第26話 よくある、よくない話
「つまり、君が農作業から戻った頃にはもぬけの殻だったと?」
「そうなんだ。俺がいつも通り、朝から畑に出かけて、その時は確かにいたんだ!…だが帰ってきたら、居なくなって…。娘は一人で外に行くような子じゃない!きっと誰かに攫われたんだ!」
「まぁまぁ、決めつけるのはまだ早いよ。まずは娘さんの部屋を見せてくれるかな?何かヒントが眠ってるかもしれない。」
「…そうだな。こっちだ。付いてきてくれ。」
おっさんの後を追い、マリーナの部屋に入る。
キレイだな。派手さはないが、キチンと整えられた、女の子の部屋って感じだ。
机の上にあるのは、編みかけの布と、花冠?
「気付いたかい?この部屋、攫われたにしてはキレイすぎる。それと、外に出てないはずの彼女の部屋に花冠。…これは何かあるねえ。」
なんか、ゾフィーすごい張り切ってるな。
名探偵ゾフィーなのか。
でもこの花冠、うーん。何だろう?何か違和感あるな。
「さて、ここには他に見るべきものは無さそうだ。ご老人!この花、どこに生えてるかわかるかい?」
「うん?なんでこんなもんが…。いや、この花なら、村のハズレにある花畑だ。今は休耕地になってるから、間違いないはずだ。」
「わかった、ありがとう。今はまだ昼過ぎだ。ひょっこり帰ってくるかもしれないし、君はここで待っていたまえ。」
「そ、そんな!俺も──」
「待っていたまえ。いいね?」
「わ、わかった。ここで、待っておくよ。」
「ああ、それでいい。それじゃ行こうか、アキーラ君。」
俺いる?
さて、花畑についたが、ここで一体どーしようってんだ?
「なぁ、ゾフィー。ここで何を、ってなんで!?」
ゾフィーが花畑に頭突っ込んでる。虫さんの気持ちになってるの?バグかな?
「お!あったあった。何となく、真相が見えてきたね。」
そういって取り出したのは、何だろう?女物の髪飾りか?
「おそらく、これは彼女、マリーナの物だろう。さっきのご老人の言い草から、ここには人がほとんど来ないことがわかってる。」
「それはわかるけどさ、マリーナはなんだってこんなとこに?しかも髪飾り落としても気付かないなんて。」
「一人じゃないんだろう。恐らく、逢瀬だね。」
「お、逢瀬って、そういうことなん?」
「多分だけど、そんなに、ハズレても無いんじゃないかな。」
えーと、つまり待てよ。
マリーナはここの花で作った花冠を持ってて、ここで誰かと会ってた。そして髪飾りを落としても気付かないくらい急いでた?
「…もしかして。」
「駆け落ちだろうね。多分。草の荒れ具合からして、あちらの方に向かったのかな?どうする?行ってみる?」
うーん、事情はわからんが、まだ一応攫われた可能性も、あるのか?
今戻ってもおっさん納得しないだろうし、行くべきかも?
「一応結末だけ、見届けよう。おっさんも納得出来んしな。」
「ふふ、そうだね。じゃあ、そうしよう。」
そういって俺達は森の中へと足を踏み出した。
うーん、とは言うものの、ちょっと気になるんだよなあ。
これ、ほんとに駆け落ちかな?
森の中を歩くこと数分。
明らかな異常を見つけてしまった。
「おいおい、ゾフィー。これって。」
「……ああ、血痕だね。」
ちょっと気楽に構えすぎたか?思わず腰の剣に手をやる。…よし、大丈夫。
「ゾフィー、ちょっと急ごう。思ったよりヤバイかもしれない。」
「そうだね、甘く見てたかも。アキーラ君、気をつけて。」
音を出来るだけ立てず、あたりの注意はスキルに任せて、可能な限りスピードを出す。
【忍び足Lv1を取得しました】
…ありがたいが、今は素直に喜べないね。
「アキーラ君、アキーラ君、今、忍び足取ったよね?足音、すごく小さくなったよ!」
小声なのに伝わるテンション。さすがです。
「………っ!ストップ!!」
「うおおお!危ねえー。何があった?」
「…あそこ、小屋が見える。」
ゾフィーの指差す先、血痕の続く先に、灯りがついた小屋が見える。
恐らくこの血の持ち主はあそこにいるのだろう。
「ここからは、より慎重に行くよ。私が先行するから、合図したら来てね。」
そういって、スルスルと進んでいくゾフィー。
すげぇ、足音聞こえない上に、存在感すら薄くなってる気がする。
あいつ、何ができないんだろ。
そう考えていると、ゾフィーが手を上げる。
こっちに来い、の合図だ。
あなたのアキーラが参りますよ。
…ゾフィーの元まで慎重に向かう。
スニーキングアキーラだ。怖いか。
【気配遮断Lv1を取得しました】
だんだん犯罪者向けのスキル構成になってきてるような気がする。
ガルドさん!俺は無実だ!!信じてくれ!!
「アキーラ君、耳をすませてごらん。」
「どれどれ…。」
中から、女のものと思われる声が聞こえる。
それをかき消すように怒号が飛び、静かに…。
「あまり余裕は無さそうだ。行くよ!」
「あ、待てよ!」
ゾフィーはそう言うやいなや、ドアを蹴り飛ばし中に突入していった。
SWATもビックリの即断即決だ。
と、こうしちゃおれん。俺も行かねば。
中に飛び込んだ俺の感知スキルに反応が…
5つ!
ゾフィーは女の子を守りながら戦っているようだ。
……薄汚れた服に、伸びっぱなしの髭、こいつら、もしかしなくても山賊だな?
女の子攫ってヨロシクしようとしてたか、そうはイカンよ!!
俺は片手剣を抜き放ち、まだ俺達の突入のショックから立ち直れていない盗賊を切り捨てる。
わぉ、すんごい切れ味。
さすがエルザだぜ。
と横から山賊Bが切りかかってくる!
「オラアアアア!」
「当たるかよ!」
感知スキルなめんなよ!
見えてなくても見えてんだ!
相手の攻撃を回りながら躱す、その勢いのまま…
「食らえ!アルティメットブレイブ!」
そういいながら、横に薙ぐ、名前?今考えた。
どうやら山賊達は大したことなかったようだ。
残りの三人はゾフィーが瞬殺してた。
マジで何してるかわからんかった。
こわ、逆らわんとこ。
「もう大丈夫だよ。ケガはない?」
優しく語りかけるゾフィーだったがマリーナに聞く余裕はなさそうだった。
「あ、あああ、ダミアン…ああああ!」
気付かなかったが、小屋にはもう一人いたらしい。血にまみれた手で、頼りないナイフを握ってる。
……もう、息はなさそうだが。
「恋人を、守って、逝ったのか。」
「うう、ダミアン…。どうして…。」
「……ここにいても仕方ない。とりあえず、彼女を連れて帰ろうか。行こう、アキーラ君。」
「……そうだな。」
その後、おっさん(村長)の話を聞いた。
マリーナは村長が所有している農奴とイイ感じだったらしい。
当然村長は許さず、マリーナは部屋に軟禁状態。
それでもダミアンは自分の思いを伝えるために、不器用ながら花冠を作り、プレゼントしたそうだ。
感激したマリーナは2人一緒に花畑へ向かい、そこで運悪く山賊に見つかってしまったと。
ダミアンは彼女を守りきったが、逝ってしまった。
畳み掛けるように、村長はこう言った。
「農奴なんかに、娘をくれてやるわけがないだろう!死んでせいせいしたよ!」
マリーナは、彼の死を悼んで、シスターとして生きていくつもりらしい。
村長は反対していたが、彼女の、
「シスターになれないなら、死にます。」
その一言で、頭を垂れていた。
何とも後味の悪い結末に、俺達はそのまま村を出た。
「…なぁ、ゾフィー。」
「アキーラ君、私達にできる事はあれ以上なかったよ。」
「…そうなのかな。」
「そうさ。私達が村についた時点で、事件は起こっていたんだ。君のせいじゃないよ。」
「それでも、気になっちまうよ。」
「アキーラ君、人にはできる事と、できない事があるんだよ。……私にもね。」
「……そうか、ゾフィーでも無理か。」
「そうだよ。」
ゾフィーはそう言って、前を歩き続ける。
俺は少し振り返り、もう一度前を向いた。
腰の剣が少し暖かく感じた。




