第74話 始まりの街へ
あれから色々とあった。
エリーは結局周囲の後押しもあり、帝国の歴史上初めての女帝となるらしい。
本人は固辞しようとしていたが、グレンツ辺境伯の後ろ盾、更にその後ろにSランク冒険者と神国の陰、更に更に前皇帝を一対一で下した剣士が彼女に仕えているとあっては逆らう奴なんていないんだって。
半分以上何言ってるかわからんかったけど、ゾフィーが言ってた。
「アキーラくん?また随分と上の空だね?」
「んあー?まぁなぁ。色々とあったよねぇ。」
「邪神のことかい?」
「……うん。」
ゾフィーとフレイには、謁見室で起きたことを伝えている。
さすがに俺が一人で抱えるのはキツかったし、フレイヤにうまく説明できる気がしなかったからな。
「邪神が待ってるのは、魔族の神殿だっけ?」
「そう言ってたよ。それは間違いない。」
「魔族の神殿か。聞いたことないなぁ……。」
ゾフィーが知らないなら、誰も知らないんじゃね?
でも多分、あるとしたら魔族領だろ。
「一応エリーからは、魔族領ってのが帝国の北にあるって聞いたぞ。」
「それは私も知ってるよ?だけど、魔族領に神殿なんてあったかなぁ?」
「え?ないの?」
魔族領だぞ?魔族の神殿あるならそこだろ?
「いや、知らないよ?魔族が隠してるかもしれないし。でも……、邪神がいそうな場所かと言われると……。」
ゾフィーが自信なさげに頭を捻っている隣から、ずっと下を向いていたフレイが顔を上げる。
「アキ様、多分この大陸じゃないと思います。」
「この大陸じゃないって、じゃあどこなの?」
「すみません……、それは私も。だけどきっと、女神様なら。」
「結局そうなるかぁ……。」
どっちにしてもフレイヤに相談なのは変わらないわけだ。
とりあえず帝国を邪神から取り返せただろうし、ちょっとでも力が戻ってないかを確認する意味でも戻るべきか。
「じゃあ一回神国に戻るか。」
「そうだね。そうしよう。」
なんだか気持ちはまだ晴れないけど、とりあえず素振りだけはしておこう。
スキルLvは上がらないけど、ちょっとだけ気晴らしになるんだよね。
──あれから、1ヶ月が経った。
なんかゾフィーとフレイヤは深刻そうにずっと話してる。
神国だけにね。
俺?
俺は蚊帳の外だよ。
必要になればゾフィーかフレイヤが呼ぶだろ。
もうとっくに心眼も気配感知も危機感知も、それどころか一通りとったスキルはLv100になった。
それでも邪神に勝つビジョンは見えない。
何もしてないと不安になってしまうので、いまだに素振りをしている。
どれだけ強くなっても、心は弱いままだ。
『アキーラいるー?』
「おう、いるぞー。」
そんなこと言ってたらフレイヤが飛んできた。
ようやく出番かぁ?
『アキーラ、シュタットに戻るわよ。』
「ああ?シュタットって、何しに行くんだよ。邪神は?」
『……言いにくいんだけどね。邪神の神殿は、シュタットの近くにあるの。」
「は?」
邪神が、シュタットの側にいる?
『ごめんね。色々と事情はあるんだけど、アンタに言えなくて。』
「いやいや、え?じゃあエルザやガルドさんは?」
あいつがその気になったら全員……。
『それは多分大丈夫、だと思ってたんだけどね……。あいつがアンタを指名して、待ってるって言った以上、そんなに余裕はないかもしれない。』
「おい、じゃあこんなことしてる場合じゃ……。」
『勝てるの?』
フレイヤの目が言ってる。
お前にその自信はあるのかって。
ぶっちゃけない。
剣術Lv100になった時、勝てなくてもいい勝負できるんじゃないかと思ってた。
でも実際、帝国で会ったあいつ。
邪神は全然本気じゃなかったのに、勝つとか負けるとか、そんな次元じゃない。
なんで俺の攻撃が効いてないのか、それすらもわからなかったんだ。
『ま、そうよね。相手は邪神。今回の勝負だって、はっきり言って譲ってもらっただけ。そこに油断があればと思ってたけど……。』
俺はご指名を貰っちまった。
時間は決めてなくても、それもそろそろ限界ってわけね。
『アキーラ、もちろんアンタ一人に戦わせたりしない。私だって、フレイだって、もちろんゾフィーだって、アンタを助ける。だけど、それでも、アンタが頼りなのは変わらないの。』
わかってる。
はじめっから俺が要なんだ。フレイヤだって、俺に賭けてここまできてる。
ゾフィーだって、カインだって、今の俺なら圧倒できるくらいには強くなったと思う。
「正直、勝てるビジョンは全っ然浮かばねぇ!!」
『アキーラ……。』
「だけどよ、なんとかするって、約束したからな。」
なんとかできる気、しねーけど。
それでも、やらなきゃな。
あいつの気紛れで、いつ死ぬかわからん。そんな人生ごめんだ。
「戻ろう。シュタットへ。全部終わらせてやるよ。」
第五章、完




