、私の血で汚すわけには」


「そのようなことは気にしなくてよいと仰せつかっておりますので、どうかお乗りください」


 その言葉を聞いて私が起き上がろうとすると、どうも体に力が入らなかった。

すると、ジョージとヴィルヘルムが私を持ち上げ、馬車に載せようとする。

半分申し訳なく、半分恥ずかしく思いながらも、私は何もできないのでされるがままにされていた。


「……シャルル殿下」


「なんだ」


「……今のを見て、民衆が暴走したらどうなるかをよく理解なされたと思います。再び、ご自身の行動を顧みてください」


「……考えておこう」


 もう遅いかもしれないが、一応シャルルには忠告しておくことにする。

こんな場面を見たら、彼とて気が変わるだろう。

私は少しでも状況が好転することを願いながら、馬車に身を横たえた。


「ヴィルヘルム様、おやめください! ヴィルヘルム様!」


「うるさい! 余もついていくぞ!」


「まだテロの危険があります! ここは一旦安全な場所へ避難を!」


 ヴィルヘルムは私と同じ馬車に乗ろうとしていたが、周りの近衛兵に制止される。

彼一人の力ではその制止を振り切ることはできず、馬車から引きはがされる。

そして馬車は、まるで女王を守っているかのごとき護衛に囲まれてロッキンガム宮殿を目指し、その間に私は気を失った。

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