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鋼と魔法の英雄伝  作者: 武本 丈
ゲートを抜けると、そこは戦場だった
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漆黒の稲妻 -2-

「ヤバいぞカンちゃん、地味に効いてやがる。このまま喰らい続けたらファントムがもたない」

これまで比較的余裕を見せていたクーリラの声に初めて焦りの響きが混ざる。

「わぁってら。見てろぉ、次きたトキに叩き墜としてやらぁ」

傷だらけになりながら剣を正眼に構えるファントム。浅い斬撃は無視して、グリフィンを一撃で仕止めるべく待ち構えるファントムからは、カーンの気迫が溢れ出す。

「おっ、覚悟を決めやがったか!? ならとどめを刺してやるか。さらにギアを上げていくぜ!」

 カーンの気迫を感じ取ったコスモも気合いを入れ、“刃利剣”のスピードをさらにアップさせた。そのスピードはすでに達人の眼でも捕らえられるレベルを超えている。

「‘シフィールド’」

 クーリラが呪文を唱えると、ほぼ無力化されていたファントムの防御結界が消失し、新たにより強力な結界が発生する。

《んなモンで防げるか、ブチ抜けぇぇぇぇっ!!!!》

グリフィンはかまわずに結界の上から斬りつけるが、強固な結界に阻まれて刃はファントムの装甲まで届かずに弾かれてしまう。しかしコスモはそんなことにはお構い無しに、さらにスピードを上げて斬撃を重ねていく。

「この結界もあと一撃くらいしかもたないな……だが、データはとれた」

 クーリラはグリフィンの動きを計算しながら呻く。

「よし、読めたぞ。カンちゃん次3秒後に右80度後方だ!」

 グリフィンのコースをはじき出したクーリラがそう叫ぶ間にも、グリフィンは目にも止まらぬスピードでファントムの脇を駆け抜けながら斬りつけ、限界までダメージを蓄積された結界が消失する。しかし、カーンはクーリラを信じて駆け抜けるグリフィンには目もくれず、ファントムが持つ剣を大きく振りかぶった。

「3…2…1…今だ!」

《死ねぇ!》

 クーリラの合図でカッと眼を見開いたカーンは、振り向きざまファントムの剣を思い切り振りおろした。振りおろす剣の軌道は、突撃してくるグリフィンの首を正確にとらえていた。

「ま…まさか……見切られた!?」

 “刃利剣”の効果である思考加速のおかげで辛うじてファントムの剣に反応できたコスモは、グリフィンの両腕の剣を交差させてなんとかファントムの剣を受け止めた。

《受け止めたことは褒めてやる。だけど、チョコマカ飛び回るのは終わりだ》

ファントムは畳み掛けるように、体勢を崩したグリフィンに斬りかかる。

《‘メカ・ラカ・イコー・セン’》

コスモは再び“視線光線”の魔法で牽制してファントムの刃を逃れる。

《またかよ、チョコザイな小技使いやがって》

 ファントムは“視線光線”でうっすらと焦げた装甲を乱暴に叩きながら4つのアイレンズをグリフィンに向けた。その視線からはカーンの苛立ちが滲み出ている。

《喚くな単細胞。小技が嫌なら、真っ向勝負してやっても良いんだぜ》

 コスモはカーンの苛立ちのこもった視線を涼しい顔で受け流すと、グリフィンの足を止めその場で打ち合う姿勢を見せた。

《ほぅ、いい覚悟だ》

それを見て取ったカーンがファントムの足をとめ、剣を構えなおそうとした。

《‘降り注げ豪雨、釣瓶打ち岩をも穿つ剣撃の雨よ…》

しかし、ファントムが構えるより速く、コスモは新たな呪文を完成させる。

《…嵐・撃・剣!’》

コスモが呪文を唱え終わると、アームガードから剣を生やしたグリフィンの両腕は、鋭い突きを立て続けに繰り出し始めた。

《えっ、ちょっとタンマ!?》

 ファントムは焦って躱そうとするが、矢継ぎ早に繰り出される無数の突きをそうそう躱しきれるものではない。グリフィンの突き出した腕からのびる剣の切っ先が深々とファントムに突き刺さり、その機体を抉る!

両足を宙に踏ん張り突きを連打するグリフィン、その突きは一撃一撃がランスのチャージに匹敵する威力を持ち、連打のスピードは1分間に千発にも迫る。星海に雄叫びを響かせて連打を続けるグリフィン。

《打!打!打!打!打!打!……》

ファントムは後方へ逃れようとするが、嵐撃剣の発動と共に周囲に捕縛結界が張られており、グリフィンから離れることができない。ファントムは成す術なく打たれるがままに立ち尽くし、見る間にボロボロになっていく。

「ダメだ、もうもたない!? カンちゃん脱出するぞ」

「ヤダ、コイツを捨てろってのか!」

クーリラが脱出を促すが、カーンはシートにしがみついて駄々をこねる。

「命の方が大事でしょ!」

クーリラがかまわず脱出レバーを引くと、ファントムのコクピットブロックが後方に射出された。

《ぃよっしゃぁ、勝~利!》

 カーンたちが脱出してゆくのを確認したコスモは連打を止め、グリフィンの腕を高々と上げて叫ぶ。

「あ~、オレのファントム……チクショー、いつかカタキをとってやるからな」

「イヤ、仇は今とってやる。‘メカ・ラカ・イコー・セン’」

 ボロボロのスクラップと化したファントムを目の当たりにしたカーンが泣き叫んで喚くと、クリラは押し殺した声でそれを制し、呪文を唱える。それも、先程からコスモが何度も使っている“視線光線”の呪文を!?

 すると、クリラの呪文に反応して残骸と化したはずのファントムのアイレンズより、勝利を決めて油断しているグリフィンめがけて光線が発射された。しかも眼が2つのグリフィンの“視線光線”は2条だったのに対し、眼が4つのファントムからは当然のことながら4条の光線。4条の光線は螺旋を描いて1条の太い光線へと束ねられる。

《げっ、やべっ!?》

『どけっ!』

 コスモが光線に気づいたのはグリフィンに命中する寸前、もはや回避は不可能なタイミングだった。しかし、光線はグリフィンに命中することはなかった。光線とグリフィンの間に割り込むように飛び込んで来た機体がグリフィンを突き飛ばしたのであった。それは、ファントムにランスを叩きつけられて戦闘不能になったかに思われたスクネのバトルアックスだった。

 危機一髪でグリフィンを救ったバトルアックスであったが、その代償は大きかった。パペットであるバトルアックスには防御結界などなく、光線はバトルアックスのボディをまともに貫いた。光線に穿たれた穴から一気に魔力が溢れ出す。すでにダメージを負い、全身の亀裂から魔力が漏れ出ていたバトルアックスは自ら溢れ出た魔力の光に呑み込まれ、機体を崩壊させていく。


「クソ、死に損ないが邪魔しやがった」

「クリ、もう一発だ。いけ!」

「無理だって、もう不意討ちにはならない。今こっちを攻撃されたらひとたまりもない。撤退するぞ」

 バトルアックスが呑み込まれた光を睨みながら忌々しげに呟くクーリラをけしかけるカーンだが、クーリラはそれには取り合わずに撤退を促す。

「チクショー、覚えてやがれ」

 こうしてカーンとクーリラの2人はカーンの陳腐な捨て台詞を残して、戦場から退場するのだった。


《お…おい、スクネ? あの程度の攻撃でやられるなんて、冗談だろ?》

 コスモは現実を受け入れられないように呟き、バトルアックスのいた空間にグリフィンの手を伸ばす。すでにバトルアックスを呑み込んでいた魔力の光は霧散して、残骸となったバトルアックスが漂っていた。魔力が溢れ出た中心付近にあったコックピットは跡形も残っていない。

『パペットとゴーレムは違う。あの程度の魔法にも耐えられないんだ。もう、スクネはいない……』

 コスモに沈んだ声をかけてきたのは、身動きの出来ないランスから何も出来ずに、見ていることしか出来なかったマルスだった。

《マルス、あんた生きてたのか》

『スラスターをやられて身動きできないけど、なんとかね。あと、リョーヤとヴァイスの機体にも生命反応はあるから、辛うじて生きていると思う』

 驚きながらもマルスの生存を喜ぶコスモとは対照的に、答えるマルスの声は自嘲に満ちている。5体のパペットのうち、自力で動けない中破がランス、バリスタ、バトルアックスの各1体、そして、バリスタとバトルアックスが1体づつ撃墜と、事実上の全滅では無理もない。

《そっか、とりあえず生き残ったのは、ガンダルフに連れて帰るぞ》

 グリフィンはランスを抱えると、後ろを振り返ってバトルアックスの残骸を名残惜しそうに一瞥すると、リョーヤとヴァイスの回収に向かうのだった。

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