第22話 邪神
いてもたってもいられず、俺は慌てて冒険者ギルドへ向かった。
何かとんでもない勘違いを、自分がしてしまったんじゃないかと。
できればそれが、勘違いであってくれないかと。祈りながら。
…後になって思えば、行かないほうが、知らないほうが良かったのかもしれない。
バターン!!
荒々しくドアを開ける。
いつものギルド、掲示板で依頼表とにらめっこしている冒険者。
なにか資料を抱えて階段を降りているギルド職員。
依頼達成のお祝いか、この時間から酒を飲む男たち。
なんだ、いつも通りか。
ホッとして、いつものようにリサさんを探す。
これから奉仕依頼の報告をして、エルザのところへ戻ろう。
さっきのは、さすがにちょっといきなり過ぎたな。
ちゃんと謝らないと、
─そう思った。その時に、止まった。
にらめっこした冒険者も、
資料を落としかけて慌ててる職員も、
ビールを豪快に飲んでいる男も、
全てだ。
あれだけ騒がしかった人々の喧騒も、何もかもが止まってしまった。
…目の前の一人を除いて。
「アキーラさん。私、本当に残念です。」
今までと同じような優しい、だけどとても醜悪な、悪意で濁りきったドブみたいな顔でリサさんが笑う。
「私、あなたのこと、とっても、期待してたんです。女神と早く仲違いして、どっか行ってくれないかなって。」
俺の目の前で笑いながら話してくる。コレはなんだ?
暑くなんてないのに、額に汗が浮かぶ。
「あの女、いつまでも諦めが悪くて。もう力も少ししか残ってないのに、英雄のリソースをあなたなんかに使っちゃってるし、ついに耄碌したのかな?なんて。だけど、まだ、目が諦めてないんですよねえ。」
(アキーラ!離れて!!)
見えない力で思い切り横に引っ張られる。
その瞬間、さっきまで俺のいた場所が、見えないハンマーに押しつぶされるようにして潰れた。
バキィ!!
硬い木の板で出来た床が無残に砕け散っている。
…おいおい、まじかよ。
(…うぐ、アキーラ。逃げて…、早く…!!)
「うふふ。やっぱりご執心。気になるなあ、気になるなあ。もう無理なのに、何を頑張ってるんですか?私の勝ち、あなたの負け、そうでしょう?女神フレイヤ。」
(な、なんの、ことか、ぜんぜん、わかんないわね…!)
「やっぱり何か隠してる!…まあいっか。ここで遊ぶのも飽きてきたし、そろそろ私も戻らなきゃ。うふふ、アキーラさん。よかったらぜひ、遊びに来てね?あなたなら歓迎するわ。…生きて辿り着ければだけど。」
「………善処するよ。」
「うふ、うふふ!あはははははは!おもしろい!足は震えてるのに!私に勝てないってわかってるのに!…ねぇフレイヤ、あなたもこれが楽しくて、この子にしたの?…それじゃあ、お邪魔虫はそろそろ行きましょうか。それじゃあアキーラさん、待ってるわね。きっと来てね?約束よ?」
そう言い残し、リサさんだったナニカは俺の目の前から消えた。
本当に消えた。
おい、なんなんだあれ、今までで1番やばかったぞ。
(…邪神、よ。それも、最悪の、ね…) こうして、俺と邪神の最悪な出会いは幕を閉じた。
エルザに謝りにいくのはまた今度になりそうだ─────




