第40話 フレイヤ?知らない人ですねぇ
(…………ラ!………ち……メ!)
うーん、なんだよぉ。寝かせてくれえ。
(………キーラ!……ちゃダ……)
もー、うるせぇよぉ。
(アキーラ!来ちゃダメ!!)
「はっ!!なに!!?」
夜営中のテントの中で飛び起きる。
…………夢、か?
…クソ女神?
………………。
夢…なのか?
本当に?
「アキーラ君?どうしたんだい?大丈夫?」
「ゾフィー…。ああ、ちょっと悪い夢見ちまったみたいだ。大丈夫。」
「…本当に?顔、真っ青だよ?」
自分の心臓の音がやけに耳につく。
体にまとわりついた気持ち悪い汗を振り払うかのように毛布にくるまった。
シュタルクガルドを出発して、1ヶ月。
俺達は隣国であるホッホムート帝国とフレインガルド神国の国境付近の宿場町へ来ていた。
宿が中心となったこじんまりとした所で、城壁と言えるようなものもない、この町で働く人も、近くの村や街から通っているらしい。
宿自体は簡素だが、長旅の疲れを癒やすために泊まっている。
正直ゾフィーの格には合ってないな。
俺?俺はいいんだよ。
あの夢を見てから、どうも寝付きが悪い。
ゾフィーもそれに気付いて、さりげなく気を使ってくれている。
申し訳ないな。
明日の神国入国にむけて、ゾフィーと宿で食事を取っていると、宿のマスターが話しかけてきた。
「なあ、あんたらこの辺じゃ見ない顔だが、神国から来たのか?」
「うんにゃ、俺達はその逆だな。神国に、行くんだよん。」
「っ!そうか、それなら気を付けたほうがいい。理由はわかんねぇが、最近神国からこっちに来るやつがめっきり減っちまった。…噂じゃ神国で女神様の神託が降りて、枢機卿が躍起になってるって話だ。行くなとは言わねぇが、十分気をつけろよ。」
そういって、マスターは離れていった。
うーん。
「……ゾフィー?」
なんか、きな臭くなぁい?
「うーん、ちょっと心配だねぇ。入国したら、まずは情報収集かなぁ。」
「そのほうが良さそうだなぁ。」
あいつの国、大丈夫か?
薄気味悪いものを飲み込んで、神国へと向かうのだった。
国境付近、国と国を分断する、巨大な壁とそれに見合った大きな門。
どうやって開け閉めすんだろ?
「神国への入国を希望するものはこちらに並べー!!」
大きな声で衛兵が叫んでいるが、周りには俺達以外に人はほとんど居ない。
さっきの噂が広がってるんだろうな。
とりあえず並ぶとするか。
ほとんど人のいない列へと並ぶ。
「次の者!前へ!」
ほいほい。いまいくよー。
「ふむ、Dランク冒険者、アキーラか。…よし、通っていいぞ!」
やっぱ何も言われなかったな。
帝国に入るときも思ったけど、Dランクくらいから移動することが増えるらしく、シュタルクガルドの時と違って変な事にはならない。
やっぱあれ、俺がおかしかったんだな。
人の少ない大きな門を潜り、ゾフィーを待つ。
国境を越えるとそこはフレインタット、神国側の国境の街だ。
ここ、フレインタットは国境の街と言うだけあって。帝国由来っぽいのもちょこちょこあるな。
全体的に白い石造りの家が多いが、所々に帝国のモチーフカラーである赤色でペイントされた壁がある。
「おまたせ、アキーラ君。それじゃ、さっさと神都フレイヤへ向かうとしよう。」
そうなのだ。
この国、そもそも国名からしてそうなんだが、神都(いわゆる首都だな)も相当やらかしている。
「あ、アキーラ君。あそこから、寄合馬車が出てるみたい。行ってみよう。」
ゾフィーも神国に来るのは初めてとのことで、土地勘は二人ともゼロだ。
急ぐ旅と言う訳でもないが余計なリスクを冒す意味もない。
「じゃ、寄合馬車乗ったりまっしょい!」
「おー!行こう行こう。」
「………どちらまで?」
肌が浅黒い男が、伏し目がちに尋ねてくる。
御者なんだろうけど、無愛想すぎん?
「とりあえず神都まで行きたいんだ。いくらかかる?」
「……神都までかい。じゃあ、あっちの便だ。お前らで定員だな、すぐ出るぞ。3日間、二人で1000イェンだ。」
うーん、高いかわからんが、他に手段はないか。
「ああ、じゃあそれで頼む。ほいっと。」
1000イェン払い、馬車に乗り込む。
馬車の中は、敬虔な信者たちでいっぱいだった。なんだっけ。頭になんか巻いてる。
「…ウィンプルだよ。あと、あんまりジロジロ見ちゃダメだよ?」
「っ。ああ、そうだな。ワリィ。」
「大丈夫さ。さっ、私達も座ろう。」
俺達が座ってすぐに、馬車は走り出した。
カッポカッポ、ガタガタガタ、
馬車は進んでいるが、正直遅い。
暇にあかせて、二人で色々話をする。
「そういえば、ゾフィーは神国初めてなんだよな?なんで?」
「なんでって、特に理由がある訳じゃないけどね。この国は良くも悪くも、信仰深いからね。冒険者の威光が届かないのさ。」
小声で話すゾフィー。
「つまり?」
「ふふ。つまり、ここは冒険者が活動するのに不向きってことさ。それを国も理解してるから、ここは兵士や衛兵が非常に多い。…ほら。」
そういってゾフィーが指差す方を見ると、馬車を追い越さんと走る馬。
その上には、騎士だろう。全身鎧マンだ。
この馬車に用かと少し身構えたが、こちらをチラっと見てそのまま通り過ぎていった。
「あれは、警備と言うよりは伝書だろうね。でも、この国ではああいう感じでかなりの頻度で騎士が街道を行ったり来たりしてる。ある意味では、他の国より治安はいいね。」
「なるほどなー。じゃあ帝国は?」
「帝国は態度デカいから嫌い。」
「はは、なんだそれ。」
進む先に待つのは、希望か、はたまた絶望か。
「ま、今更来るなって言われたって、言うこと聞くわけねーわな。待ってろ待ってろー。」
馬車は進む。
止まらない。




