第33話 彼女の覚悟
「あ、あの、リンリン…、そのー。」
朝、目を腫らしたトルテが気まずそーに話しかけてくる。
「おはよー。どしたん?」
「え、ええっと、その、…昨日は、ごめん。勘違いしてた。リンリンはそんなやつじゃないのに、その…。」
「そんな男ですけど?」
「え?」
「え?」
「ええっと、その、じゃあ、やっぱり?」
「いらんいらん!!本気にすんなよぅ!」
笑って流そうや!
「もういいじゃん!はやくゴブリン探そうよう!ねぇねぇ!!」
「くふ、なにそれ。…ありがと、リンリン。」
「おーん?」
「わかったわかった。じゃあ行こう。」
「ほーん。」
もう適当に返事しよ。
ま、昨日の連中の気配からして、何となくの目星はついてる。
ずばり、あっちの方だ!!
「…リンリン、何してんの?」
「あっちの方だ!」
「なにが?」
「ごぶ巣!」
ほらほら、テンポよくいきましょー!
野営場所から更に数kmほど奥に進んだ先。
獣道すら無くなって、人の気配は感じない。
そんな、不気味な森の中にポカンと、そりゃーもうデッカい空白があった。
まぁそこはもちろん巣な訳だが。
「うーん、思ったよりデカくない?あんなもんなん?」
「い、いや、普通はゴブリンの巣なら多くても30匹くらいのはず…。ここはどう見ても…。」
「100はいるよなぁ。」
「ど、どうしよう、リンリン。お、俺、こんなの初めてで、どうすればいいのか…。」
「いや、ふつーに場所わかったし、帰って報告でよくない?EとFに何を求めてるのって話だよ?」
「そ、それもそうか…。そうだよな。」
ん?なんか不満げだなー。
なんぞ?
「何か対案あるん?」
「リ、リンリンなら、なんとかできたりしない?」
ほーん、正直できると思う。
今のリンリンパワーならゴブリン如きいくらいても大丈夫だろう。
でもなぁ。
「出来ると思うけど、それはー」
「や、やっぱり!だよな!依頼書だって、討伐するな、とは書いてなかったんだ!出来るならしていいんだよ!行こう!リンリン!」
おいおい、マジで言ってんの?それは勇気とは言わなー
「じゃ、じゃあ!俺が囮になる!迷惑かけてばっかじゃ、終われない!う、うおおおおおお!!」
「へ?は!?おい!バカ!…あー!もう!」
「うおおおお!!おら!バカゴブリン共!こ、ここ、ここに、お前らの大好きな女の子がいるぞー!!」
ゴブリン共の目つきが変わる。
こわい。
女性の冒険者にだけ、登録時に言われることがある。
「ゴブリンに捕まったら、自害しろ」
それが一番、自分の尊厳を守れるから。
奴らは女を殺さない。
でもそれは、決して幸せなことじゃない。
みんな知っている。
だから女性冒険者のほとんどは、自害用のナイフを持ってる。
私だってそうだ。
だけど、今日、それを使うことはできない。
使えば、囮になれないから。
震える声で叫ぶ。
「お、お前らなんか、リンリンに、かかれば、イチコロだ!バーカ!!」
だから、お願いだからリンリン。
出来れば間に合えば、うれしーな、なんて。
「もおおおお!!話聞けよおおおお!!」
走る。
完全に置いてかれた。
まさか1人で突っ込まないだろう。
だってこれ、調査依頼だよ?
戦う必要ないもの。
なんならダメじゃない?戦ったら。
「こういうのは秘密裏にさぁ…、邪魔!!」
立ち塞がるゴブリンを剣で切る。
この剣を使う時、俺は俺に、この剣に誓ってる。
絶対に諦めないと。
「もー!ぜったいおこる!おわったらおこるよ!きめた!」
間に合えよおおお!!
「はっ、はっ、はっ、ふ、ふふ、ど、どうした。まだ、私は、立ってるぞ!ま、まだまだ、ヨユーだ!!」
ウソだ。ゴブリンの、殺さないように手加減した攻撃を必死で避け、受け、たまに当たり、割ともう体はボロボロだ。
向こうもわかってるんだろう。
さっきからニヤニヤした顔でこっちを見てる。
「こんなことなら、昨日、無理にでも…、なんて。リンリンが許さないか。」
ダメだろうな。
私に魅力がないとかじゃないと、良いんだけど。
あいつ、そういうの細かい。キライじゃないけど。
…あー、もう、剣持つの、疲れちゃったな。
神様、もう、だめかな?
なんか、目が…。
「何やってんのおおおお!!」
寸でのところで、滑り込み、トルテを抱きしめながら目の前のゴブリンを切り伏せる。
お前今諦めてなかった!?足掻けよ!!バカ!
「おい!おい!大丈夫か!生きてる!?」
「あ、リン、リン、大、丈夫?」
「こっちのセリフだよ!バカ!良いからここ出るぞ!」
「へへ、よろしくね…。」
安心したのか、トルテは気を失ってしまったようだ。
息はしてるみたいだし、血もそんなに流れてない。
あいつら、いたぶってやがったな?
トルテをそっと地面に下ろし、ゴブリン共に向き直る。
「じょーとーだよ。クソクソゴブリン共。お前ら全員ジェノサイドしてやんよ。」
アキーラ、キレてます。




