第50話 観光はまた今度。
「とはいえ、ポーズも必要だ。今日休んだら、観光がてら聞き込みでもしようか。」
観光!!
今は聖堂が修復されるのを待つだけだし、アリだな!
「それ、さんせーい!楽しみだぜー!」
久しぶりに踊る?踊っちゃえ!ヘイ!
ミュージックカモン!
指をパッチン鳴らしながら、ソウルに従いビートを刻む。
今宵、フロアは眠らない…!!
「ふふふ、楽しそうだねぇ。…ほんと、生きててよかったよ。」
楽しいぞー!!
シリアスはコリゴリじゃー!
「シスターが消えた?」
俺達は教会本部へ移動し、そこで下働きをしている女性と話をしていた。
「ええ、そうなんです。半年ほど前に入信したばかりの子なんですが、昨日から姿が見えず…。皆で手分けをして探しているのですが、未だ発見されていない状態でして。」
「ふーむ。リサが来たという時期とはズレているが…。何か関係あるのかな?どう思う?アキーラ君。」
「これだけじゃ、なんともだなぁ。ゾフィーの言うとおり、関係なさそうには聞こえるが…。なぁ、他にその子について知ってることないか?」
「うーん、あの子は教皇様のお世話係をしていまして、私達とはあまり接点が無くてですね。教皇様の事で心を痛めているのだと、心配しているのですが…。最悪の事態となる前に、見つけていただけないでしょうか。」
「なぁ、ゾフィー。」
「うーん、観光は難しいかもねぇ。お嬢さん、もう少し詳しく知りたいんだけど、誰なら知ってるかな?」
「え、ええと、それでしたら、教皇様方のお世話をする者に聞けば、何か知ってるかもしれません。」
ああ、あそこか。フレイと一緒に通ったな。
「ゾフィー、そこなら俺がわかる。行ってみよう。」
「おお、アキーラ君がいつになく積極的だ…!私にもそれくらい来てもいいよ?」
「何言ってんだよ、いくぞー。」
「あ、待ちなよー!」
そうして、フレイの言うところの、エライ人専用エリアへとやって来た俺達。
とりあえずは女中さんに話を聞くか。
──キャアアアアア!!
っ!!奥から女性の悲鳴!?
と思ったときにはゾフィーは既に走り出していた。
心眼使ってる俺より速いってなに!?
そう思いながら、ゾフィーの後を追う。
「これは…!」
教皇の部屋を覗くゾフィーの声に緊張感が走っている。
俺は走るのをやめ、腰の剣に手を伸ばしながら近付いていく。
「…ゾフィー。何があった。」
「アキーラ君、これは…。どうやら観光は諦めたほうが良さそうだね。」
「……だな。」
そこには辺り一面血の海と化した部屋と、傷一つないキレイな体で横たわっている、シスターの死体だった。
「…さて。そこの君、何があったか話してくれるかな?」
「は、はい…。わ、私が教皇様の部屋を、掃除しようと思いドアを開けたら、こ、ここ、こうなって…。」
かなり動揺してるな。
無理もないか。
「ふむ、この部屋に最後に入ったのは、誰で、いつかな?」
「き、昨日までは、そ、そこの彼女が…、でも、今日は居ないからって、私が代わりに…。で、でも、私はやってない!!信じてください!!」
あ、自分が疑われるんじゃないかって、焦ってるのか。
うーん。
「ほ、ほほ、本当なんです!わ、私じゃ、私じゃない!」
「……アキーラ君、どうやら彼女は無関係みたいだ。部屋を調べてみよう。お嬢さん、辛いことを聞いたね。」
ゾフィーは何かを感じ取ったのか、彼女を無関係だと断じた。俺も特に反論はない。
続けよう。
二人で部屋に入る。
こんなことしていいのかは知らんが、リサに繋がる可能性もある手前、アクド枢機卿も怒らないだろう。
「しかし、見れば見るほどキレイだな。」
「む、私にも言ってくれたまえよ。」
「そういう意味じゃねーよ。って、これは…?」
シスターの両手に、何かが握られている。
手を開いて見ると、手のひらに収まるサイズのアクセサリのようだ。
「これ…、翼と、冠と、トゲ…?」
翼と冠を、トゲが締め付けるように、覆うようにして巻き付いている。
「ふむ。翼と冠は、女神教のシンボルだね。トゲは…否定?いや、拒絶かな?」
否定か拒絶か…。
女神教を否定するもの…、っ!それって!!
「ゾフィー!!これは…邪神の!」
「もしかすると、とんでもない手がかりかもねぇ。少なくとも反女神派だろう。問題はこれを、彼女が自分の意志で握っていたのか、だけど…。」
うーん、うん?でもそれ、あれじゃね?
「ゾフィー。それさ、多分だけど、死んでから持たされたんじゃないかな。」
「ん?どうしてそう思うんだい?」
「なんつーか、持ったまま死ぬならさ、普通はもっと握りしめちゃうんじゃないかなって。でも、ほら。」
俺はシスターの腕を持ち上げてみせる。
「力も入ってないから、簡単に取れたし…。何より手にトゲが刺さった跡が無かった。」
「なるほど…。犯人は殺害後にこのアクセサリーを死体に握らせた。つまり…。」
「女神教への、宣戦布告じゃね?」
空気が張り詰める。
そりゃそうだ。
ここは曲がりなりにも神国の首都である神都フレイヤ。
女神教の総本山たる教会、そのトップである教皇の部屋なのだ。
誰にも気付かれずに入り、
部屋を血まみれにして、
出ていく?
いくらなんでもそんな事出来るのか?
「……そもそもの前提が、違うのかもね。」
「どゆこと?」
「いつからこの状態だったのか、ってことさ。」
……確かシスターが行方不明になったのは、昨日からだと言ってたな。
そして、さっき代わりの女中が掃除に入って発覚した訳だ。
って事は昨日からじゃ?
──そこで俺の背筋に悪寒が走る。
待て、そもそも俺は、リサに何をされていた?
皆が知るリサと、俺の知るリサは別人だった。
なのに、誰もそれに違和感を覚えなかった。
「ゾフィー、もしかすると──」




