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鋼と魔法の英雄伝  作者: 武本 丈
ゲートを抜けると、そこは戦場だった
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10/15

機甲部隊、斯く戦えり -ドラゴン・ペガサス-

 単機で敵陣深く斬り込んでいくドラゴン。アディードの妖魔たちもようやく魔導砲で受けたショックから醒め、自分たちの懐に飛び込んできた獲物めがけて一斉に襲いかかってきた。その大半はゴブリンやオークなど知能が低い妖魔が操るグールやスケルトン、レイス等のイミテーションゴーレムである。

 アーサーは殺到する妖魔たちのゴーレムの前で悠々とドラゴンを静止させると、さきほどの檄よりもさらに大音声で名乗り口上を述べる。

《遠からん者は音に聞け、近くば寄って目にも見よ。皇の為、民の為、ドリュオンに仇成す妖魔を討ち滅ぼすアーサー・ザン・ロイド・ウェイグ・ドリュオン。ドラゴンの纏いしミスリルの輝きを恐れぬならば、かかってくるがいい!》

 ドリュオンに古くから伝わる戦いの作法に乗っ取って名乗り口上を述べたアーサーであるが、周囲の敵は知能の低い妖魔。人間の作法など知るよしもなく、大人しくアーサーの名乗りを拝聴などするわけがない。アーサーが口上を述べている間も射つ、斬る、殴る、ドラゴンに向かって無秩序な攻撃を浴びせかけてくる。しかし、ドラゴンはその攻撃を避けようともしない。妖魔の攻撃はすべてドラゴンの装甲にはじかれ、かすり傷ひとつつけることができない。ミスリルという魔法金属の装甲を纏うドラゴンは物理的にも魔法的にも無敵とも言える防御力を誇っている。平然と口上を終えたドラゴンは手に持った大剣を振りかざし、おもむろに攻撃に移った。

 ドラゴンはミスリルの防御力にまかせ回避行動をいっさいとらず、ひたすら攻撃に専念して流れるような動きで大剣を振るい、群がる敵を次々になぎ払っていく。その様はまるで無人の星海の海原で剣舞を舞っているかのようである。

 しばらくは大剣を振るって斬りまくっていたドラゴンであるが、やがて妖魔たちが怖れをなしてドラゴンに襲いかかってこなくなる。遠巻きにドラゴンを囲み近づいてこようとしない妖魔たちに対し、剣を収め、両の拳を握りしめ両脚を広げて仁王立ちになり妖魔たちを睨め付けるドラゴン。

「ドラゴンに対して、その距離は安全ではないぞ」

 アーサーは薄い笑みを浮かべてコックピットの後席にいるリルムに声をかけた。

「“ブレス”を使う、呪文の入力を頼む」

「は~い、もうやってま~す。あとは~、最終文節を詠唱するだけです~」


 ゴーレムはあらかじめ呪文をジェルーンに記憶させておくことが出来、呪文が記憶されている魔法は発動のための最終文節を唱えるだけで魔法を発動することが出来る。これを習得魔法という。ただし、習得魔法を使いこなすには機士にもそれなりの力量が必要となる。残念ながらアーサーの魔操機士としての適性はそれほど高くはない。ドラゴンの身体を自由自在に操ることはできるが、魔法を発動させる才はなかった。代々皇家に受け継がれてきたゴーレムであるドラゴンは、契約者となれる皇家の後継者の能力が不足していることも想定して造られていた。それを補うためにドラゴンは2人乗りとなっており、リルムは魔法の発動をサポートするためにドラゴンに乗り込んでいる。


「よし、龍の息吹きで焼き尽くす。‘ブレス・フィーア’」

 アーサーが操縦桿に埋め込まれたジェルーンに手を添えながら呪文を唱えると、ドラゴン腹部の装甲が開き直径1m程もあるドラゴンのコアジェルーンが露出した。コアジェルーンは強烈な紅蓮の輝きを湛えながら、灼熱の荒れ狂う熱波を前方に放出する。ドラゴンが身体を振ると照射される熱波も角度を変え、ドラゴンを取り囲む敵機を次々に薙ぎ払うように呑み込んでいく。熱波に飲み込まれた敵機は、あまりの高熱のために爆発すらせず一瞬で燃え尽きてしまった。

 戦闘が始まってわずか数分、ドラゴンが斬り払い焼き尽くした敵の数は、アーサーがラグティウスの各自に課したノルマを優に越え、既に二十に迫ろうとしていた。

 周囲の敵を壊滅させたアーサーはヘルメットのバイザーを上げると、額ににじむ汗を指で拭い、シートに身を預け荒れた息を調える。リルムに周囲の警戒を任せ、暫時休憩をとったアーサーは、次の敵を求めて再びドラゴンを飛翔させるのであった。



 もちろん奮戦しているのはドラゴンだけではない。戦場に散ったラグティウス機甲部隊の面々も、それぞれ戦いを繰り広げていた。



 ドラゴンが敵陣に突っ込んだの見送ったシアトリヤは、ガンダルフに襲いかかってくる妖魔を迎え撃つために艦隊の周囲にとどまっていた。 

 ガンダルフはまだ魔導砲で消費した魔力が回復しておらず、動きが鈍く防御結界も張れずにいる。妖魔たちはガンダルフが弱っていることを本能的に嗅ぎ付け、灯りに群がる蟲のごとく次々とガンダルフの周囲に集まってきた。ガンダルフに殺到する妖魔のゴーレムは数十体はいる。圧倒的な数にもかかわらず、シアトリヤは涼しい表情を崩さず余裕の笑みすら浮かべている。

「下等な妖魔ごとき、いくら束になろうと無駄なこと………。すぐに消え去る命、冥土の土産に我が名をくれてやろう」

シアトリヤはよく通る凛とした声を魔力に乗せ、名乗り口上を述べた。

《我が名はペガサスの機士シアトリヤ・アペオイ・スターロ。煌めく星の海を翔ぶ天馬の誇りに賭け、悪しき者どもを討つ!!》

 ガンダルフに襲いかかろうとしていた妖魔の多くがシアトリヤの声に足を止める。シアトリヤの美しい声に不快感を示す者、逆に美味しそうな獲物を見つけたと喜ぶ者、反応の差はあれど多くの妖魔が興味の対象をガンダルフからペガサスへと移した。妖魔たちのターゲットがガンダルフから自分に変わったことに満足げな笑みを浮かべたシアトリヤは、ペガサスの左腕に装着したシールドの下に隠されていた湾曲した棒状のパーツを展開させる。

《‘ラ・ゴード’》

 シアトリヤが唱えたのは、魔法を発動するための呪文ではなく、ペガサスの機体に備え付けられた装備を起動するためのコマンドワードであった。シアトリヤのコマンドに反応してパーツの両端から魔力の粒子が光の弦となって伸び弓が形成される。

《‘ロアヤ’》

ペガサスの右手を弦に添えて再びコマンドを唱えると、今度は弦から左手の指先にかけて魔力で形成された矢が出現する。そのまま弓をひきしぼって妖魔たちに狙いを定めると、今度は魔法発動のための呪文を唱えた。

《‘リュー・サジア’》

呪文と共に右手で引きしぼった弦を解き放つと、弓から射出された矢は無数に分裂し、流星となって妖魔たちに降り注ぐ。ドラゴンの"息吹き(ブレス)"と比べると与えるダメージははるかに少ないが、グールやレイスなどの低級のイミテーションゴーレムを行動不能にするには充分だった。

「‘ロアヤ’、‘リュー・サジア’。‘ロアヤ’、‘リュー・サジア’」

 シアトリヤは立て続けに“流星矢”の魔法を発動させ、群がる妖魔に矢の雨を浴びせかける。ペガサスの放つ“流星矢”にアラゴルン以下の戦艦の砲撃も加わり、周囲の敵機はみるまにその数を減らしていった。

「フフ、他愛もない」

 ペガサスが幾度目かの"流星矢"を放とうとした時、嵐のような矢の雨をかいくぐった一団がペガサスの目の前まで迫って来た。

「懐に入られた!? 汚らわしい妖魔と直接刃を交えるのはできれば避けたかったけど、しょうがないわね」

 “流星矢”を潜り抜けて来たのはアディードのイミテーションゴーレムの中では比較的動きの素早いレイスが3体、さらに人間の操るパペット・バスタードソードも1機抜けて来ている。

 迫り来るレイスに露骨に不快な顔をしたシアトリヤはバスタードソードの姿を見てわずかに驚き目を見張るが、すぐに平静さ取り戻し次の行動に移る。

 ペガサスは左腕の弓をたたみ背中に背負っていた槍を引き抜くと、弧を描くように穂先をまわして正眼の構えをとる。

 ドラゴンの防御を無視した直線的で力強い太刀筋とは対称的に、ペガサスはシールドと体さばきで敵をあしらいつつ、流麗な動きで槍を振るい、一体づつ確実に敵を仕止めていく。レイス程度の低級のイミテーションゴーレムではシアトリヤの相手をつとめるのは役不足であった。瞬く間に3体とも討ち墜とすと、バスタードソードと対峙する。

《クロムは私たちが妖魔から人間の手に取り戻す。今ならまだ間に合う、妖魔に手を貸すのはやめなさい》

シアトリヤは無駄とは思いつつも、バスタードソードの機士に呼び掛けを試みる。案の定、バスタードソードの返答はなく、機銃の弾丸によって拒否の意思表明が伝えられるのみであった。

 相手が戦闘の意思を示した以上シアトリヤも遠慮はしない。ペガサスを飛翔させ、バスタードソードとの距離を一気に詰める。バスタードソードはドリュオン本国の軍でも制式採用されているクロム製のパペットで、決して性能は低くはないが、それでもゴーレムとパペットの力の差は歴然だった。機銃の弾丸はペガサスの防御結界により威力を削がれてシールドにはじかれ、ペガサスが槍を一閃すると、バスタードソードはそのスピードに対応出来ずにコックピットのある頭部をボディから斬り離される。

「運が良ければ、戦闘終了後に回収されるでしょう」

 シアトリヤは哀しげに呟いて、行動する術を失って宇宙を漂うバスタードソードの頭部を一瞥するが、すぐにバスタードソードのことは意識の外に追いやって次の敵を求めて周囲に視線を巡らせる。

 次々に仲間が墜とされていくのを目の当たりにした妖魔たちは怖れをなし、ペガサスに近づこうとせずに徐々に遠巻きになり、ついには背を見せて逃げ出し始めた。

「所詮は妖魔か………」

 シアトリヤは蔑みを込めて呟くと、再び弓を展開するのだった。

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