第75話 はじまりのまち
神国を後にして、はや1ヶ月。もうまもなく、シュタットの街が見えてくるはずだ。
馬車の中で浮かない顔してるからか、ゾフィーが心配そうに声をかけてくる。
シュタットは彼女にとっても自宅がある街なんだけど……。そう思うと、彼女との付き合いも相当だな。
「アキーラくん、浮かない顔をしてるね。やっぱり緊張してるのかい?」
「まぁ、緊張はするさ。これからラスボスの根城に突っ込んでいくんだから。」
そもそも邪神の下にすんなりたどり着けると思えない。下手すりゃその前にやられるんじゃないか?
『アキーラ、安心なさいな。アンタはお気に入りだから、アンタだけは自分のところに連れていくわよ。』
帝国を邪神から取り戻せたからか、フレイヤも少し元気になったようだ。女神たる彼女の言うことだ。信じたいのは山々だが……。
手放しで信じるのも難しい。その情報のどこに安心する要素あんのよ。
「アキ様!街が見えてきましたよ!!ほらっ!!」
女神教の聖女フレイが、馬車の進行方向を見つめながら知らせてくれる。
「おー、どれどれー?」
フレイの隣に行き、幌の隙間から外を見る。
草原の向こうに大きな壁が見える。
懐かしい。
確かにシュタットの街だ。
エルザ、元気かな……。
街に行ったら剣を見せに行かないとな。
「さっ、アキーラくん。もうすぐ街に着くよ。必要な荷物は今のうちにまとめておいてね。私の家に置いても構わないけど、あまり多いと困るから程々に頼むよ?」
『アンタ完璧に尻に敷かれてるわね。』
まぁもう手遅れだよ。この流れを変える努力をするよりも、乗りこなすんだ。
「よーし、止まってくれ。シュタットの街にようこ……アキーラ?アキーラじゃないか!!帰ってきたんだな!?」
「おお!?ガルドさん!!久しぶりぃ!」
シュタットの街で出迎えてくれたのは、初めてここに訪れた際に俺を助けてくれたガルドさんだった。
あの頃は雑魚雑魚だったからなぁ。
温かく迎えてくれるガルドさん。
相変わらずの優しさに目頭が熱くなるぜ。
「それで、どうしたんだ?何か急な用事で街を出ることになったと聞いていたが、片付いたのか?」
「ああ、いやぁ……あれから色々あってさ。今度はこっちでやる事ができたんだよ。」
「……?よくわからんが、無事だったなら何よりだ。ようこそ、シュタットの街へ。」
まずはゾフィーの家で荷物を置いて、それからエルザに会いに行こう。
剣のメンテナンス、頼まないとな。
「アキーラくん、行くよー?」
「おう、今行くよ。」
「よっと、とりあえずこれくらいなもんか?」
「だねぇ。ありがとね、アキーラくん。」
「いや、お礼言うのは俺じゃないか?この旅全体のお世話になった率は俺の圧勝だぞ。」
「それはそうだね。金貨何枚くらいだろ?数えてみる?」
「やめとく!」
そんな現実見てどうすんだよ!
「アキ様、よろしければ女神教で立て替えましょうか?」
「マジで!?」
それは嬉しいかも!ゾフィーに借りてるより女神教に借りてる方が気にならないしな!!
『ダメよ。』
「へ?なんで?」
『アキーラのためにならないから』
「本音は?」
『その方が面白いからに決まってるジャン?』
「お前はそういう奴だよ!!」
ホームか?ホームに戻ってきたからその感じに戻ったの?ひどくない?
「あ〜、もう俺エルザのところ行ってくるわ。あと頼んだぞ。」
『行ってら〜。』
あ、こいつ来ないつもりだな。自由人め。いや、自由神か。
工房の立ち並ぶ通りに入り、エルザの工房へと歩を進める。
確かこの辺だったよな?
鉄と鉄がぶつかる音が響く通りをキョロキョロしながら進んでいく先、エルザの工房を見つける。
「お、あったあった。お邪魔しまーすよっと。」
カラン、カラーン──
このベルの音もなんだか懐かしいな。
そして奥の扉から聞こえる、懐かしい、あの声。
「はいはい、いらっしゃ──アキーラ!?」
「おっす、久しぶ──りぃ!?」
俺が返事を言い終わる前に、感極まったのかエルザがダイビングアタックを敢行する。
もちろん避けるという選択肢はない。
「アキーラ、帰ってきたんだね!?いつ帰ってきたの!?」
「落ち着いてくれ、帰ってきたのはついさっきだよ。まぁ、用事が済んだわけじゃないんだけどな。」
「そう、なんだね。……でも、アキーラかなり変わったね。」
「そうか?」
「うん。強くなったのは間違いないと思うけど。色々あったんだね。」
「……そうだな。色々あった。──っと、そうだ。剣を見てほしくてさ。自分なりに手入れはしてたんだけど、本職には負けるしな。」
「あ、そうだね、見せて!」
俺の腰から剣を奪い取り、鞘から抜いて凝視するエルザ。
早くなんか喋って?怖いから。
「…………アキーラ、この剣は役に立った?」
「ん?おお、めちゃくちゃ役に立ったよ。」
「そっか。よかった。じゃあ、ちょっと預かってもいいかな?この子に直接、色々聞いてみるよ。」
「……わかった。じゃ、頼むわ。」
「うん、また明日にでも来てくれる?」
「おう、明日だな。」
エルザの目は、剣から離れる気配がなかった。
でもまぁ、彼女に任せれば安心なのは間違いないからな。
さて、それじゃあフレイヤたちと作戦会議といきますか。




