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令嬢将軍はやり直したい【連載版】  作者: Altemith/あるてみす
第1章

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第16話 伝説の3人

 再び士官学校に戻ってから、一月ほどが経とうとしていた。

特にその前後で変わったところはなかったが、ヴィルヘルムとは時を共にすることが多くなった。

彼は無意識に、自分を肯定してくれる立場を求めているのだろう。


 ある日、私はヴィルヘルムと、自分たちの過去について語り合っていた。

語り合っていたといっても、彼の愚痴や遺恨を聞いている時間が大半であるが。

この話は一応この世界のことではないので、私たちは人気のないところで話すようにしていた。


「余はヒトラーめの軍がパリを占領した際、必ず余を帝位に戻すであろうと確信していた。だが実際はどうであっただろうか? 国防軍の将軍らがあいさつに来る以外何もなさなかったではないか! 余が30年国民に尽くしてきた答えがあれであったのか!」


「……」


「全く、あのオーストリアの画家風情が……うん?」


 ヴィルヘルムが文句を言うのを止め、部屋の扉を見つめる。

何かと思い私も扉の方を見ると、そこにはダイナが立っていた。

それも、いつも見る冷徹な表情ではなく、何かを憎むように歪んだ顔で、だ。


 ダイナはその表情のまま、彼女はこちらに迫ってくる。

私もヴィルヘルムも、何が彼女を怒らせているのか分からなかった。

そして彼女は、ヴィルヘルムに敬意を表しつつもはっきりと述べた。


「王子殿下。先ほどオーストリアの画家風情とおっしゃりましたか?」


「……確かに言ったな。だが架空の世界の話だ、気にするな――」


「ヴィルヘルム王子殿下、そしてアリス……貴方たちはもしや、同郷の人間なのでは?」


「それはそうだろう。我々はゲルマニアの――」


 ヴィルヘルムはそう言うが、ダイナの表情は変わらない。

――ああ、私が彼女に初めで出会ったときに抱いた違和感、それは間違っていなかったのかもしれない。

彼女は、まさしく――


「私が言っている同郷とはドイツのことです! オーストリアの画家風情とはあのヒトラーめのことでしょう! 違いますか!」


「……その通りだ。そうか、君も余たちと同じか。ならば皇帝たる余に対してその態度、いかがなものかと思うがね?」


「へ、陛下ですって? まさか、ヴィルヘルム2世陛下……」


 ダイナは一歩引きさがり、一応臣下の礼を取る。

だがそんな彼女の顔には、どこかヴィルヘルムに対する侮辱の色が浮かんでいた。

その表情、そして今までの発言……彼女は、私の人生における最も大事なパートナーと瓜二つだ。


「久しぶりね、我が次長よ」


「アリス、そう……貴方もだったの。苗字が同じなのはきっと何かの運命だと思っていたけど」


「それは私もだ、ルーデンドルフよ。こうして再び出会うことになるとは思わなかったぞ」


「……それは余も同じだ。バレバレの変装でスウェーデンに逃げ込んだ、哀れな参謀次長殿よ。余をオランダに放り込んでおきながら営んだ、奇天烈な執筆生活はどうだったかね? 貴官が望み実行した総力戦、自身を擁護し余に責任を押し付けるようなその本を書いていた気分は!」


 最初こそヴィルヘルムはダイナ、もといルーデンドルフをあざ笑うかのように話していた。

だが次第に怒りが湧いてきたのか、彼はついに声を荒げてルーデンドルフに怒りをぶちまける。

それをルーデンドルフもまた、嫌そうな顔で聞いていた。


「陛下もお判りでしょう。我がドイツ帝国が負けたのは作戦の不備でも民族の欠落でもない、卑怯なユダヤ人どもが背後から一突きに我らを刺した結果だというのは!」


「それは認めよう。だが我がドイツとは何のつもりだね! ドイツ帝国は余の帝国であり、その総覧者は余だ! 貴官のような中産階級上がりの一将校が好きに動かせるものではない! それも敗因の一つだ! それが分からぬゆえ、貴官は高潔たるドイツのキリスト教精神を失い、まやかしまがいの宗教に傾倒するのだ!」


 二人の口論はどんどんエスカレートし、罵声が飛び交う。

それはまるで子供の喧嘩のようであり、お互いに自分の非を認めたくないが故の口論であった。

そんな馬鹿馬鹿しいことに付き合っているわけにもいかないので、私は口を開いて仲裁に入る。


「……いったん落ち着いてください。プロイセン軍人たるもの、そのような惨めな姿を晒すものではないでしょう? それに――ドイツはもうないではありませんか」


「「……」」


「もはやこの世界においてドイツ帝国は存在せず、それが存在するのは我々の心の中だけです。そんなものの責任をいつまでも押し付け合っていても、何も進みませんし帝国が戻ってくることはないのです」


 もうドイツ帝国はない――それは私も含めてこの場の三人が誰一人認めたくない事実だ。

だがそれをあえて口にすることで、他の二人は落ち着きを取り戻した。

その後に残っていたのは、ないものを一生言い争っていたことへの虚無感だけであった。


「……ドイツ帝国の古き良き精神は、我らなき後も残っていました。それを破壊したのはあの伍長です。私をまんまと広告塔に使って世間を欺き、支持を拡大して帝国の文化を瓦解させたあの男が!」


 ルーデンドルフは、非難する矛先をヴィルヘルムからヒトラーに切り替えた。

この場にいない者のことを蔑み、湧き上がる感情を抑えようとしているのだ。

そしてそれには、ヴィルヘルムも同調した。


「その通りだ。あの男は余を帝位に戻させなかった挙句、ユダヤ人の虐殺も行った。確かに余はユダヤ人を嫌っているが、それでもあそこまで迫害しようとは思わない。あの男が起こした虐殺――水晶の夜は、私が唯一ドイツ人であることを恥じた事件だ」


「……私もヴァイマルの大統領としてあの男のことは好いていませんでした。伍長風情が元帥たる私に対して対等であろうとし、さらにスキャンダルを良いように利用して首相の座を用意するように迫った。まさにペテン師です」


 ここは会話を合わせておくべきだと考え、私は同じようにヒトラーを蔑む。

その言葉のほとんどは本音であり、その言葉に他の二人も同調した。

私も含めその場の全員は、これでいいと思っていた――はたから見れば、いない者のことをこき下ろして優越感に浸る、まさに子供じみた所業であるというのに。

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