第82話 折れそうで折れない、丈夫な剣
結界を叩き割った余韻に浸ることなく、前へと足を向ける。
いつ何がくるかわからねぇから、剣はもう握っとこう。よっぽどなこと起きない限りは、大丈夫だろ。
ちょっと油断してたのかもしれない。単純に考えなしだったのかも。気が急いでいたからかもしれない。
「アキーラくん!」
『アキーラ!!』
後ろから、叫び声が聞こえた。
突然のことに飛び跳ねそうになりながら振り向くと、見えない壁のようなものを必死に叩くみんなの姿。
あれ?入れたの俺だけ?
「アキーラくん!早く戻って!」
ゾフィーの焦る声が響く。
でも、これは好都合だな。
これなら、誰も巻き込まずに済む。
「ゾフィー、行ってくるわ。」
「アキーラくん?君を一人で行かせるなんて──」
「ゾフィー、ありがとな。ここまで付いてきてくれて。」
今までちゃんと言えてなかった。
「ちょっと──やめてよ、アキーラくん……。」
「大丈夫、必ず帰るから。」
「〜〜〜〜〜っ!わかったよ。本当に、君って人は……約束だからね。」
「おう、約束な。」
見えない壁に遮られて、もう、触れ合うことは出来ないけど。
ゾフィーの手の上に、自分の手を重ねる。
「アキーラくん、私は……いや、やっぱり言わない。」
「なんだよそれ。気になるんだけど。」
「気になるなら、帰ってきてから教えてあげるよ。これも約束ね?」
「……わかったよ。信用ねぇなぁ俺。……じゃ、フレイヤ、フレイ、レオ、後は頼んだ。」
『気を付けてね。それしか言えないのが、何とも情けないけど。』
フレイとレオも頷いている。
……行くか。
「行ってくるわ。そんじゃーな。」
出来るだけ重くならないように。
片手を上げながらみんなから離れて、神殿へと向かい合う。
気付いてないわけ、ないよな。今から行くから、待っとけよ。
後ろからの名残惜しそうな視線を、カンストした気配感知が教えてくれる。
振り向くことはしない。必ず帰るからな。
「さて、この中が迷路とかだとお手上げだぞー。」
大きな神殿だ。何階建てか知らんけど、間取りが複雑じゃないといいな。
大きく息を吸い、神殿の階段を進む。
十数段ほどの階段を登り切った先に、柱と屋根だけの広場……広間?
「柱廊って言うんですよ、アキーラさん。」
背筋が凍る。
鳥肌が立つ。
肌が粟立つ。
どんな表現も足らないような、悪寒。
聞き間違いようの無い声。
あいつの──邪神の声だ。
「どこだ!」
俺のスキルは一切反応していない。気配感知も、危機感知も、心眼すらも。
「怖がらないで?私は奥で待ってますよ。邪魔がなくなったのが嬉しくて、つい声をかけてしまったんです。ごめんなさいね?」
「……なんだ、不意打ちはなしか?思ったより、真っ当だな?」
精一杯の強がり。近くにいないと知って、ホッとしたことは、多分伝わってる。
「うふふ、私、ちゃあんと味わいたいんです。アキーラさんを。ボコボコに、してくれるんでしょう?」
「はっ、神国で言ったこと、律儀に覚えてんのかよ。今から行くから待ってろよ。」
震えるな、声。
今だけ、今日だけは、どんな恐怖であっても笑い飛ばしてみせろ。
「うふふふ、あははははははは!!変わらない!変わらないのね!!もう何も知らない無垢な子じゃない、人を殺して、強くなってなお!私との距離も理解して、それでもなお!!まだ強がれるのね!?早く来て!来て、見せて?アキーラさんの、ゼンブ……。」
広間みたいな先にある、重そうな扉が一人でに開く。
扉の先は、真っ暗闇。
何があるのか見えないが、何があるかはわかっている。
わかった上で、なお進むのだ。
勝ち方はわからない。
わからないけど、やるしか、やるしかない。
「──っ、なんだ?」
剣が、震えた気がした。
気のせいかもしれない。わからない。
でも──
諦めることは、逃げることは許さないと、エルザに言われた気がした。
「……そうだな、お前はまだ、折れてない。──俺も、折れてない、折れない。」
前を見る。
遠く、この先にいるだろう邪神。
そこに向かって、歩みを進める。止まらない。
止まらなければ、諦めなければ、必ず出来るのだと、そう信じて。




