第54話 2回目
「ええ〜〜!武器スキルだけぇ!!?」
テンションの上がりきったゾフィーが、駄々をこねるように言い放つ。
「当たり前だろ!なんで料理せなアカンねん!世界滅びるぞ!滅亡3分前クッキングか!?バカ!」
「ぶー!!」
「可愛くしてもダメ!!」
『………そろそろいいかしら?話の続きだけど。』
「話?はなし?どこまで話したっけ。」
『アンタのスキルはちゃんと強いわよってところかな。素振りに限らず、アンタに蓄積された経験はウソをつかない。モンスター倒して得られる経験はムリだけど。』
「それはなんで?」
『……そこまでするリソースが無かったのと、邪神にバレたくなかったから。もう手遅れだけど。』
……うーん?
「……つまり女神様は、アキーラ君に出来るだけ目立って欲しくなかったのさ。静かに、しかし確実に強くなるように設計したかったんだろう。」
「そうなん?」
『べ、べつにアンタが好きとかじゃなくて、死なれたら困るだけだから!』
俺なんも言ってないよ?
まー、死なれたら困るんだろうけどさ。
『……とにかく、邪神にバレた以上、一刻の猶予も無い、と思うんだけど……。』
けど?けどなんだ?
『正直、意外と余裕あるんじゃないかとも思うのよね。アイツの性格的に、完全に遊びだと思ってる。実際アイツはここで負けたって、滅びる訳じゃない。』
「なるほど、今邪神の力は、女神様、あなたの分の力も含めて、まるまる2柱に近い。つまり一度負けたくらいどうということは無い。」
『そゆこと。ナメてんのよアイツは。』
まぁ千年勝ち続けてきた相手になら舐めプもするわな。
でもそれは、こっちにとってはチャンスってことだ。
ならそれを活かさない手はねーな。
「じゃあその隙を狙って……。」
『そうね。』
「アキーラ君強化週間開始だね!!」
ゾフィーさん?世界のピンチだよ?
「で、実際のところだけど。何すりゃいーの?てか、どうすりゃ勝てるわけ?」
『………正直わからない。』
「まぁ1回も勝ててないもんな。」
『うるさいわね!………でも、そうね。神のスキルは全部100なのよ。』
「…………は?」
『神のスキルは全─』
「いやいや、わかった。……無理じゃね?勝つの。」
「そうだねぇ。無理だろうねぇ。……普通は、ね。」
『そうね。普通は無理でしょうね。』
「なんで二人で納得してんの。ちゃんと言ってくれ。」
「アキーラ君なら、何とか出来るんじゃない?君はこの世界の常識に染まっていない。邪神は千年、こっちの世界でドンパチやってるんだ。その裏をかけるとしたら、アキーラ君しかいないと思うな。」
『そうね。……ま、ワタシはどっちにしても、ずっと前からアンタに賭けてるから。』
おいおい、こいつら……。
自分の命掛かってるてのに。
……いや、違うか。
俺に、賭けてくれてるんだな。
だったらよぉ!
ここでやらなきゃ、男じゃねぇなぁ!!!
「しゃーねぇ!やってやるよ!」
『っ!アキーラ!!』
「邪神だかなんだか知らねーが!俺を見逃したのが運のツキだ!もう悪さする気が起きないように、ぼっこぼこにしてやんよ!!」
俺がそういった瞬間、時が止まった。
さっきまで俺を応援してくれたゾフィーも、見守っていたフレイも、皆、凍ったように動かない。
この感覚、前に覚えがある。
『あいつ』だ。
「うふふ、男の子って、やっぱり素敵ね。ほんのちょっとのきっかけで、ここまで変わるんだもの。」
全身に怖気が走る。
ここにいるはずがない。
いてはいけないはずの姿。
聞くはずのない声で、『あいつ』は話しかける。
「やっぱり、あの時見逃したのは間違いじゃなかった!私、こんなに楽しみなのは本当に久しぶりだわ。……ねぇ、アキーラさん?私、あなたにボコボコにされちゃうのかしら?」
邪神の手が、俺の胸を撫でる。
慈しむように、愛おしむように。
虫も殺さないような笑顔で。
本当に、楽しみなんだろう。
動かないといけないはずなのに、指の1本すら動かせそうになかった。
でも、フレイヤは違った。
『アキーラからぁ、離れなさいよ!クソ邪神!!』
激しい光の奔流が、邪神の肩を、腹を、全身を貫く。
どう考えても致命傷なのに、顔色一つ変えずにニコニコしている。
今はそれがとても気持ち悪い。
「いやだなぁ、女神フレイヤ。こんなところで始めちゃうの?私たちが本気を出したら、アキーラさんが死んじゃうわよ?」
『っ!!……クソッタレめ!』
「あはは!怖い怖い。……それじゃあアキーラさん?もっともーっと!私を楽しませてね?信じてるからね?……わかった?」
「………ちょっと待ってろよ。ちゃーんとボコボコにしてやるからよ。」
「うふふ。ようやく見てくれた。あなたは、私のお気に入りなのよ?ちゃんと、相手してね?………逃げたら、許さないから。」
それを最後に邪神は姿を消した。
と、同時に固まっていた時間が動き出す。
瞬間、息をするのを忘れていたことを思い出す。
「はっ、はっ、はっ、ふ、ふ……へへ。何あれ。あんなやばいの?」
『……アキーラ、あれがアンタが倒さないといけない相手よ。今見られて、良かったわね。』
「…?アキーラ君、どうしたの?凄い汗だよ。大丈夫?」
今の俺には、ゾフィーに返事する余裕なんて、欠片も残ってなかった。
思わず、胸を触る。
気持ち悪い感触がこびりついていた。
───逃げ場は、初めから無かったみたいだ。
第三章、完




