第23話 戻ったもの、戻らなかった者
「うぉい!ビール追加だあ!!」
喧騒が戻ってくる。
邪神なんてまるで初めからいなかったかのように。
いつもの喧騒が。
だけど、俺の横にある、破壊された床板が先ほどの出来事が夢や妄想の類じゃないことを証明していた。
(ア、キーラ、だいじょ、うぶ?ケガ、してない?)
あ、ああ。すまねぇ、おかげで助かった。お前がいなかったらどうなってたか…。
(へへ、へんなの。まきこん、だの、ワタシ、なのに…)
何言ってるんだよ!確かに死んだのはアレだったけど…、これでも楽しんでるんだよ!もう責めるつもりなんか…。
(よか、った…。きに、してたんだ、よ、これでも…)
っていうか、おい!なんか元気ないぞ!まさかこのまま消えるとか言わないよな!おい!
(だいじょーぶ、めがみは、ふじみだから、ちょっとつかれた、だけだよ)
待て待て!まだ行くな!俺はこれからどうすればいい!?
(ここに、いちゃだめ、しんこくに…、きて)
申告!?深刻!?なに!?なにが!?
(ぶは!…そっちじゃない、かみの、くに)
かみのくに?神の国?神国?
(そ、よろしくね、じゃ、ばいばい、あきーら)
待て!まだダメ!行かないで!神国ってなに!!
深刻なのは俺だよ!!どうすんだこの空気!
おい!!おーい!!!!
「ダメだ。マジで行きやがった…。」
呆然と立ち尽くす。
えーっと?リサさんが実は邪神で?本当のリサさんは引っ込み思案で?クソ女神がフレイヤ?じゃあ俺は誰だ?オーディンか?
えええ…?どうしよう。てか何だ神国って。
そもそもこの世界にあるのか?
「神国ってどこなのぉ…。」
「創造神である女神フレイヤを讃える女神教を国教と定めている宗教国家だね。フレインガルド神国だったかな?ここからだと結構距離あるよ。」
「ゾフィー!!大好き!!」
「ハハハ!結婚するかい!?」
「まえむきにかんがえとく!!」
「まだダメか。でもどうしたの?急に神国なんて。」
「いやまぁ、色々と…。ゾフィーは何でここに?寝たんじゃなかったの?」
「はっ!そうだ!私はここで強力な魔力を感じてね!いてもたってもいられず…、やや!!なんだこの穴!すごい!」
おお、すごい体勢で穴にかぶりついてる。
美人なのに残念だなぁ。
さっきからギルドの皆が目を合わせないのもそのへんに理由があるんだろうな。
「ふむふむ、これは…ものすごい魔力…、密度?まさか直接…、人間に可能なのか?…アキーラ君!」
「ふぇ!?なにぃ!?」
「ここで何が起きたか知らない!?知ってるよね!君なにかと巻き込まれそうだし!!教えて!!」
「えええ…。」
なんでバレてるのぉ?っと、真面目にやらんとダメだな、これは。
「ゾフィー、ここじゃちょっと…。」
「おお、耳元で急に話しかけてくるなんて、君もまんざらじゃないのかい?いいよ、それならお家帰ろ?」
きゅうしょにあたった!!
「こうかはばつぐんだ…。」
「どうした?アキーラ君?おーい。ま、いいか。さ、おうちに帰るよー。」
アキーラは、ドナドナされた!
「さて、それじゃあ聞かせてくれるかな。あそこで何があったのか。」
ゾフィーの部屋に戻り、椅子に座って質問タイムだ。だがその前に。
「その前に聞かせてほしい。ギルド受付嬢のリサって知ってるか?」
「あまりギルドに行かないから、ピンとこないけど…、多分あの子かな?茶髪で暗い感じの。」
やっぱそうなのね…。
「ふざけてる訳じゃないんだが、俺の知ってるリサさんは金髪ポニテなんだ。」
「イメチェンしたってこと?」
「いや、そうじゃない。何というか、ギルドに行くと偽のリサさんに襲われて、見逃された。多分期間限定。以上。」
「雑すぎない?だいぶ端折ったよね?」
「だってわかんないもん!神国いきたいの!!」
「うーん…。じゃあ私も行こうか。ちょっと気になるし、そろそろフィールドワークに行きたかったしね。」
「は!?いやいやいやいや、そうはならんやろ!!」
「いーや!これはチャンスの予感!君についていけばここじゃ経験できないものを見れそうだ!ちょうどいい!!けってーい!!」
ゾフィーがなかまにくわわった!!
あ、エルザのとこ行かなきゃいけないの忘れてた。
「おーいゾフィー。さすがに今日明日に出発とはならんよな?」
「ん?そうだね。出てる間のハウスキーパーも頼まないといけないし…。三日後でどうだい?」
「おっけー。三日後ね。ちょっと知り合いに挨拶に行ってくるよ。」
「ああ、行ってらっしゃい。…ふふ。」
さて、エルザの店だが…。街を出るって言ったら怒るよなぁ。どうしよう、あたしもついていく!なんて言われたら!
三角関係じゃん。地獄かな?
「なに店の前で踊ってんの?早く入ったら?アキーラ。」
地獄ダンスを見られてたか、失敬失敬。
ほな、邪魔するでー。
カラン、カラーン
「…で、わざわざ人の手を止めといて、さっさと出てった不義理はどう説明するんだい?」
「あ、エルザ、このお茶ちょっと冷えてる。」
「あんたがさっき来た時に入れたからね!!あんた出す前に出てったけど!!」
「すっごい飲み頃でおいしい。大好き。」
「ぐ、ぬ………、はぁ〜〜〜、もういいよ。アキーラ。それで、どうしたの?顔、死にそうになってるよ。そんな顔初めて見る。」
!!エルザも結構見てるよねぇ。俺がわかりやす過ぎんのかな?
「あ〜、なんというか、色々あってな。…3日後に街を出ることになった。」
エルザがポカンと口を開けている、と思ったら、
「はぁ!!?街を!?なんで!?来たばっかりだろう!?なんで出ていくのさ!!」
「色々あったんだ…。ここに居れなくなった。俺は…神国に行く。」
出来るだけ、深刻に…な。
「…なに、その顔。自分だけわかった顔しちゃって。何も説明しないで!!納得できると思ってんの!?」
「本当に悪い、言い訳はしない。でも、行かないといけないんだ。」
「〜〜〜〜〜!!もういい!!出てけばいいじゃん!!ほら!出てけ!バーカ!!」
ごめん、エルザ。ほんと。
冷えたお茶は、なんだかとっても苦かった。




