第80話 アキーラの剣
「でっけぇ約束しちまったなぁ。」
エルザの工房を出て、一人でつぶやく。
後はもう、明日考えよう。
少しだけ軽くなった心と体に、我ながら現金だなと思う。
何がなんでも無事に帰ってきてやる。
そう決意だけを、新たにして。
ゾフィーの家に帰り、飯を食って、眠る。
俺がバカやらなけりゃ、基本何も起きないということに気付いて笑っちまった。
朝になって目覚めたとき、手のひらを見ながら思う。
今日俺は、邪神を斬る。
あいつを斬って、終わらせる。終わらせてみせる。
そうやって決意を新たにしていると、ゾフィーがやってきた。
「アキーラくん、朝だ……起きてるね、珍しい。」
「さすがにな。寝起きで体が動かないなんて洒落にならんし、ちょっとエルザに剣もらって、体動かしてくるわ。」
「うん。あ、アキーラくん。」
部屋を出ようとした俺を、ゾフィーが呼び止める。
「なんだ?」
「やりたいこと、たくさんありそうなんだ。付き合って……くれる?」
「んん?まぁ色々と助けてくれたしな。俺にできることなら言ってくれよ、なんでもするから。あ、でも痛いのはナシね。」
「ふふ、約束だよ……いってらっしゃい。」
「お、おう、行ってくる。」
ゾフィーへ別れを告げて、家を出る。
なんかゾフィーとエルザ行ったり来たりしてんな俺。
それにしても、ゾフィーの笑顔、ちょっとドキッとしちまった。
いかんいかん、集中せねば。
頭を振って邪念を飛ばし、エルザの工房へと向かう。
エルザのことだし、朝から待ってそうな気がしたのだ。
早く行ってあげた方がいいだろう。
「エルザー、いる──」
「待ってたよアキーラ。上がって?」
「……おう。」
今俺ノックした?してないよな?
ドアの前で待ってたの?
いつから?
とても聞けそうにないし、素直にお邪魔しよう。
「失礼しまーっす。」
ドアをくぐると目の前で剣を握って立つエルザと目が合う。
早くない?
てか近くない?
「この子、アキーラと戦いたいって。まだやれるって言ってる。」
「言ってる……って、この剣がか?」
「うん、アキーラの剣だから、かな。あたしが持つのも嫌みたい。」
そう言いながら、剣を差し出してくるエルザ。
よくわからんけど、受け取ろう。
「ありがとう、エルザ。この剣、研ぎ直してくれたんだろ?」
「うーん……その件なんだけどね。研ぎの必要がなかったんだよ。」
非常に言いにくそうに告げるエルザを、思わず二度見してしまう。
必要ないって、そんなわけあるか?
俺だって一応なんちゃって整備してきたけど、それで十分じゃないのなんてわかりきってるぞ。
俺が余りにもわかりやすいリアクションをしたからだろう。
エルザが説明の続きをしてくれる。
「これは、あたしの予想……というか願望なんだけどね?」
「おう。なんだ?」
「昔っから、神話とかおとぎ話に出てくるような武器ってさ、何ていうかワガママなんだよね。」
ワガママ?なんじゃそりゃ。
「武器は武器だろ?」
「うーん、例えば、自分が選んだ者にしか使うことを許さない、とかね?後は自我があったり、何かしらの代償を持ち主に求めたりとか。」
なーんか思い当たるなぁ……。
確か、この街を出たときだ。
エルザにこの剣を託されて、鑑定をしたあの時。
なんか凄いことが書かれてた気がする。
もっかいしてみるか。
……鑑定!
アキーラの片手剣:稀代の鍛冶屋エルザが、ただ一人の人間の無事を思い打ち直した片手剣。切れ味はそれなり。だが、その刃は決して折れず、曲がらない。持ち主がどれだけ無茶をしようとも、最後まで付き従う。──その代わり、逃げることは許さない。願わくば、この剣の持ち主がどうか無事でありますように。売却不可。というか、禁止。
ああ、そういえばこんな感じだったな。
なるほどぉ?
それなりの切れ味と強度を保証する代わりに、絶対に逃げられない、ってことか。
「なるほど……。つまり俺は、エルザに守られてたんだな。改めてありがとう、エルザ。」
「なっ、なななななな、何よ急に!──っ、と、とにかく、この剣が、そういうおとぎ話に出てくるような子になってくれれば、嬉しいっていうか、それなら、アキーラも無事に帰ってこれるかな、って……。」
「うん、そうだな。俺は邪神を倒すわけだし、それならこの剣は伝説の剣ってわけか。いいねぇ!」
「だったらいいなって、思っただけだよ。……っていうか、笑わないんだね、やっぱり。」
「ああ?なんで笑うんだよ。勇気もらったぜ、俺は。」
「……勇気?」
「今だから言うけど。ぶっちゃけ怖かった。勝てねえかも、って本気で思ってたよ。」
「アキーラ……。」
「でも、逃げたらみんな死んじまう。何とかできるとしたら、俺しかいないって女神様に言われちまってな。ガクブルしてたら、この剣が言ってくれてたわ。」
「剣が言ってた……?なんて?」
「最後まで付き合う、逃げるな、ってな。なら俺も、前向いて進まなきゃな。」
「そっか。ならあたしはここであんたを待ってるよ。」
「おう、すぐに帰ってくるよ。今度は飯でも食いながら喋ろう。」
「そ、それって、デ、デート?もしかして……。」
「はは、そうだな。デートしようぜ!じゃ、行ってくるわ!」
「うん。いってらっしゃい!!」
神妙な別れは、俺には似合わねえ。
ゾフィーとの約束も、エルザとの約束も、全部背負って勝って帰る。
それだけだ。
エルザから剣を受け取り、腰へと下げる。
いつもの感覚に安心感を得ながら、宿屋へと向かう。
レオの準備はもう終わっているだろう。
いよいよ、今日。
俺は邪神と戦う。
勝たなきゃいけない理由はたくさん。
勝ち方はわからんまま。
それでも何とかする。
何とかしてみせる。




