第73話 後始末
「ア、アキーラ?終わったんですの……?」
争う音が止み、静かになったからだろう。
エリーが瓦礫の間を縫いながら謁見室へと入ってくる。
「おう、めちゃくちゃ不愉快だけどな。」
「…………そう、父は、死んだんですのね。」
それを願っていたとはいえ、素直に受け入れられるかは別なんだな。
悲しそうに佇むエリーに、さっき邪神が漏らした言葉を確認する。
「エリー、悲しんでるところ悪い。魔族の神殿、ってわかるか。」
「魔族の……?魔族領は、帝国の北にありますわ。神殿は、わからないですけど……。どうして?」
「お前の親父さんを誑かした奴が、どうもそこにいるらしい。俺はそいつをぶっ飛ばしたいんだ。」
「父を、ですの?…………わかりましたわ。私の方で調べておきます。」
「悪いけど、頼むわ。あとはどうしたらいい?」
「そうですわね……。まずは、皇帝が亡くなったことを知らしめなければ、いけませんわ。」
「それって、どうすんの?」
「簡単ですわ、首を持って、宣言するのです。」
「……首を?」
「気は進まないでしょうけど、これも王としての責任ですわ。私がやりますので、見張っててくださいまし。」
「……いや、俺がやるよ。」
「よろしいんですの?……とても、辛そうですけれど。」
「いや、俺がしてやりたい。戦った俺が、やってやりたいんだ。」
「わかりました。では、お願いいたします。」
「ああ……。」
ごめんな。
お前は本当は、悪い奴じゃないんだろう。
ちゃんと仇は取ってやるからな。
せめて、少しでもキレイに──
そう願いながら剣を振る。
「ありがとうございます。……あとは、私がやりますわ。」
カインの首を抱きかかえながら、前を見て歩きつづけるエリー。
……ああは、なれそうにないな。
「ふぅ、なんだかどっと疲れたな。戦い自体はすぐに終わったけど、色々ありすぎた。」
謁見室の外が、騒がしくなってる。
エリーの声も聞こえるな。
俺の仕事もここまで、あとは神国に帰って作戦会議かな?
魔族の神殿、邪神はそこで待ってる。
フレイヤに相談だな。
とりあえず今の俺が勝てる気がしない。
……とりあえずこれで、帝国の革命は完了……なのかな?
はぁ、最近力が入りっぱなしで、なんか疲れた。
ゾフィーとフレイは元気かなぁ……。
────場所は変わり、グレンツ辺境伯領。
「やれやれ、相当な大群だねぇ……。」
辺境伯領と隣接する王家直轄領に展開された王国軍を見て、独りごちる。
ざっと見て5万ほどだろうか。
こちらは砦に入っているが、人数は万に満たない。
どう考えてもジリ貧だ。
「唯一の救いは、烏合の衆ってところかな。」
もちろん、ゾフィーにとっては、だが。
あとは死にさえしなければ、聖女がなんとかしてくれるだろう。
「ゾフィーリア殿、いいか?」
「グレンツ辺境伯、そろそろですか?」
「ああ、まずは、軽く当たるだけだが、その前に出来るだけ相手の数を減らしておきたい。減らし過ぎは困るがな。」
彼らも帝国民だから──、そう言外に含ませながらグレンツ辺境伯が無茶な依頼を振ってくる。
殺さない程度の威力に抑えること自体は理に適っている。
死者よりも負傷者の方が、軍に対する負担は大きいからね。
「さて、アキーラ君のために、ちょっと痛い目にあってもらうよ。」
精霊憑依はやりすぎだから……、これくらいかな。
自身の周囲に大量の火球を生成し、中心に爆発魔術を付与する。
「さて、直撃させないように……。」
帝国軍が展開している前線のほんの少しだけ手前。何人かは死ぬだろうけど、仕方ないね。
「フレアボム!」
人の頭よりも少し大きい程度の火の玉が、帝国軍に向かって殺到する。
撃退する暇もなく、帝国軍の前線はゾフィーによる爆撃に蹂躙される。
直撃、もしくは近くに居た兵は爆発により吹き飛び、やや離れた兵も、爆発の衝撃と熱にやられて倒れていく。
一瞬にして、阿鼻叫喚の地獄の出来上がりだ。
「すさまじい……、な。」
隣で一部始終を見ていたグレンツ辺境伯は、思わず息を飲んだ。
Sランク冒険者の戦うところを見るのは初めてだ。
そして、恐らく彼女は本気を出していないだろう。
これは、もはや時間稼ぎではないのでは。
ゾフィーリアの力に、身震いしてしまう。
彼女と同等と言われた剣士、アキーラの本気はどれほどなのか。
間髪入れずに2発目を放ち始めるゾフィーリアを見守りながら、革命の成功を確信するのだった。




