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令嬢将軍はやり直したい【連載版】  作者: Altemith/あるてみす
第1章

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第24話 英雄の目覚め

 ロッキンガム宮殿の一室は、臨時の処置室として使われていた。

宮殿というだけあって警備がしやすく、また宮廷付の侍医も常駐していたからだ。

部屋の前には衛兵が配置され、その中では数時間にわたって手術が執り行われていた。


 襲撃の話を聞いたロンディニウム市民は皆、宮殿前に集まって花を供えていた。

そのため、宮殿の前はまるで花畑のように多種多様な花でおおわれることになる。

そんな注目を集める中、部屋の中から汗だくになった医師が出てきた。


 病室の前の控室では、異例に数多くの参列者が待機していた。

皆手術の結果がどうなるのかを気にしており、さらに別の部屋では報道陣も待機している。

そんな不安が渦巻く部屋に、医師がゆっくりと入ってきた。


「ドクター、手術の結果は!」


「手術は無事に成功しました。少しの間は療養が必要でしょうが、安静にして入れば再び腕も動くようになるでしょう」


「……そうか。それは良かった」


 その場にいた参列者たちは一斉に胸をなでおろし、緊張が解けたのかゆっくりと背もたれに体重を預けた。

ヴィルヘルムは処置室に行こうとしていたが、菌が侵入する可能性を良しとしない医者によって止められる。

医師が報道陣に状況を説明するのと入れ替わりに、ジュビリーの主催者であったヴィクトリア女王がやってきた。


「話は聞きました、手術は成功したと。非常に喜ばしく思います」


 女王がやってきたのを見て、その場にいた者は皆礼をとる。

彼女は楽にするように周りに促し、彼女自身はヴィルヘルムの面前に立った。

ヴィルヘルムが女王の顔色を窺っていると、彼女はにこやかに微笑んで彼の耳元で囁いた。


「ヴィリー、良い部下を得ましたね。気でもあるのですか?」


「祖母上。間違いなく、私が生きてきたうえで最も頼れる良い部下であると思います。……しかし、あの令嬢は私の最も信頼できる部下でありますが、愛する人間ではありません」


「そうですか。ガリアの元王妃候補を連れ去って自分のものにしようとしたのかと思いましたよ。貴方の性格を鑑みればあながち無いとは言えないですから」


「……そんなことは決してしません、祖母上」


 ヴィクトリアはニコリと笑い、ヴィルヘルムの頭に手を添える。

そしてゆっくりりとその頭を撫でたが、その時の彼女はただの孫を撫でる老婆のように見えた。

しかし頭から手を離すと、彼女は再び女王の顔つきに戻った。


「……犯行を行った男が、つい先ほど自分が共和国主義者であり、帝政打倒の狼煙火となることを目指していたと話しました。ブリタニアは世界で最も自由な国です。我々には誰もが発言する自由があり、誰もが選挙に参加する自由があります。我が国の歴史が育んで来た議会政治の原則に乗っ取り、主張を通すには決して暴力に訴えることなく、常に何人も対話の姿勢を忘れないとを切に願います……」


 ヴィクトリア女王は淡々と、しかし明白に怒りを含んだ口調でそう話す。

彼女にとってこの手のテロは初めてではなく、むしろブリタニアにとどまらず世界中で起こっていることを知っていた。

しかし彼女は、自分ではなく愛する孫たちが狙われたことに強い怒りを抱いていた。


「悪しき暴力を許してはなりません。我々王族は、このようなテロ行為に対して最も強い形での非難を行います。……しかし私一人がそう言ったところで、社会全体としての潮流を変えることはできません。そこで、我々は共に手を取り合い、古き良き王政の維持に努めねばならないと思うのです」


「私も同じ意見です、祖母上。我々の玉座は天から与えられたものであり、何人にも侵されざる聖域です。この与えられし聖域の守護に努めると同時に、その聖域によってあまねく国民を護ることこそ、我々の役割です」


「……よく言いました、ヴィリー。私はこうしてゴールドジュビリーを迎えることが出来ましたが、この先も同じように君臨し続けることはできません。揺らぎ始める国際情勢と国内情勢の双方を鑑みて、この際に再び団結を呼びかけます。どうかそのことを、忘れないでください」


 ヴィクトリアのその言葉は、決意とともに悲しみに満ちていた。

彼女の言葉はその場にいたものの心の中に静かに刺さり、その場の人を見えない鎖で括り付けた。

そして彼女は優しく微笑みかけ、こう言った。


「さあ、今はアリス嬢が無事に回復することを祈りましょう。そして難しいことはその後に考えましょう」


 ジュビリーは中止になったが、ヴィクトリア女王は自分の望んだ結果は達成されたように感じていた。

崩れかけていた各国の関係を繋ぎとめ、自分の死後に戦争になることを避けるという目的。

その中でも彼女が最も気にかけていたヴィルヘルムが改心した様子を見て、彼女は静かにアリスに感謝をするのであった。





「……どういうこと? お姉さまが撃たれたの!?」


「そうだ。ゲルマニアのヴィルヘルム王子とブリタニアのジョージ王子を庇って身を乗り出したからだ。今は手術を受けて命に別状はないらしいが、しばらくは安静にしておく必要があると」


「そもそも、なぜお姉さまはこのジュビリーに参加しているの? お父様もお姉さまの行方を隠していたから知らなかったけれども、お姉さまはどこで何をしているの?」


「そうまくし立てないでくれ、ジュリー。わかる範囲で伝えると、アリスはゲルマニアと何かしらの接点を持っている。それがどのような形かはわからないが、少なくとも王子のヴィルヘルムとは親密な関係にあるようだ」


 事件の後、アリスの無事を聞いたシャルルは、滞在している離宮に戻っていた。

彼はジュリーの部屋を訪れて、今日彼が実際に見たアリスの狙撃に関することを事細かに知らせる。

その話を聞いた彼女は、居ても立っても居られないといった様子であった。


「……お姉さまの見舞いに行ってきます」


「まだ誰も面会はできないらしい。それよりもジュリー、君はアリスのことが憎かったのでは?」


 シャルルがジュリーにそう聞くと、彼女は呆れたような顔で言った。


「お姉さまとは恋のライバルであり幾度も対立することがありましたが、あくまでも姉としては非常に慕っております。例え血のつながりがなかったとしても」


 ジュリーは静かにそう言い、窓から見えるロッキンガム宮殿を見つめた。

遠目からでもわかるほどの花の山を見て、彼女はどこか安堵のような気持ちを感じていた。

自分の姉が再び素晴らしい人と出会えたのだと、そのことを心から祝福していた。

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