↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/21

13.ユージーンとは何者ですか?


 ユージーン・バートン

 彼はバートン伯爵家の次男で、騎士学校を優秀な成績で卒業した後、王国の騎士団に入団した。入団後もその実力は遺憾なく発揮されて、弱冠19歳にして聖女の護衛騎士に選ばれている。性格は明るく人から好かれやすいが、女性関係が派手な一面があり、女と見るや口説くので、女性人気も色々な意味ですごい。何度か城を歩いていて彼の修羅場を目撃したこともあった。


「女性関係のあれそれは置いておくとして……騎士としては優秀なんだよね」


 私は自室でノートを広げて、ユージーンについて集めた情報をまとめる。

 私が知るユージーンは、女たらしという側面以外は優秀で、騎士の中でも比較的話しかけやすい騎士だった。私が王女という身分であっても気さくに話しかけてくれるし、私に限らず誰とでもすぐに打ち解けるので顔も広い。所謂コミュ力お化けみたいな人だと思っている。

 そんなユージーンが、エイミーが気にするほどの、何らかのネガティブな感情を抱いている。どうにも彼のイメージには合わないし、何より私の持っている前世の知識の中にも彼がそんな人物だという情報は全くなかった。

 けれど前世の記憶はあくまで前世の記憶に過ぎない。今、エイミーが何か感じるものがあったというのなら、何かあるに違いなかった。そうして色々調べてみるうちに、一つ気になる情報を見つた。


 それは、彼の「妹」の存在だ。妹とは言っても実の妹ではなく、義理の妹である。ユージーンの義妹、マリア・バートン。彼女は聖女候補として今の聖女試験に参加していた。私が数年前に攻略対象者やその周辺を調べたときには出てこなかった人物である。詳しく調べてみると彼女が伯爵家の養子になったのは、彼女が聖女の力を発現したタイミング、今からおよそ1年前だった。時期から考えても、彼女は恐らく「聖女試験」のために養子にされたのだろう。バートーン伯爵は野心家だという噂を聞いたことがあるし、今回の聖女試験で、マリアの合格を狙っているという考え方をして問題はなさそうだった。

 そうなってくると、伯爵家の次男であるユージーンが、聖女候補として有力なエイミーを邪魔だと思うのも納得できる。

 では、誘拐事件との関わりはどうだろう? 私は思考を巡らせる。

 例えば、ユージーンがあの誘拐事件に関係があったとすればいくつかの謎は解決するだろう。サクレからエイミーを連れ出すのに、聖女の護衛騎士であるユージーンが手伝っていたとしたら成功率はぐっと上がる。あるいは、誘拐の実行犯として今回捕まったゴロツキの男たちの存在。ユージーンは騎士として何度か彼らを取り締まったことがある可能性は低くはない。もしそうなら面識はあるだろうし、接触もしやすかったのかもしれない。そして何よりあの精度の高い結界。騎士として有能なユージーンなら、あの結界は確実に張ることができるだろう。

 考えてみるとユージーンが誘拐事件の真犯人だとしたら都合がいいことばかりに思えるけれど、結局私が都合よく当てはめてしまっている感も否めなかった。いくらユージーンにエイミーの邪魔をする理由があったとしても、誘拐事件と結びつけるのは些か強引すぎる。何より、私は自分がエイミーよりの思考をしている自覚があった。下手に偏った先入観を持っているから、何か重要なことを見逃しているかもしれない。

 まあどのみち証拠は一つもないし、仮にユージーンが誘拐事件の真犯人と何か関係があったとしても、わからない謎は多く残されるわけだけれど。


 そこから原作の乙女ゲームについても色々と考えてみたけれど、結局私は彼のルートをやったことがないのであまり使えそうになかった。ユージーンに関して私にあるのはアニメの知識だけだ。アニメでは彼は普通にチャラ男ポジションとして登場して、主人公との交流を通して少しずつ本当の愛に目覚めていく、みたいな話だったので、特に怪しいところはなかったはずなのだが。


 でもアニメと原作は結構違うらしいしなあ。


 私はぐ、と背もたれに体を預けて伸びをした。

 前世の友人は原作の乙女ゲームの大ファンだったけれど、「アニメはアニメ、ゲームはゲーム」と口癖のように言っていた思い出があった。ユージーンの話が出たときも「まあ、アニメはアニメだからね……とりあえずアンタはゲームをしたほうがいい」と遠い目をして言っていた。現状を考えると、あまりアニメの知識に頼るのは危険だろう。前世の記憶が頼れないとなると、今の私が持てる知識を駆使するしかない。


 少し、ユージーンと直接話してみてもいいかもしれない。考えても埒が明かない思考をシャットダウンするように、私はノートをぱたんと閉じた。聖女試験の追試が行われるまで約二週間。それまでに私が調べるべきなのは、ユージーンと彼の義妹マリアのことだろう。調べて、少しでもエイミーの心配を取り除いてあげたい。


 私はノートを仕舞う代わりに、さらの便せんを一枚取り出した。先日届いたばかりの婚約者様への返事をまだ書いていなかったのだ。こういう気持ちを切り替えたいときに、婚約者様への手紙は最適である。

 けれど、冒頭を書き始めて、ふと手を止めた。ついうっかり、昼間のリールとの会話を思い出してしまったのだ。そのあとの追試試験のことで頭から追い出していたけれど、そういえばリールにもちゃんと謝らないといけなかった。


――聞いたところじゃ、直接見たことも会ったこともないんでしょう?


 リールの言葉が思い出される。私はしばらく白紙の便箋を眺めた。いつもならこれと向き合う時は楽しい気持ちでいっぱいなのに、リールが変なことを言うから、色々思い出してしまった。

 私は結局白紙のまま便箋を机にしまった。今日は書いても婚約者様に心配される文章になりそうだったからだ。代わりにエイミーからもらったクッキーの箱を取り出す。エイミーが私を案じてプレゼントしてくれたクッキーを見てちょっと気分を持ち直した。






■




 翌日、私はさっそく騎士の訓練場に向かった。騎士が訓練する時間帯を狙って行ったので、訓練場にはすでに多くの騎士たちが出てきている。今日は若い騎士が多いようだった。

 ちらちらと向けられる視線にできるだけ優雅な笑顔を浮かべながら訓練場に入る。若い騎士が多いだけあって視線は不躾なものだったけれど、入団したての騎士も多いようだし仕方がないか、と肩を竦めた。騎士団は貴族でも平民でも関係なく、実力のみ重視して選ばれる。だから騎士団に入った以上は貴族も平民も関係なく扱われるが、同時に騎士としてのマナーを徹底的に叩き込まれると聞いていた。彼らもそのうち、騎士団の怖そうな先輩たちから色々と教えてもらうことになるのだろう。

 私は訓練所に入ってからさっとあたりを見渡した。何度か興味本位で騎士の訓練を見学したことがあるので、騎士たちの邪魔にならない見学場所は把握している。見学場所に向かいがてら、今日の目的であるユージーンを見つけられるといいのだけれど。


「アリシア様?」


 そう思って辺りを見渡していると、なんと当の本人から声をかけられた。刃の潰された訓練用の剣を片手に持っていたユージーンは、腰に剣を仕舞うと軽い足取りでこちらに近づいてくる。


「今日は騎士団の見学をされるんですか?」

「ええ、たまたま時間が空いたから久しぶりに。あ、団長の許可はいただいています」


 昨日色々考えたせいで、ちょっとユージーンと話すのに緊張する。けれどユージーンは私の様子を不審がる様子もなく、「そうですか」と爽やかに笑った。どうぞ、ご案内します、とそのまま見学用の場所までエスコートされる。これはいきなり大チャンスである。


「この間お倒れになったと聞いて心配していましたが、体調はもう大丈夫なんですか?」

「え? あ、ああ、はい」


 しかもピンポイントで誘拐事件に関係する話題を振られている。そういえばユージーンと会うのはあの事件が合ってからは初めてのことだったな、と思い出した。

 この話の流れで、上手いこと話を聞きだしたい。


「実は、聖女候補のエイミー・クレランドに治療してもらったんですよ。おかげですぐに全快しました」


 少し考えて、とりあえずエイミーの名前を出してみることにした。反応を伺ってみるけれど、ユージーンは「ああ」と特に表情に変化を見せないまま頷く。


「その話は俺も聞きました。その時の腕を見込まれて、特例で追試試験を受けられるとか」

「そうらしいですね。あ、そういえばユージーンは、その追試試験に同行されるんでしたっけ?」


 これはかなり自然に話を持ってこれたのではないだろうか。

 どぎまぎしながら話を振ると、ユージーンは少し驚いたような顔をした後「さすが、耳が早いですね」と苦笑した。


「ええ、光栄にも聖女候補様の護衛騎士の一人に引っかかることができました。先輩方の足を引っ張らないよう、精いっぱい務めるつもりです」

「そうですか、頑張ってくださいね」


 ところで、と私は緊張を隠すように笑顔で首を傾げた。


「その聖女候補のエイミー・クレランドとは、面識が?」

「え? ああ、はい、何度かお話したことはありますよ」

「……印象はいかがでしたか?」

「印象? あー、真面目そうというか、噂に聞く通り優秀そうな聖女候補様ですよね」


 私は笑顔を保ったまま、ユージーンの表情の変化を注視した。「あ、俺別に手を出すつもりはないですからね。確かに顔は好みですが」と慌てるユージーンに、特に不自然な動揺は見られない。エイミーの言うネガティブな感情も私からは見つけられなかった。


 うーん。わかってはいたけれど、流石にこんな話の振り方で彼の内心が引き出せるはずもないか。


 気づけば私はユージーンにエスコートされて、訓練場のちょうど中程まで来ていた。もう見学場所まであと少しというところだった。ここから別の話題を振っても尻切れとんぼになるだけだろう。このあとユージーンも訓練に戻らなければならないし、引き止めるのも不自然だ。

 私は、とりあえずはここまでかな、とため息を吐いた。話を聞くにしてもひとまず訓練後にした方がいいだろう。ユージーン以外にも、彼と親しい騎士を捕まえて話を聞いてみるのもアリかもしれない。そう思って「ここまで案内してくださってありがとうございます」と言おうと口を開いた。その時だった。

 不意にユージーンの気配が変わる。


「危ない!!」


 遠くの方で誰かが叫ぶ声が聞こえた。「え?」と視線を向けた先から、何かが物凄い速さで飛んでくるのが見える。それが訓練用の剣、と気づいた次の瞬間には、私を守るように目前にユージーンが立っていた。


「下がって」


ユージーンの低い声とともに、一瞬で視界が白く染まった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。