機甲部隊、斯く戦えり -ビークルアーマー隊・パペット隊-
ビークルアーマー隊を指揮するフォルスは、自身の操るファイアボールに部下のファイアボール2機がしっかり追随しているのを確認すると、先行する3機のウインドカッターのパイロットに声をかける。
『ジン、エイモン、キャスル、お前たちの役割は敵を撹乱して足を止めることだ。間違っても、自分で撃墜しようなんて欲を出すなよ』
『了解』
『心得た』
『善処します』
ウインドカッターのパイロット3人が同時に答えた。フォルスの指示に納得のいっていない者もいるが、フォルスは気にかけない。いずれもフォルスが鍛えたパイロットであり、態度はともかく、感情にまかせて命令を無視するようなガキではない。腕前に関しても充分に信頼に足るものを持っている。
ウインドカッターはペガサスの踏み込みにも引けを取らない加速で妖魔の群れに突っ込むと、機銃を浴びせながらレイスやグールといったイミテーションゴーレムの間を縫って飛ぶ。機動性に特化したウインドカッターの機銃は、イミテーションゴーレムの微弱な防御結界すら貫けず、ほぼ全弾命中しているにもかかわらずまったくダメージを与えていない。しかし、効果は充分であった。妖魔たちは群れの中を縦横無尽に飛び回るウインドカッターを叩き墜とそうと、無闇矢鱈と武器を振り回し始めた。元から統率のとれていなかった妖魔の群れはたちまち混乱の極みに達し、あちこちで同士討ちまで始まった。
『よくやった、あと俺たちにまかせな。カイト、ディスケン、片っ端から撃ち墜とせ』
『へいへい、まかされてよ』
『フッ、コイツを撃ちたくてウズウズしてたんだ』
フォルスがニヤリと笑って引き金を引くと、後続のカイトとディスケンのファイアボールも、機体中央に備え付けられた巨大なガトリングガンの火を噴く。まずは装甲の薄いレイスが全身を蜂の巣にされ、周囲にオイルと魔力の光を撒き散らせる。比較的装甲の厚いグールはなんとか弾撃に耐え、その内の何体かはよろめきながらも群れから這い出し、ファイアボールに襲いかかってきた。
「フン、しぶといな………だが!」
フォルスは不敵に笑い、ファイアボールに二門装備されているルーンキャノンを起動し、トリガーを引いた。凄まじい衝撃と共にビークルアーマーとしては規格外の高出力の魔力の塊が弾き出され、かろうじて動いていたグールのボディを撃ち抜く。
「機体の性能差が戦力のすべてじゃねえ、ビークルアーマーをなめるなよ」
フォルスは胴体に大穴を空けて動かなくなったグールに向けて言い放つ。
「案外チョロいな」
仲間の残骸に囲まれて右往左往する妖魔の姿にディスケンの口元が緩む。しかし、その油断が致命的な隙を生じさせた。音もなく忍び寄った1体のレイスがディスケンのファイアボールに取り付き羽交い締めにしたのだ。ファイアボールの装甲にヒビが入り、レイスの特殊能力“エナジードレイン”によりファイアボールの魔力がレイスによって吸収されていく。
「チクショウ、ドジったぜ」
ディスケンはレイスを振り落とそうと機体を振るが、レイスはしっかりとしがみついて離れようとしない。フォルスやカイトが助けようにも、機体に密着されていては射撃以外の攻撃手段を持たないファイアボールでは文字通り手も足も出ない。こうしている間にもディスケンの機体の魔力は吸収され続け、あと数分もすれば吸い付くされ宇宙の藻屑となってしまう。
もうお終いかと思われたその時、3機のウインドカッターの内の1機、エイモンの機体が戻ってきた。ジンとキャスルはファイアボールに敵を近づけないために撹乱を続けている。
『ディスケン、今助けるぞ』
ウインドカッター上部のローターよりワイヤーが伸び、回転を始める。さらにワイヤーは発熱し、灼熱の回転刃が形成された。
「きぇぇぇっ!!」
気合一閃、エイモンは衝突寸前まで機体をニアミスさせた。ワイヤーがレイスのボディを激しく叩き火花が散る。ワイヤーの軌道が乱れて絡まりかけるが、エイモンは素早くワイヤーを切り離した。
「また、つまらぬものを斬ってしまった」
ウインドカッターが離れた後、ファイアボールに取り憑いていたレイスの首はボディから斬り離され宙に漂っていた。
『ディスケンはガンダルフに退がれ。この辺りに残った敵はミサイルでまとめて片付ける。ジンとキャスルは群れから離れろ』
フォルスはディスケンを退がらせると、ミサイルの照準を妖魔の群の中心に定める。
「くらえ!!」
トリガーをひくと、ミサイルはファイアボールから解き放たれ、妖魔の群の中心に吸い寄せられるように飛んでいく。ミサイルが何か理解していない妖魔たちは、群れに飛び込んでくるミサイルをぼんやりと眺めるのみで逃げる素振りも見せない。ミサイルが群れの中心に到達すると、眩い閃光と共に破壊のエネルギーが撒き散らされ、妖魔たちを呑み込んでいく。フォルスとカイトのファイアボールは立て続けにミサイルを撃ち、辺りはたちまち爆炎に包まれた。動きの素早いレイスも仲間の残骸に阻まれて逃げられず、装甲の厚いグールも爆炎に耐えられずにその身を焼かれてしまう。
ファイアボールがミサイルを撃ち尽くした頃には、辺り一帯の妖魔はほぼ壊滅状態となっていた。
『ミサイルもガトリングも弾切れだ、一旦ガンダルフに戻る。今敵に狙われたらひとたまりもない、ウインドカッターは周囲の警戒を怠るな』
『次に敵が来たら、今度こそこの俺が叩き墜としてやりますよ』
『頼りにしてるぜ、キャスル君』
フォルスの撤退の指示を受け、ビークルアーマー隊はキャスルとカイトの軽口を残して戦場を後にするのだった。
マルスの指揮するパペット隊は危なげない戦いぶりで順調に戦果をあげていた。
まずは2体のバリスタによる砲撃を浴びせる。バリスタは砲撃戦に特化したパペットで、頭部に2門のバルカン砲、右腕は肘から先が巨大な機銃となっており、脚部にはミサイルポッド、バックパックには魔力の塊を砲弾として射出するルーンキャノンが装備されている。さらに左手にはオプションとして様々な武器を携行することができる。ヤックス・タゲイトの機体はルーンキャノンよりも威力は低いが連射性能の高いルーンピストルを、リョーヤ・シェバンの機体は身長の半分程のサイズの方形のシールドを装備している。動く火器庫と揶揄されるバリスタの砲撃にさらされた妖魔のゴーレムは微弱な防御結界を撃ち抜かれ、全身に大穴を空けて爆散していく。
バリスタの砲撃で仕留めきれなかった敵は2体のバトルアックスが接近戦で叩く。両手が指の代わりに3本のかぎ爪となっているバトルアックスは、パペットの中では特に操作がシンプルで、コボルドやリザードマンなどの若干知能の低い亜人でも扱うことができる。複雑な動きはできないものの、パワーと装甲はドリュオンのパペットの中でも群を抜いている。バリスタの砲撃でダメージを負い動きの鈍った妖魔なら、バトルアックスでも容易く捉えられる。一度捉えてしまえば、バトルアックスのかぎ爪はグールの装甲も切り裂く。動きに派手さはないものの、1体1体愚直に墜としていくのであった。
そして、バリスタやバトルアックスでは勝てない敵は、マルスのランスが対処する。機動性、特に突進力に優れたランスは左右の手にそれぞれ1本づつ槍を構え、最大限に加速した突進で妖魔のゴーレムを貫く。そのチャージの威力は凄まじく、低級なイミテーションゴーレムであるグールのみならず、上位機種であるゾンビウォリアーすらも屠っている。
『各機、損傷はないか?』
8体のグールを率いていたゾンビウォリアーを撃破したマルスの問いに部下たちから無事を伝える声が返る。
『よし、態勢を整えたら次の敵を叩くぞ』
乱れた隊列を組み直し、次の敵に備えようとしたパペット隊だが、準備が整う前に新たな敵集団とエンカウントしてしまった。気配を消して接近してくるその敵に最初に気づいたのは、人間の数倍もの知覚力を持つコボルドのスクネであった。
『敵、くるぞ』
スクネのバトルアックスが虚空に向けて身構える。パペット隊の各員もバトルアックスが身構えた方向に目を向けるが、見えるのは破壊されたゴーレムの残骸のみ。レーダーもアクティブな魔力の反応は感知しない。
『スクネ、何もいないぞ。適当なこと言ってんじゃ……!?』
ヤックスがスクネに向かって悪態をつこうとするが、最後まで言うことはできなかった。突然目の前に白い影が現れ、ヤックスが反応するよりも速くバリスタのコックピットがある頭部を白刃が斬り裂いた。ヤックスは何が起きたのか認識する間もなく絶命し、頭部バルカン砲の弾倉が爆発しバリスタの全身を炎が包む。炎はバリスタに内蔵されていたミサイルや弾薬を次々に誘爆させ、辺りに強烈な熱波と衝撃を振り撒いた。
「ヤックス!?」
炎に包まれる僚機の方を振り返ったマルスは、己の目を疑った。被害を受けていたのはヤックスだけではなかった。リョーヤのバリスタは装備していたシールドごと左腕をもぎ取られ、リザードマンのヴァイスが乗るバトルアックスは胸に大穴を穿たれていた。白い影ことアディードのゴーレム・ゴーストは1体ではなかったのである。無事なのは、ゴーストの刃を辛うじてかぎ爪で受け止めたスクネのバトルアックスのみであった。
「よくも、僕の部下たちを!!」
激昂するマルスのランスの背後にもゴーストが忍び寄るが、ランスは左手に持つ槍を振るってゴーストの攻撃を弾き返した。
「手応えが薄い!?」
ランスの槍はゴーストの攻撃を弾くことはできたが、ゴーストにダメージを与えるには至らなかった。追い打ちをかけるべく続けざまに右手の槍を繰り出すが、槍の穂先がゴーストを捉える寸前、ゴーストの存在感が急速に薄れ、かき消すように姿が見えなくなった。
「逃げた? いや、幻影系の魔法で隠れたのか!?」
敵が見えない状態で一ヶ所に留まるのは危険だ、最初の一撃に反応できたのはまぐれに近い。そう判断したマルスは、バーニアを吹かして移動を開始した。
マルスは細かく旋回を繰り返しながら移動しつつ、ゴーストの気配を探る。ゴーストを探しながら部下たちの機体に目をやると、リョーヤのバリスタとヴァイスのバトルアックスは損傷が酷くピクリとも動かずに宇宙を漂っている。コックピットのある頭部は無傷のように見えるので生存の可能性はあるが、何度呼び掛けても2人からの反応はない。今は確認する余裕はなく、無事を祈るしかなかった。
スクネは驚異的な野生の勘と反射神経で、現れては消えて襲いかかってくるゴーストの攻撃をなんとか凌いでいた。スクネには姿を消したゴーストの気配のようなものを察知できるのか、ゴーストが姿を現すよりも一瞬速く反応して攻撃に備えている。そして、刃のついたゴーストの腕や脚から放たれる手刀や蹴りをかぎ爪で受け止める。
バトルアックスに攻撃を止められたゴーストは一瞬だが動きが停まる。そのことに気づいたマルスは、味方であるバトルアックス目掛けてチャージをかける。
「狙うなら、あそこしかない。」
ギリギリまでバトルアックスに接近してもゴーストが現れなければ、直前で軌道を反らしてバトルアックスを避ける。チャージとゴーストの攻撃のタイミングが合えば、ゴーストを仕留めることができるかもしれない。他にゴーストを捉える術がないマルスは、タイミングが合うまでスクネがゴーストの攻撃を凌ぎ続けてくれることに賭けるしかなかった。
1回、2回……、マルスのチャージは空振りが続く。そして5回目、ついにチャージをかけたランスがバトルアックスに最接近する寸前に、バトルアックスがゴーストの動きを止めた。マルスはチャージの軌道を僅かに修正し、ついにゴーストのボディを槍で貫いた。
『ようやく1体か。スクネ、まだいけるか?』
『大丈夫、俺、敵の攻撃、見える』
マルスに答えるスクネの声には、その言葉の内容とは裏腹に疲労の色が滲んでいる。いつ現れるか分からないゴーストに対処するために極度に神経を研ぎ澄ました状態がそう長く持つとは思えない。あと数回の攻撃を凌いだら、スクネの集中力は限界に達してしまうだろう。
窮地に立たされたマルスたちだが、状況はさらに絶望的になろうとしていた。
《うちの部下を墜とすたぁ、なかなかやるじゃない》
通信を通さず直接宇宙に響く声、それはかなりの知能と魔力を有する者の操るゴーレムがこの場にいることを意味していた。
「この白い奴等より、さらに上位種がいるのか!?」
慌てて周囲を見回すマルスは、ランスの行く手の宇宙に4つの光を見た。息を呑むマルスの前に、その光の主が正体を現す。漆黒の宇宙よりゴーストよりも一回り大きく全体的に鋭角な印象を与える白いボディが滲み出すように姿を表した。そのボディには深紅のラインが走り、顔面を覆う黒いバイザーの奥では4個のアイレンズが輝きランスを睨め付けている。戦闘が始まる前に一歩引いた位置から戦場を観察していたカーンとクーリラの操るファントムだ。
他の妖魔とは明らかに格の違うファントムの気配に一瞬気圧されるマルスだが、すぐに気を取り直して行動に移る。
「その位置にノコノコ現れたこと、後悔させてやる!」
ファントムが現れたのは、加速がついているランスの進行方向上、ランスは2本の槍を構え、さらにスピードを上げてファントム目掛けてチャージをかける。
《その開き直り、キライじゃないぜ》
カーンは余裕 をもってファントムの上体を僅かにひねってランスの槍を躱すと、ランスのボディを蹴り上げた。ファントムの蹴りはカウンターとなってランスのボディを深々と抉り、バトルアックス目掛けてランスを弾き飛ばす。ゴーストの攻撃を捌くのに精一杯であったスクネに弾き飛ばされてきたランスを避ける余裕などなく、2体のパペットは激しく激突してしまった。
「へへん、二丁あがり」
「いつまで雑魚にかまってんの、さっさと戦艦を仕留めるぞ」
鼻の穴を膨らませて得意気に嗤うカーンに対して、クーリラは冷静に声をかける。
「そうだったな、獲物はあのデカいヤツだ」
カーンの意識には、もはや戦闘不能となったパペット隊の存在はなかった。




