第77話 忘れるなよ。
「あ、レオ・クライン様が来られましたよ。」
久しぶりだな。そういえばこいつ、こんな顔だったか。
目の色と髪の色はフレイヤと完全に同じだ。
どことなく、フレイヤの男性バージョン、別アバターなんてイメージが湧いてくる。
受付のリサちゃんに軽く会釈をして、レオへと向き直る。
向こうも俺を認識してるけど、頭にはてなマーク出てるな。初対面、だもんな。
俺はできるだけ平静を装いながらレオへと話しかける。あんまり、こういうの得意じゃないんだけどな……。
「やぁ、初めまして。えーっと、レオ、でいいかな。俺は、アキーラって言うんだけど。」
「アキーラ、さん?……初めまして。僕に絡む目的……じゃなさそうですね。何か御用ですか?」
ああ、こんな感じだったか。どこか丁寧で、良い奴。
でも、顔には疲れが浮かんでいる気がする。
「少し、ここじゃ話しにくい内容なんだ。できればどこか静かな場所で話したい。」
「……僕はあんまりお金持ってないから、奢ってくれるなら。」
「はは、お金は大事だよな。大丈夫、奢るよ。」
ゾフィーから借りたサイフが火を吹くぜ。
俺の火力を舐めるなよ!!
2人で街を歩き、通りにある酒場に入る。
まだ日が落ちていないからか、客はいないみたいだ。
「マスター、エール2つと適当にツマミちょーだい。」
カウンターから離れた席に座り、レオへ着席を促しながら注文をする。
「……慣れてるんだね。」
「んー?まぁ、旅やらなんやら、外食の機会が多いからなぁ。」
「そう、なんだね。……それで、僕に何の用?」
レオが説明を催促してくるが、まぁちょっと待て。
給仕の女性がエールとツマミを持ってやってくる。
「はい、お待ち。」
「ありがと、これ、少ないけど。」
「あら、ありがとね。」
「ああ、気にしないで。それと、今から内緒話がしたいから……。」
「ふふ、あいよ。じゃ、何かあったら声をかけてね。」
エールを受け取りながら、銅貨を数枚渡す。これでしばらくはそっとしてくれるだろう。
お互いにエールを持ち、ジョッキを軽く打ち合わせる。
「かんぱーい。」
「か、かんぱい。」
…………うーん、ぬるい。
まぁこんなもんだろう。
「……で、用事だな。レオ。邪神の神殿、知ってる?」
「っ!!」
俺の言葉に反応したレオが、慌てた様子で立ち上がり剣の柄を握る。
ここが酒場なのと、俺が敵かわからないから抜くのを躊躇ってるな。
「まぁ、落ち着いてくれ。とりあえず知ってる前提で進めるけど、それでいい?」
「……なぜ邪神を知っている。」
「俺もあいつを倒したいんだよ。あ、レオもだろ?」
「……続けて。」
まだ剣の柄から手を離さずに、アゴで促す。
まぁいいけどね。
「んー、女神教の神様、女神フレイヤからのお告げ、神託でね。邪神を倒したいんだけど、あいつの居場所がわからない。……で、君の存在を女神様から直接聞いてね。」
「……女神様を知ってるの?──って、今直接聞いたって言った?」
目を見開きながら、俺に問い返すレオを宥めながら、話を続ける。
「知ってるし、聞いたよ。何ならこの街にいる。今は聖女様と一緒だな。」
「そう、なんだ……。」
「納得したなら、座れば?あ、ツマミ食べよっと。」
俺から戦意がないことを理解したのだろう。
剣から手を離して座り直すレオ。
「それで、邪神の神殿に行きたいって、言ってたけど。」
「ああ、場所知ってるか?」
「知ってる。この街を出て、北へとまっすぐ進んだ先にある、森の中。」
森の中、か。
空から見ればわかるかな?
「結界が張られてるから、外からは見えないよ。森の中を進まないと行けない。」
「なるほど。ん?今喋ったっけ?」
「ふふ、アキーラさん、わかりやすい顔してるから。」
「そうかな?」
こちらの立場を明かしたからか、少し柔らかくなった雰囲気だ。
「で、今日行くのか?」
「……邪神の神殿に、ってことですよね?そのつもりです。僕はそのために、この世界に呼ばれましたから。」
「死ぬぞ?というか──」
「何度も死んでる、ですよね?」
「……気付いてたか。」
「あはは、さすがに気付きますよ。朝目覚めても変わらない所持金、変わらない自分、でも周囲の反応は変わってるし、季節だってどんどん……。」
「レオ……。」
「今は、毎日朝起きたときに書き置きを残してるんだ。今日はこれをするつもりだ、ってね。そうすれば、明日生き返った僕が気を付けることができるからね。ま、これも昨日の僕の受け売りだけど。」
本気なのか、それとも冗談なのか。レオにとって、死は日常でありながら、自分の認識の外にあるみたいだ。
「その、生き返るのは、宿屋とかで?」
「うん。死んだ日の朝の状態に戻るんだよ。死んだ日に目覚めた場所でね。」
「そうか。」
俺と出会ったのは、街に来てばかりのころだったよな。それからずっと、周りとの温度差に苦しんでいたのか。
「僕の説明は以上かな。でも、何をすればいいのかもわからないから、正直詰んでるなあって思ってたんだ。」
「わかった。」
「へ?」
「もう、大丈夫だ。俺が終わらせてやる。邪神のことは気にしないでいい。」
「いや、でもアキーラさん死んだら終わりでしょ?」
「今のお前も死んだら終わりだろ。」
「っ!それは……。」
「ま、それはいいんだ。とにかく、俺の事情も話した。今日は邪神のところに行かないで、宿で寝たほうがいい。」
「だけど──」
「いいから。明日一緒に行こう。約束だ。忘れるなよ?」
「…………ありがとう。」
レオの瞳が潤んでいたのを突っ込むのは、野暮だな。




