第24話 旅は道連れ世は情
アキーラ退出後、エルザの鍛冶屋
「ふ、ううう…ぐうううう」
涙が止まらない。
「あほぉ…、アキーラのあほぉ…!!」
なんなんだ!あいつは!
急に人の店に来て、仕事の邪魔したと思ったら、調子いいこと言って!!
剣だって一度も使ってない!!
バカにして!
挙句にここを出ていく!?
ふざけるな!
なのに、なのに、
「なんで、なにも、言ってくれないんだよぉ…。」
アキーラの顔、戦争に行く前の父さんにそっくりだった。
あの時はわからなかったけど、あれは帰ってこれないって思ってる顔だ。
もう二度と会うことが出来ない人との、別れの顔。
会えない?もう?アキーラと?
──本当にそれでいいの?
子どもの頃のあたしが言う。
──もう、二度と会えないよ?
でも、だって、あたしは、いらないって…。
──彼がそう言ったの?
言ってはない、けど…。
──もう、信じられない?
信じるも何も、あいつが裏切ったんだ!
──彼があなたを?
だって、何も相談しなかった!
──寂しかったのね。
!!
寂しかった?あたしが?
──あたしには、何もできなかった。
あのころの?今の、あたしなら…。
──きっと。
…出来るわ。
エルザが顔を上げたとき、その顔に迷いはなかった。
「すぅ〜〜……、はぁぁぁ〜……。」
大きく息を吸い、吐く。
体の隅々まで魔力が浸透していく。
今はただ、目の前のこの子に集中する。
「父さん…。」
私が最初に打った剣。
出来栄えを見て、大喜びしてくれた。
嬉しくって、ずっと飾ってた。
父さんが見守ってくれる気がしたから。
でも、この子じゃないと、ダメなのだ。
「あたし、打つよ。…見ててね、父さん。」
父さんの教えてくれた、唄を口ずさむ。
剣に魂を、誓いを吹き込む唄を。
炉の炎は、この身を焦がし、あらゆる物を焼き尽くす。
焼けば打てよ、打てば焼け、魂込めて、鉄を打て。
この身焦げても、槌は離さず、ただこの槌と共にあろう。
炉から生まれし、この命、朽ち果てること、ついぞなく。
切るは悪魔か、それとも正義、それを決めるは、我にあらず。
ただ、この剣と共にあれ、ただ、持ち主のためにあれ。
炉に剣を入れ、熱する。
熱く熱く、けして折れぬ刃となれ。
小麦色の刀身へ、槌を振り下ろす。
何度も何度も、けして曲がらぬように。
ひたすら繰り返す。
彼の無事を、またの再会を願いながら。
─槌の音は、三日三晩止むことなく続いた…。
アキーラ、旅立ちの日。
「はぁぁぁ〜〜〜…。」
「どうしたんだい。まだ別れが辛いのかい?」
「いやぁ、まぁ、そうなんだけどさぁ。」
あれから、エルザに謝りに行けてない。
いや、何度も行こうとは思ったんだ。
だけど、こう、ね?
タイミングがさぁ〜。
「何だか暗い顔だねぇ。私みたいな美人と一緒なんてなかなか幸運だとは思わないかい?」
「うーん。幸運だとは思うよぉ。」
「……ダメか。こりゃ重症だ。」
俺がウジウジナメクジしてる間も、ゾフィーはテキパキと準備を進めている。
知らん間に隣町まで行くための馬車を用意していた。
ホント金持ちだねぇ。
あーあー、もうすぐ出発かぁ。
ガルドさんとはもうお別れしたし。
ヴィルトのおやっさんにも挨拶済み、もう、この街に思い残すことはないか〜。
…ウソだ。
思い残りまくりだ。
こうして旅立つ直前になっても、何とか出来ないかと考えてしまうくらいには。
「さっ!アキーラ君!準備が出来たよ!いよいよ出発のときだ!世界の謎に向かって!ゴーゴーゴー!!」
結局ゾフィーには、全部話した。
自分の事、フレイヤの事、全部だ。
激レア個体だ!なんて大はしゃぎしてたな。
今もノリノリで馬車の手綱握ってる。
御者の人困ってるぞ、やめなさい。
………おーーーーい!
………その馬車待ってぇーーーー!!
遠くの方から、聞き慣れた声がした。
自然と、胸が締め付けられる気がして、思わず、馬車から飛び降りる。
慌てて止まる馬車を気にもせず、俺は走り出した。
「待ってぇー!!……は、はぁ、ま、間に合った……。」
「エルザ!見送りに来てくれたのか?」
「……やっぱり、ちょっとムカつくけど。………これ!あんたに貸してあげる!」
ほえ?これは…前に借りたエルザの剣に似てるけど、なんか違う?もっと厳かな、神聖な雰囲気が漂ってる。…なんぞ?
「それ!寝ずに打ち直した!貸すだけだからね!絶対に!ぜ〜ったいに!返しに来てよ!持ち逃げしたら許さないからね!!……これは投資だよ。」
………!
「ああ!必ず!絶対に返しに来るよ!約束だ、エルザ!」
「……!うん!約束だ!!」
「…私、すっごい邪魔じゃない?大丈夫?これ。」
黙っててくれないかなあ?
「アキーラ〜〜!!行ってらっしゃーい!!あたし、待ってるからね〜〜〜!!」
そういいながら手を振るエルザに、笑顔で振りかえす。
…帰る理由が出来ちまったな。
「あの子、気付いてたんじゃない?君が戻るつもりなかったの。」
「上手くごまかしたつもりだったんだけどなぁ。」
「君多分、自分で思ってるよりわかりやすいよ。それも、かなり。」
ウソぉ!?ウソツキリンリンだよぉ!?そうなのぉ!?
「ほら、今ウソって思ってる。ふふふ!」
「思ってません〜〜。全然思ってません〜〜。」
「あははははは!!なにそれ!」
そんなこんなで、俺達は一路、フレインガルド神国へ向かう。
クソ女神が残した言葉の意味はわからんが、そこに何か、大事なものがあるはずだ。
「ヨーソロー!!」
「それ船だよ。これは馬車。」
「雰囲気だよ!雰囲気!」
旅は道連れ世は情、情けは人の為ならず、ってな。
あ、そうだ、さっきもらった剣、鑑定しーとこ。
アキーラの片手剣:稀代の鍛冶屋エルザが、ただ一人の人間の無事を思い打ち直した片手剣。切れ味はそれなり。だが、その刃は決して折れず、曲がらない。持ち主がどれだけ無茶をしようとも、最後まで付き従う。⸺その代わり、逃げることは許さない。願わくば、この剣の持ち主がどうか無事でありますように。売却不可。というか、禁止。
…重たいなあ。いや、いいんだけどね?
帰る理由が、また増えちまったな。
第一章、完




