第48話 神の存在証明
ズキン、ズキン、
心臓が動く度に、激しく背中が痛む。
息をするのも億劫になりそうだ。
「きみのしは、われわれにとってのすくいなのだよ。あきーらくん。」
このクソジジイ!虫も殺しませんなんて顔で、いきなり刺してきやがった!!
「だからって、俺が黙って死ぬと思うぅ?そうはいかねーよ!!」
「だから、こうしてさしたんだよ?いたいだろう?さぁ、らくにしてあげよう。」
どうする?曲がりなりにも教皇サマなんだろ!?ぶっ殺して大丈夫なのか!?
─ガタッ
「──教皇、様?いったい、何を…。」
音のした方を見ると、フレイが目を見開いて立っていた。
ああ、もう!ややこしくなってきたなぁ!!
「教皇様!どうして、アキ様がケガしてるんですか!?アキ様は女神様の!!」
「だからだよ、フレイ君。女神様に目を掛けられる存在だからだ。」
教皇は語る、自身の思いを、この世の現実を。
「この世界は女神フレイヤによって作られた。だが、どうだ?才能のあるなしで人々は差別され、才能無き者の努力には意味がない!誰がこの世界を作った?何故、こんな世界にした?なぜなぜなぜなぜ?誰も答えを知らない。……私はね、気付いたんだ。女神はもう、この世界に興味を失っている。」
あー、それ、マクロのせいだわ。
はは、ほんとにあいつのせいじゃん。
努力に意味が無いってのには、異論を挟みたいけど。
【苦痛耐性Lv1を取得しました】
っ!!はっ、そうかよ。
まだ、頑張れってか?
「彼を殺せば、女神様は我々を見てくれるかもしれない!」
「だけど!!女神様はそんなこと、仰ってません!!」
「フレイ君、認めたくない気持ちはわかる。だが、私は救いを得たのだ。それを君にも教えてあげよう。ふふ、ふふふふふ!!」
教皇はポケットから禍々しい光を放つ石を取り出し、躊躇うことなく飲み込んだ。
「これは、じゃしんさまのおお、おちからお、このみにいいいい」
教皇の体がどす黒く染まったかと思うと、体中が膨張し始めた。
スキルのおかげで多少はマシだが、痛みでまともに動けない俺を尻目に、教皇はどんどん人間離れしていく。
「い、いや、いやああああ!!教皇様ああああ!」
「あ、おい!危ねぇ!」
半狂乱になったフレイが教皇の元に走る。
だが、教皇はさして興味もないように、一瞥した後、巨大化した腕で周りごと薙ぎ払った。
グワァァァァァ!!
バキィ!
激しい音と共に、壁に打ち付けられるフレイ。
気を失ったのか、ピクリとも動かない。
「クソが…。」
「くくくくくるるるるしいいかいいいい?ららららくくににいいい、しててててあげるよおおおおお!」
準備が終わったのか、常人の3倍ほどに膨れ上がった体を動かし、こちらへ走ってくる教皇。
「はぁ、チョー痛いけど、しゃーないか。クソジジイ、今楽にしてやるよ。」
俺は誓いと共に、剣を抜き放つ。
エルザが作ったこの剣は、決して折れず、曲がらない。
生みの親に、ただそうあれと、願われて生まれたから。
どれだけ絶望しようとも、逃げず、立ち向かうことを、俺は課されたのだ。
だから、この剣を抜くときは決して諦めない。
この命が尽きるその時まで、抗って抗って、抗い続ける。
それは無謀ではない。
必ず、生きて帰る。必ず。
ただそれだけを誓う。
「はは、化物退治にゃ慣れてきたが、元教皇ってのは、初体験だ。」
そう軽口を叩く。
背中の傷がズキズキ痛む。
痛みはマシだが、まともには動けそうもない。
恐怖はある。
だが、体は震えても、心までは屈しない。
絶対に。
その時、優しい光が俺を包み込んだ。
……なんだ?背中の痛みが、消えて…。
警戒しつつ周りを見渡すと、フレイが震える手をこちらにかざしていた。
「ア、キ、さま…。逃げ、て…。」
そう言いながら伸ばした手をだらんと下ろすフレイ。
自分だって、辛いくせに…。
はぁ、元々そんなつもり、無かったけどさぁ。
逃げない理由が増えちまったよ。
「しししししし、しねええええええ!!!」
もはや意思ある言葉かも怪しい音を放ちながら、巨大化した両手を振るう。
ただそれだけで、まるで嵐に巻き込まれた木の葉のように、ズタズタになるだろう。
普通ならば。
──心眼
心眼のLvが上がったときに、俺はある事に気が付いた。
周りの動きが遅くなっている。
予兆はあった。
シュタルクガルドのギルド、グリフォン。
相手の攻撃が遅く見えた、間に合わないはずの防御が間に合った。
Lvがあがったとき、それは確信に変わった。
「──悪いけどさぁ、止まって見えるぜ。アンタ。」
荒れ狂う嵐のような攻撃を、躱す、躱す、躱す。
余波で軽く皮膚が切れるが、気にしない。
もはや、剣の腕の問題ではなかった。
相手の拳にそっと添えて、切る。
それだけで、充分だった。
幾度かの衝突の後、大勢は決していた。
「はっ、あっという間に血だるまだなぁ。今どんな気持ち?」
「きききさささまままああああああ!!」
それでもまだ暴れ回る教皇。
おいおい、床抜けちゃうぞ。
諦められないのか、必死の形相で向かってくる。
「悪いけど、邪神関連はぜーんぶ潰すって決めてんだ。恨んでくれるなよ。」
相手の攻撃を利用して切る。
それに、身体強化を乗せる。
相手も必死だ。
力は相手に分があるが。
「──ここは、俺の間合いだよ!」
「おらあああああああ!!!!」
「ぬううううううううう!!」
ズズズズズズッッッ
相手の攻撃に合わせる。
腕を2つに切り裂く。
堪らず膝を突く教皇。
今なら、届く。
──じゃあな。
「お疲れさま、クソジジイ。」
「かみ、さま…。」
スパッ
ドォーン!!
首から上が無くなった教皇は、もう動くことはなかった。
「いてててて、ちくしょう。思いっきり刺しやがった。」
幸い、命に別状はなさそうだ。
フレイの回復魔法のおかげか、血も止まっていた。
「でもこれ、どーしよー…。」
そうやって一人で立ち尽くしていると、外が騒がしくなっている事に気が付いた。
「そーいえばこれ、見方によっちゃあ俺って結構ヤバい?」
血まみれの元教皇。
壁にもたれて気絶する聖女。
剣を持った不審者。
チーン!犯人はリンリンです!!
「おいおいおいおい、勘弁してくれよお。」
そう言いながら扉の方へ、体を向ける。
すでに少しずつではあるが、回復はしている。
なりふり構わなければ、何とかなるかな?
ギッ、ギッ、
あ、扉、カギ掛かってたのね。
そう思った瞬間、
………ドゴオオォォォン!!
扉が爆発した。
煙の中から出てきたのは、見慣れた相棒だった。
「あ!アキーラ君!ようやく見つけたよぉ〜。もぉー!ダメじゃないか!!」
「ゾフィ〜、はぁ助かったぁ。」
そう安心した瞬間、俺は気絶してしまった。




