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令嬢将軍はやり直したい【連載版】  作者: Altemith/あるてみす
第1章

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第18話 再びの外遊

 私、ルーデンドルフ、そしてヴィルヘルムの3人を中心に進められる図上演習。

結論から言うのであれば、私たちは完膚なきまでに西軍を押しつぶし敵の首都の占領に成功した。

西軍は反撃をする暇も与えられず、国境線沿いに引かれた厚い防衛線ですら後部からの奇襲によって壊滅させられた始末だ。


 勝利を得た東軍の部屋は、前回の防衛成功の時以上に喜びに満ち溢れていた。

それは皇帝が臨席している中での勝利であるからでもあり、帝国士官が長年悲願としてきたガリア王国に対する攻撃成功、最終目標の演習場での達成を見ることが出来たからでもある。

ともかく部屋中が歓喜に満ち満ちていると、扉が開かれる音が全員の耳に響いた。


 音に気が付いた私たちは、扉の方を見る。

そしてそこにいた人を見た瞬間、私たちは一斉に直立不動で敬礼の姿勢を取る。

部屋に入ってきた人――それは時の皇帝ヴィルヘルム1世であった。


「……楽にしてよい。ヴィルヘルム王子、よく東軍を勝利に導いた。それでこそ栄えある帝国の総司令官たる姿だ」


「身に余る光栄です。しかしこたびの勝利はここにいる、参謀総長と参謀次長たるヒンデンブルク、ルーデンドルフ両名の助言あってこその勝利でございます」


 私はその言葉を聞いて心底驚いた。

自分を大きく見せ、派手好きのヴィルヘルムが手柄を独り占めせず、私たちを紹介する。

……そうか、彼もまた少しずつ変わろうとしているのか。


「ヒンデンブルク嬢にルーデンドルフ嬢だな。話はアウグスト退役大将からよく聞いている。非常に優秀だとね。……特にヒンデンブルク嬢、君は最近ヴィルヘルムと仲良くしているそうではないか」


「……」


 皇帝のその発言は、おおよそ失言と捉えてもよいものであった。

周りの生徒たちもざわつき始め、ヴィルヘルム――私の主君のヴィルヘルムも呆れた表情を隠そうとしない。

サヴォイア公もそうだが、女性の体であるとどうも誤解されることが多くて困るものだ。


「ヒンデンブルク嬢、貴官には少し話がある。車を用意させるからそれで王宮に来るように」


 ヴィルヘルム1世はそう言うと、私の顔を見てにこやかに微笑んだ。

断るわけにもいかないので、私は心得た旨を伝える。

その時、背後でアウグスト退役大将が笑っているのが横目で見えた。





 もう何度も訪れた王宮の車寄せに停まり、ドアが開けられる。

いつも通りの侍従武官が私を出迎えてくれて、私は王宮へと入っていく。

しかし今日はいつもとは違い、正面の階段へと案内された。


 バロック調に装飾された大理石の階段を上り、私は皇帝の書斎に隣接したサロン室へと案内される。

前世にこのような経験は積んできたとはいえ、皇帝と一対一で話すのは今世では初めて。

自分でも驚いているが、緊張しているのか少し手汗がにじんでいた。


「ヒンデンブルク伯爵家ご令嬢、アリス・フォン・ヒンデンブルク様のご到着です」


 侍従武官はそう告げ、部屋の扉のうち片方だけを開けた。

私は今日は軍服ではなくドレスを着ているので、部屋の前で一度カーテシーを行い、部屋に入る。

そして皇帝と扉の中間で一度、そして皇帝の前でもう一度の計三度のカーテシーを行い、彼の前に立った。


「そう緊張しなくともよい、ヒンデンブルク嬢。楽にしたまえ」


「……ご尊顔を拝し、光栄に存じます」


 目の前に立つ、優しげながら威厳をたたえた表情のヴィルヘルム1世。

ヴィルヘルムの祖父でもある彼は、まさに皇帝と呼ぶにふさわしいいで立ちであった。

彼は私の表情を伺うと、冗談交じりでこう言った。


「先ほどの君のカーテシーは見事であった。典型的なゲルマニアの貴族というよりかはむしろ、洗練されたガリア宮廷の所作に近しいものが感じ取れた。さすがは元王妃、アリス・ド・ロートシルド公爵令嬢よ。ヘルベルトから話は聞いているよ」


「ヘルベルト様から……私が亡命してきた身であると?」


「いや、単に優秀な人に出会ったという評価を、彼の父親であるオットー越しに聞かされただけだ。似たようなことはベティッヒャーやボッセからも聞いている。皆君を高く評価していたよ」


 給仕が紅茶を運んできたので、私は皇帝に勧められて椅子に座り、紅茶をいただく。

初対面の私に対しては破格の対応ともいえるが、それは私を高く買っているというよりかは扱いにくい爆弾のように思われているのだろう。

私がカップをソーサーに置くと、彼はゆっくりとまた話を始める。


「……君が最近孫のヴィルヘルムと親しくしていると聞いている。一部では恋愛的なこともささやかれているようであるが、君であればそんなことはないと信じている」


「もちろんでございます。ヴィルヘルム様とはあくまでも同期の士官、そして将来お仕えすべき存在であると肝に命じ、日々接させていただいています」


「それは結構。君のような優秀な人材がいれば、孫の代でも帝国は安泰だろう。……しかしそんな君であれば知っているとは思うが、あの子は少し周囲との疎外感を抱えている。それは自身の体のこともあるだろうし、母親との関係もあるだろう……。そんな孫と対等に接することが出来る君は、彼にとっても無視できない存在となっている……」


 ヴィルヘルム1世が何を言わんとしているのか、私にははっきりしなかった。

彼は少し言葉選びに迷っているのか、紅茶を一口すすって間を開ける。

そして一息つくと、彼は再び話始めた。


「そんな君を見込んでの頼みがある。これはヴィルヘルムにとっても、帝国にとっても非常に重要となる頼みだ」


「……と言いますと?」


「……君には、孫のヴィルヘルムの付き添いとして、ブリタニアに行ってほしい」


 ブリタニアに行け、それは何を意味しているのか。

その時の私にはまだ想像もつかなかったが、この一言が今後の世界情勢を大きく変革させることになる。

それが私の、私たちの『やり直し』におけるターニングポイントにもなるのは、まだ少し先のお話だ。

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