漆黒の稲妻 -1-
《俺等はあのデカブツを叩いてくる。お前たちはそのザコにきっちりトドメをさしてこい》
そう言い残すと、艦隊目掛けて飛び去ろうとするカーンとクーリラのファントム。ゴーストを操るゴブリンたちは殺戮の指示に歓喜の奇声をあげて、ダメージのために思うように身動きできないでいるランスとバトルアックスに殺到する。
「くっ、こんなところでやられるわけにはいかない。動け、動くんだ」
必死でランスを動かそうとするマルスだが、ファントムに喰らった蹴りとバトルアックスとの激突によるダメージで、下半身とバックパックのスラスターがマルスの操縦に応えようとしない。スクネのバトルアックスも似たような状態である。
ゴーストはもはや姿を消すこともなく、刃を振りかざして一直線に迫ってくる。ゴーストの刃が力なく槍をかざしたランスの腕を弾き、コックピットのある頭部を斬り裂こうとしたその時、ランスとバトルアックスの周囲に閃光が走った。ゴーストたちの腕が飛び、胴が寸断される。ゴーストたちは次々と斬り刻まれ、瞬く間にその数を減らしていく。
やがて全てのゴーストは残骸へと姿を変え、閃光はランスの正面でその動きを止めた。腕に稲妻をあしらった金色のマーキングが施された漆黒の機体、コスモ・ライトニングのグリフィンであった。
《よっ、団爵様。お困りのようだな》
緊迫した空気をぶち壊すコスモのお気楽な声に、死も覚悟していたマルスは脱力しながら悪態をつく。
『まさか、お前に助けられるとはな。それにしても、タイミングを見計らったような登場だな』
《見計らってたぜ、敵が姿を現して狙いやすくなるタイミングをな》
コスモは当然のように答えると、立ち去りかけていたファントムに呼び掛ける。
《おい、そこの白いゴーレム停まりなさい。あんたの子分を散らかしちまったから、片付けていってくれ》
コスモに呼び止められるまでもなく、ファントムのカーンとクーリラは背後で起きた異変に気付いていた。
「カンちゃん、後ろ見てみ」
「なんだ、ありゃ!?、うちの子分どもがゴミになってんじゃねえか」
クーリラに言われて振り返ったカーンは、そこに広がる光景に我が目を疑い、ファントムの足を止めた。
「あの黒い奴、パペットじゃなくゴーレムだな。ちょっとは気を引き締めてかかった方が良さそうだな」
クーリラは素早くグリフィンとその周りに漂うゴーストの残骸に視線を走らせると、冷静に状況を把握する。
「もっとも、うちのバカどもがやられたのは、油断してゴースト唯一の特技である‘姿隠し’を解除しちまったせいだ」
数分前までは部下であった残骸を観るクーリラの眼は冷たく、カーンに状況を説明する声には軽蔑の色さえ滲んでいる。
「相変わらず冷たいヤツだな。アイツ等のカタキを討つんだ~っ、て燃えてきたりしねぇのかよ」
「そういうのはカンちゃんにまかせるさ。俺の役目はその燃え盛る怒りの矛先をうまく誘導してやることだ」
「あら、実はコッソリ燃えてんじゃねえか。そんじゃ、派手に怒りをぶつけてやりますか」
クーリラの冷めた発言に苛立ちかけたカーンだが、続くクーリラの言葉に隠れたニュアンスを嗅ぎとると、鋭い犬歯を剥き出しにして嗤いながらグリフィンめがけてファントムを加速させる。
《うちの連中を瞬殺たぁ、おもしれぇことしてくれんじゃねぇか。ナニモンだ、てめぇっ》
ファントムをグリフィンと相対させたカーンが吼える。
《何者って、訊いちゃう? じゃあ、言っちゃおうかな~、考えたばかりの名乗り口上》
コスモはグリフィンの両腕に装備された剣を抜刀して見得を切ると、嬉々として口上を述べるのであった。
《天呼ぶ、地が呼ぶ、人が呼ぶ、ついでに勝利の女神も俺を呼ぶ。宇宙を駆ける漆黒の稲妻コスモ・ライトニング見参!》
「フッ、漆黒の稲妻ね。普通、そういう二つ名ってのは自分で名乗るもんじゃないんだけどね」
「ぎゃはははは、いんだよ、細けえ事は。あれ結構いいじゃねぇか。俺もやってみよ」
「はぁ?」
コスモの口上をバカにして鼻で笑うクーリラに対し、カーン は面白がって大口をあけて笑う。 そして、自分も名乗り口上をやってみようと言う、これにはクーリラも呆れてしまい、思わず間の抜けた返答をしてしまった。
《今日は東に明日は西》
「宇宙に東も西もあるもんかい」
《戦場渡る流れ者》
「どこ行っても問題起こして、すぐに追ん出されるからねぇ」
《野生と知性の最強コンビ》
「おい、勝手に俺もまぜるなよ」
《カーン!》
「…………」
「…………」
カーンの口上に横から茶々を入れていたクーリラ だが、自分も口上を述べることを求められて黙ってしまう。しかし、カーンからの無言のプレッシャーのは勝てなかった。
《分かったよ、クーリラ!》
《俺たちゃ無敵のファントム・ファイター!!》
クーリラがヤケクソになって叫んだのを受けてカーンが締めくくった。そして……
《《いざ、ジンジョーに勝負!》》
まるで打ち合わせていたかのように、コスモとカーンが口を揃えて叫んだ。
「おバカなお調子者同士で、お前らお似合いだわ」
呆れるクーリラをよそに、2体のゴーレムは一気に距離を詰めて刃を斬り結ばせる。
《おとなしく俺の剣のサビになりな》
無茶苦茶に剣を振り回すグリフィン、その動きには無駄も多く出鱈目ながらとにかくスピードが尋常でない。対するファントムの剣も剣術として洗練されているとは言いがたく、力任せに剣を振り回しているだけのように見えるが、カーンは野生の勘でグリフィンのスピードに反応して、余裕をもって全ての斬撃を弾き返す。
《うちのザコどもをやったくらいでチョーシこいてんじゃねぇよ。はは~ん、さては、てめぇもザコだな》
カーンはせせら笑うと、ファントムを大きく横っ飛びさせてグリフィンの渾身の突きを躱した。全体重を乗せて放った突きを躱されたグリフィンが大きく体勢を崩したたらを踏む。
「基本がなってない、こいつ素人だな」
《はんっ、トーシロがこの俺とやろうってのか。ナマイキなんだよ》
猪突猛進を絵に描いたようなグリフィンの動きにクーリラが感想を漏らし、カーンは鼻息荒く叫ぶと、追い討ちをかけるように激しい斬撃を繰り出す。
「うわっ、と…この!?」
必死に斬撃を捌くコスモだが、一度体勢を崩した状態からの挽回は難しく、徐々に圧され始めた。
《どうした、どうした、もうアトがないぞ》
調子にのったカーンは斬撃を繰り出す速度をさらにあげる。その速度はついにコスモの処理能力を越え、グリフィンは2本の剣を大きく弾かれ、無防備な胴をファントムの剣の前に曝す。もはやこれまでと思われたその時、コスモが苦し紛れに呪文を唱えた。
《‘メカ・ラカ・イコー・セン!’》
コスモが呪文を唱えるとグリフィンの双眼が輝き、魔力が破壊光線となって放たれる。光線がファントムに命中する直前にクーリラが対魔法結界を展開、結界は光線を拡散し、光線の威力はファントムの装甲をわずかに焦がす程度にまで弱められてしまった。結果、グリフィンの放った“視線光線”の魔法はファントムにダメージを与えることはできなかったが、牽制にはなった。
「おっ、ナマイキに抵抗しやがる」
「この程度の魔法なら俺が防ぐから気にしなさんな」
「リョーカイ、気にせずいくぜ」
グリフィンの放った光線に驚いたカーンは、剣を振りかぶったままファントムの動きを止めてしまうが、クーリラの言葉を受けてすぐさま剣を振り下ろした。ファントムが動きを止めたのはわずか2~3秒、しかしグリフィンが体勢を立て直すには充分な時間だった。
《今だ……、‘飛び交え斬撃、嵐となって吹き荒れろ……》
グリフィンは大きく後ろに飛び退り、コスモは呪文を唱え始めた。その呪文は以前ショートソードで戦った時にも唱えたものだが、現在はより完成度を高めてグリフィンに習得させている。コスモが呪文を唱えると同時にコンピューターがより複雑な呪文をジェルーンに入力、そしてコスモが呪文の最終文節を高々と唱えることにより、魔法が発動した。
《刃・利・剣!’》
呪文の詠唱を終えて魔法が発動すると、グリフィンの全身を覆う強力な物理防御結界が発生し、剣に魔力が付与され切れ味が増大する。そして、目の前のファントムとまるで違う方向めがけて弾丸のような凄まじい速度で飛び去った。
「なんだぁ、逃げるつもりか!?」
攻撃が来るものと身構えていたカーンは肩透かしを食い、慌ててグリフィンの後を追おうするが、ファントムが動く前にグリフィンは突然慣性の法則を無視した急角度でターンすると、今度は猛スピードでファントムに向かって突撃して来た。そして、そのまますれ違いざまにファントムに斬りつけて通り過ぎたと思ったら、再び急ターンしてファントムに向かう。遠ざかっては突進して斬りつけるのを繰り返すグリフィン、そして斬りつけに戻って来るスピードが徐々に速くなっていく。ファントムを中心に斬撃の嵐が吹き荒れる。
“刃利剣”、それは加速、慣性制御、防御結界、剣への魔力付与、そして超スピードに対応するためにコスモ自身への思考加速、複数の効果を同時に発現する魔法であった。それぞれの効果はまだまだ拙いものの、1つの魔法にこれだけ複数の効果を持たせてしまうことにコスモの才能の片鱗が現れている。
グリフィンが繰り出す斬撃の嵐に曝されたファントムは、ついにその斬撃を捌ききれなくなり、足を止めて棒立ちになった。一撃一撃は軽いが、それでもファントムの防御結界を抜け、徐々に装甲を削り始めた。




