シャオリンの解放
「シャオリン! 俺だ!アデューだ!思い出せ!」
ロープで縛られるシャオリンは眼前の俺を鼻息で吹き飛ばそうとする。
「くっ!スゲー風だ!」
「させないわよ! きゃああ!?」
ミーナは俺をかばい、地上に落下する。
俺はミーナに感謝しつつ一気にシャオリンの顔目掛けて迫る――。
「ーーのぉ!」
だが、一歩及ばず俺と鼻息で吹き飛ばされ、地上に落下する。
その隙をつき、ミーナはバナナボムで俺を攻撃し、また空に浮上させた。俺はシャオリンの鼻の上に乗り、ペガサスは落ちるミーナを助けた。
「後は任せたよ……アデュー」
その言葉を聞いた俺は力強くうなづいた。
そして俺とシャオリンは対峙する。
バッ!とおもむろに制服のジャケットを脱ぎ捨て、グッ!とお腹に力を入れ、筋肉を全開にした。
「はあっ!チートモードッ!」
ブハッ!とワイシャツが弾け飛び、筋肉質な上半身があらわになる。
そして、俺はシャオリンの両眼を見つめる。
『ニャーーッ!』
とシャオリンは怒りをあらわにし、装女学園の生徒達が握るロープを引きちぎろうとする。
「これを見ろっ! シャオリン!」
突然、俺はシャオリンの鼻の上で腕立て伏せを始めた。
俺を見守る観衆は唖然とするが、ミーナとポッドは二ッと笑う。
それを見たシャオリンは更に興奮し、暴れまくる。
俺は全くそれを気にする事なく、腕立て伏せをし続ける。
「思い出せ、シャオリン!お前には俺達と過ごした思い出があるはずだ!思い出すんだっ!」
額から汗を流し、腕立て伏せを続ける。
シャオリンは依然として体を拘束するロープを引きちぎろうと暴れまくる。
激しく暴れた末、バリバリバリッ!とうとうロープは引きちぎれた。
ブフォ!と装女学園の生徒達が吹き飛ばされる。
「皆っ!」
俺は勢いよく、飛び出そうとするが、それを突如現れたカオリが制止する。
「アデュー君。私達はシャオリンの説得に専念しよう」
「けど、これじゃ下の皆は死ぬぞ!」
「問題ないよ。もう、火出ない粉の効果が切れているのに、シャオリンは火を吐かない。つまりは、シャオリンの中で何か変化が起きているという事だよ。その変化をアデュー君が作った。これは説得が成功しつつあるって事だよ」
「……」
コクリとうなづき、カオリは俺の横でシャオリンを見守る。
シャオリンの鼻先には俺の滴り落ちる汗が少しづつたまっていく。
ロープの拘束を引きちぎったシャオリンは、『ニャーー!』と叫ぶだけで暴れようとしない。俺は何か手応えのようなものを感じ、黙々と腕立て伏せを続ける。
その光景に、辺りを取り囲むキャンディ王国魔法騎士団も手をだせず、この場にいる全ての人間が見守った。
それに、イラついたシャオリンを生み出したカオリの兄貴ケンジは、ミーナにダメージを受けた身体を治療して立ち上がる。
「何をやっているんだい! 早く暴走したモルモットを処分するんだ! 君達、軍に支払っている費用も我々の組織が出している事を忘れてもらっては困るよ! さあ、攻撃を再開したまえ!私はキャンディ王国の王族だぞ!私の命令に従え!」
その声を聞いたキャンディ王国魔法騎士団関係者は、魔法部隊に攻撃の指示を出す。
魔法詠唱をする部隊の照準が、その者達を見据えてるシャオリンに向けられる。
(あえて攻撃させてシャオリンを神へと覚醒させようって判断だな……ケンジは考えてやがるぜ。王族である自分を上手く使ってやがるな)
スッとケンジは妖精国王ツバサに、
「妖精国王ツバサよ。あの少年が本当に白米怪獣を止められるとでも思っているのかい?」
妖精の羽根で飛んでいるツバサはフフッと笑い、
「思っていますとも! 何故なら彼はダンポコワールドの勇者! 勇者とはどんな困難にも負けない勇気ある者。その勇者がいるキャンディ王国に不可能などは無い!」
「――! ……装女学園の事件で国王としての自信をつけたか……あのアデューというヤツは他人の事まで考えて事件を解決させてたとはな」
「そうよ兄さん。アデュー君は負けない。負けるのは、誰も信用しない貴方よ」
「言うようになったなカオリ。昔とは大違いだ。では、見せてもらおうか、このダンポコワールドの勇者の活躍を」
ケンジは、昔の従順だった頃の翼ちゃんカオリを思いだし、時の流れを感じたらしい。
(シャオリンを止めるにゃ、この身体を小さくするのが一番。一度は人間の形になれたんだ……またそうなれるはず……)
どうする?どうすればシャオリンを小さく……!
グゥゥ……とミーナの腹の音が鳴った。
ククク……とカオリは笑うが俺は、
「おい、今は凄いピンチなんだぞ?集中しろ!」
「わかってるわよ!ダイエットしててお腹減ってるの……バナナを食べるのを減らしたからね……アンタの為に」
キャ!とミーナは赤くなってるが、俺の心も真っ赤に燃えるぜ!
「……センキューミーナ!いい作戦が思い浮かんだ!」
「え?ちょ、どういうーー」
「残念ミーナ。アデュー君は鈍感な時は鈍感だからね」
「ウッサイわね。今はそれどころじゃないわ」
「そうね。見守りましょう。勇者アデューを」
そして二人のヒロインは俺の活躍を見守る。
もう一度、ポッドのペガサスで空を飛翔する俺はシャオリンに接近する。
ダイエット魔法だーーあの魔法を使えばいい。まだ未完成だが、決めてやるぜ。ここで決めなきゃ勇者じゃねーよ!
「ヤセヤセダイエットーーー!」
シュパアアアッ!とダイエット魔法が炸裂し、シャオリンの動きが完全に止まる。
白い輝きと共に、シャオリンの身体は小さくなっていく……。
そして、対峙する俺とシャオリンに、変化が起こった。
シャオリンの身体が微妙に小さくなり始め、怒りを帯びた瞳が優しい瞳に変わる。
そして、一生懸命腕立て伏せをする俺の汗の匂いを嗅ぎ、シャオリンは記憶を思いだしていく、そして――。
『ニャーーッ!』
と叫び、両手を大きく上げたシャオリンは、鼻先の俺を宙に飛ばす。
そして、バタン!と地面に両手をつき、腕立て伏せを始めた。
スタッとシャオリンの頭に着地した俺は、また腕立て伏せを始める。
すると更にシャオリンの身体が小さくなっていき――。
『おおーっ!』
と俺とシャオリンを見守る聴衆達の声と共に、シャオリンの身体は元のサイズに戻った。
カオリとミーナは言う。
「よく頑張ったね、アデュー君。君の筋肉愛の勝利だね。でも、チートパワーを使い過ぎたからこれからニートパワーが凄くて寝たきりになるかもだね」
「流石は私の惚れた男だ。少しは見直したよ。お前のバナナはソコソコだな」
二人のヒロインは俺を褒めた。
確かにチートパワーの使い過ぎでこれから寝たきりになりそうだな。つか、ソコソコのバナナって強さって事か?
相変わらずミーナはバナナで例える事があるからわからん。
んなこんなで少し照れながら俺は、
「シャオリンが自分のストレスに勝つ為の手助けをしただけだぜ。俺の活躍なんて、屁みたいなもんだ」
感激するヒロイン二人の背景に、一瞬で妖精国王ツバサは薔薇の花弁を散らせると、
「トレビア~ン! 自分の活躍を鼻にかけないなんて、素晴らしい話だね! 正に、勇気が生み出す、勇者な発言! これこそが、ダンポコワールドの真の勇者!」
ビシッ!とツバサが決めると、シャオリンが空に向かって、ブオオオオッ!と火を吐いた。
すると、黙っていたケンジが狂喜の声を上げた。
「この凄まじい魔力……やった……白米怪獣シャオリンはとうとう神へと覚醒したぞ!これで私はダンポコワールドの支配者となれるのだ!魔法を廃して科学の世界を作り上げでやる……!」
本当にシャオリンは白米怪獣から人間へと変化し、凄まじい魔力を秘めて生まれ変わった。これは俺やゴッドの魔力が影響してたらしく、人工的に生み出された神は俺のダイエット魔法をキッカケに生まれちまったようだ……。要するに、ストレスから生まれたって感じか?
「残念だったな。お前の生み出した神は、意思があるようだぜ」
「何だと?それは当然あるだろう……それは生物として基本的な事。だが、私のマジックウィザードならばその意思さえも捻じ曲げられるのだよ」
「それはムリだぜ。ゴッドに影響されて生み出されたヤツなら、手のつけられない子供になるのは明白だ。ほーら、な?」
「や、やめろシャオリン!」
シャオリンは白いボブの髪を触手のように伸ばしケンジの両手足を拘束する。そして口を開け、魔力を口に溜めていくーー。
「のほほ!シャオリンのヤツはやはりワシに似てるだけあって、真の敵は誰かわかってるようじゃ……天晴れ、天晴……あれ?」
「ゴッドもバイバイ」
と、呟いたシャオリンはゴッドとケンジを自分のメギドファイアーで焼き尽くした。
……ゴッドのヤツは今回は結構災難だったな。次はアイスをたらふく食わせてやろう。そん時は、シャオリンもゴッドレベルに成長してるだろうしな。
次元すらこじ開けたゲートの中に、ケンジとゴッドは消えて行く。
「おのれー!絶対に戻って復讐してやるぞ!サイエンスウィザードの力をナメるなよ!ダンポコワールドなど、今度は私が神となり支配してやるわーーー!」
「あっそ、言ってろ。艶色にアデュー」
そして、ニューゴッド計画の全ては終わった。




