兵どもが夢の跡
「バトルアックス・スクネ機、識別信号消失。パペット隊……全滅です」
ガンダルフのブリッジは、レベッカの報告で重苦しい空気に包まれる。
「そうか……他の機甲部隊はどうなっている?」
「ビークルアーマー隊はまもなく帰艦、ディスケン機以外は補給が済み次第再出撃可能ッス。ドラゴン、ペガサスは戦闘継続中、グリフィンは中破したパペット隊を回収してこちらに向かってるッス」
アムラが感情を押し殺した声で問うと、アルスが状況を報告する。アムラは無言で頷くと、ジムとディックに尋ねる。
「機関の魔力充填はどうなってる?」
「ほぼ回復しています。通常航行可能です」
「ディック、今使える魔法は?」
「“超重力”、“火球”が1回づつ、“暴風刃”なら3回使えます」
アムラはシートの周囲に浮かぶスクリーンの1枚を拡大した。そのスクリーンには、レーダーと使役魔から送られてくる情報を統合して、戦場全体の敵味方の動きが映し出されている。戦闘開始時にはスクリーンを埋め尽くすほどだった妖魔を示すマーカーは約三分の一にまで減っている。ただし、味方の数も減っている。ガンダルフ所属の機甲部隊で戦闘継続中なのはドラゴンとペガサスのみ、アラゴルン以下の13艦隊のパペットやビークルアーマーも動いているのは数体だけである。
「敵はかなりバラけてやがる。これじゃあ、範囲魔法は射つだけ無駄だな」
アムラは顎に手を当てて数秒間考え込むと、次の指示を出す。
「アラゴルン以下の各艦は散開して、それぞれの機甲部隊と一緒に敵を一ヶ所に集まるように追い込ませろ。集まったところをガンダルフの“超重力”と“火球”で一気に片をつける。敵が一ヶ所に集まるまでの間、ガンダルフは“暴風刃”と通常のルーンキャノンの艦砲射撃でしのげ」
アムラの指示はアルスによって全部隊に伝達され、各艦は速やかに行動に移った。それぞれ生き残っている機甲部隊を呼び戻し、艦と連携をとり妖魔たちを追い詰めていく。上級妖魔の操るゴーレムも僅かに残っていたが、カーンとクーリラのファントムが退場した今、ドラゴンとペガサスの敵になるほどの猛者は残っていなかった。
3体のパペットを抱えてガンダルフに向かうコスモは、見る間に追い詰められていく妖魔を横目に見ながらぼやく。
《おいおい、俺の獲物がなくなっちまうじゃん。ガンダルフに戻るの後にして、俺もあっちに加わろうかな》
『勝手にしろ、と言いたいとこだが、僕はともかく、バリスタとバトルアックスはいつ生命維持装置が停止してもおかしくないダメージだ。すまないが、急いで帰還してくれ』
《分かってるって、ほんのジョークだよ》
コスモは心底不本意なそうなマルスの言葉に笑って答えると、行く手を遮る妖魔を“視線光線”で退けつつガンダルフへと急ぐのであった。
「左前方、0.2宙里の宙域に妖魔の約4割を追い込みました」
「よし、これ以上無理に集めようとしても、こちらの損害が増えるだけだ。とりあえず、一発ぶっぱなせ!」
アルスの報告を受け、アムラがブリッジ中に響き渡る大声で号令をだす。
「了解、魔力充填よし、照準よし、‘ファヴォル・フィエルン’!」
ディックがトリガーに埋め込まれたジェルーンに手を添えながら呪文を唱えるとガンダルフの先端にあるドームがオレンジに輝く。直後、妖魔の集中している宙域の中心に巨大な火球が出現した。火球はほんの数秒間だけ燃焼して消滅してしまったが、そのわずかな時間で充分だった。火球に呑み込まれた宙域は無数の焼け焦げたゴーレムの残骸が漂い、辛うじて生き残っているのは強力な防御結界を持つ一部のゴーレムだけであった。そして、火球に巻き込まれなかった妖魔たちも、この光景を見て完全に戦意を喪失した。もはやラグティウスの戦艦や機甲部隊に攻撃しようとする者はおらず、一目散に逃げだした。
「深追いはするな、こっちだってそんなに余裕があるわけじゃねえ」
アムラの言葉が事実上戦闘終了宣言となり、ラグティウスの各機は妖魔が逃げるのに任せ、各々の母艦へと帰還した。
かくして、約5倍の敵を打ち破ったラグティウスであるが、その損害はけっして小さくなかった。ガンダルフはスクネとヤックスのパペットが撃墜され、アラゴルン、ボロミア、ギムリ、レゴラス所属の機甲部隊は半数以上が墜とされた。さらに、戦闘中ガンダルフの盾となっていたボロミアとギムリは艦自体にもかなりのダメージを受けていた。
《皆、良くやってくれた。大きな犠牲を払ったが、ついにクロムの入口となるゲートを奪還することができた》
アーサーはドラゴンをガンダルフ着艦させると、ガンダルフのクルーだけでなく、アラゴルン 、ボロミア、ギムリ、レゴラスの各艦も含むラグティウスの全メンバーに向かって語りかけた。
《だが、これはまだこれから続いていくアディードとの戦いの第一歩にすぎない。アディード側も今後は指揮系統を持った軍を編成して、ゲートの奪還に来るだろう。そうなると、ソーノ側のゲートを護っている守備艦隊をこちら側呼び寄せても、ここを護りきるのは難しい。そこで我がラグティウスは、妖魔たちが体制を整える前にゲートに一番近い惑星アルマを解放し、ゲートとアルマを含むこの辺り一帯の宙域をドリュオンの勢力圏とする……》
運んできたパペットを2番ハンガーユニットに置き、グリフィンを1番ハンガーユニットの所定の位置に収めたコスモは、アーサーの演説に首をかしげて先に着艦していたシアトリヤに尋ねる。
「ゲートひとつ取り戻しただけでボロボロになるような連中が、星ひとつ解放するような戦いについて来れんすか?」
コスモはマルスたちパペット隊の惨状を目の当たりにしただけに、アーサーの目指す道が生易しいものでないことを肌で実感することができた。ただし、それはあくまでもパペットやビークルアーマーに対してであって、自身の力に対する不安は毛ほども感じていない。
「確かに厳しい戦いになるわね。でも、勝算がないわけでない。その勝利の鍵はわたしたちのゴーレム。コスモ、あなたはラグティウスの全員の命、いえ、星ひとつの命運を背負う覚悟をしてもらいます」
シアトリヤは危機感が稀薄なコスモの態度に眉を顰め、厳しい口調でコスモの覚悟を促す。
「覚悟ね、要は負けなきゃいいってことでしょ。任しといてください」
表面上はお気楽な態度を崩さないコスモであるが、その瞳に僅かながら悲壮感がよぎる。
翌日、ソーノ側を護っていた守備艦隊がゲートを越えてクロム星域に到着した。ラグティウス艦隊は戦闘で散った仲間の魂に別れを告げ、アルマに向けて舵を取るのだった。




