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令嬢将軍はやり直したい【連載版】  作者: Altemith/あるてみす
第1章

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第11話 白紙の小切手

 衝撃であった、ヴィルヘルム二世——私の主君との再会。

最初は皮肉こそあったものの、最終的には過去のことは水に流すと彼は言った。

その気分屋な姿は、自分の中にある彼の在りし日の印象と何一つ変わらなかった。


 これでこの世界における私の知り合いでは、ドイツのことを知っている人が2人になった。

なぜ私たちが姿を変えて生き返ってこの世界にいるのかは分からないし、分かる気もしない。

これはもしかすると、神による思し召しなのだろうか……


「そういえば元帥。先ほど帝国に融資をすると言っていたな? そのことで話がある」


 アルコールが少し回ってきたヴィルヘルムは、少し赤い顔で私の方を見る。

私は手に持っていた空のグラスを机に置き、ゆっくりと椅子に腰かける。

何も入っていないグラスを見た彼は、ワインをつぎ足しながら私に話を振った。


「融資を受けるのはありがたいが、無論金を直接もらうわけにはいかない。そんなことをしたら余が議会に追及されるからな。この世でも議会は面倒だ」


「……では、どうするべきと?」


「私の知り合いでもあるベティッヒャー内務副長官を紹介するゆえ、彼と明日にでも会談してくれ。士官学校には上手いこと言っておこう」


「……陛下のご意向とあらば」


 ヴィルヘルムは紹介状を書き上げ、封蝋を強く押した。

紹介状を私は受け取り、無くさないようにしっかりとカバンの中にしまう。

その時、部屋に置いてあった時計が2時を示した。


「……もうこんな時間か。元帥、今日は王宮に泊まって生きたまえ。部屋は用意しよう」


「いえ、それには及びません。一旦オイゲン様の屋敷に帰れば……あっ」


「? どうしたのだ? ……あっ」


 私は大事なことを失念していた。

恐る恐るサロンの扉を開け、廊下を覗く。

するとそこには……


「いったいいつまで待たせるつもりだね? アリス君。しかも酒まで入っているようではないか」


「……申し訳ございません」


「全く……。君たちがどのような関係であろうと何も言わないが、少しは老人を敬ってくれ」


「ご冗談を。私たちはそのような関係ではありませんよ」


 廊下で一人ビールを飲んでいたサヴォイア公は、私を恨めしそうに見た。

彼は何やら勘違いをしているようだが、酒も回っている以上言ったところで仕方がないだろう。

そう思いながら、私は彼を介抱して王宮を後にした。





 翌日正午、ヴィルヘルム通り。

時の皇帝であるヴィルヘルム1世にあやかって名付けられた道で、帝国の官庁が集まっていた。

そんな通りに止められた黒い車から私はおり、衛士が立つ内務省の玄関口に向かった。


「失礼ですがご令嬢、ここは内務省です。御用がなければ……」


「内務副長官のベティッヒャー殿と面会したく存じますわ。ヴィルヘルム王子様から紹介をいただいているのだけど……」


 紹介状を渡すと、衛士は中身を改め、何やら確認を取っているようだ。

ヴィルヘルムが根回しをしてくれると言っていたが、昨日の今日であるし仕方がないか。

そう思いながら待っていると、確認が取れたのか扉が開かれた。


「お待たせしました、アリス様。ベティッヒャー様の副官のボッセと申します。ヴィルヘルム王子殿下からお話は伺っております」


「ボッセ様、ご丁寧にありがとうございます」


「では、こちらに」


 ボッセと名乗る立派な白いひげを蓄えた男は、二階の内務副長官室へと私を案内する。

内務省の役人は、軍服を着てやってきた私を不審な目で見てくる。

だがボッセが目線で牽制しているので、彼らは大人しく縮こまっていた。


 ヴィルヘルム通り沿いの廊下をしばらく歩いたのち、マホガニー製の重厚な扉が前に現れた。

ボッセは扉を開けて中に私を案内し、そのさらに奥の部屋へと連れていく。

さらに先にあったこれまたマホガニー製の扉を通り抜けると、そこに件の人はいた。


「初めまして、アリス嬢。いや、アリス・デ・ロートシルド殿」


「お初お目にかかりますわ。本日は無理に時間を取っていただきありがとうございます」


 ベティッヒャー内務副長官は私に椅子に座るよう勧めてくれた。

言葉に甘えて椅子に座った私に、書記の一人が紅茶を持ってきてくれる。

それを一口飲んだのち、ベティッヒャーは静かに話し始めた。


「アリス・デ・ロートシルド……世界の経済を裏で握るロートシルド家の令嬢であり、ガリア王国の王太子の婚約者。そのような方とこうして話すことになるとは」


「そうですわね、ベティッヒャー様。まさに運命のいたずらですわ」


「……では早速本題に移るとしましょう。ヴィルヘルム殿下からお話は伺っていますが、我々に対して口止め代わりに金を融資する……そういうことですね?」


「言い方を悪くすればそういうことになりますわね。優雅に言うのであれば結納金、でしょうか」


 私の言葉にベティッヒャーは苦笑いし、席を立った。

そして彼の書斎机から一枚の紙を取り出し、それを私の前に置く。

私がその紙に目線を落とすと同時に、彼は話し出した。


「あなたがこの金を結納金というのであれば、戸籍が必要となるでしょう? 故に用意しておきました。少し前に断絶した伯爵家の令嬢に書き換えてあります。もちろん、家名はヒンデンブルク家に変更させていただきました」


「お仕事がお早いことで。ありがたく受け取らせていただきましょう。では、これを差し上げましょう」


「……これは」


 私は一枚の紙きれを、ベティッヒャーの前に差し出す。

彼がその紙に目を通した時、思わず目を疑った。

その紙きれ——それは白紙の小切手だったからだ。


「ロートシルド家の貴方が、この白紙の小切手の意味を知らないとは思えません。本気ですか?」


「もちろんですとも。ヴィルヘルム王子殿下と内密に話し合い、好きなだけ0を書き加えてくださいな」


 ベティッヒャーは呆れた顔で私を見つめ、震える手で小切手を見つめる。

――その後、私たちは少し雑談をしたのちに内務省を離れることになった。

ただ、士官学校に戻るまでにはまだやらねばならないことがあったのだった。

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