魔王神サターンとの最終決戦5
サターンの魔力が切れたのかタワー内部は草むらになった。元々は荒廃したタワーのようだったよかもな。
そしてそのまま魔王神サターンを倒した。
「……」
だが、俺はその場をうごかなかった。
身体の毒は解毒せずに精神を活性化させて耐えた。
左目の魔眼を発現させ、周囲を警戒した。
「そろそろ出てきたらどうだ?お前が俺の魔眼に反応しないようジャミングをかけているのは知ってるぜ。俺はダンポコワールドに戻ってもスケジュールが詰まっていて時間が無いんだ。ニートは自宅警備も仕事の内なんでな」
半身になり視線を後方の草むらにやる俺は言う。現れたのは、これまでひたすらに大食いバトルをして来た魔王神サターンの腹心・ユイだった。
「お前はユイじゃない。アイツはこの最上階には来てないからな。それに、不意打ちをするようなタイプでもねーよ」
「ブヒブヒ。毒にかかって頭が働かないはずなのによく気付いたわね。最後に油断させてから刺そうと思ったのに」
「お前は死んでも死体を残すようなタマじゃない。魔王神として自分の情報を残す死体の処理は命が止まった時に何かを仕込んでるだろうしな」
「死んだら時間なんて永久にあるんじゃない? 知らないけど」
そう言った後、ユイの姿からサターンの姿に戻る。そして、サターンは懐から豚のような形の笛を取り出した。
「ここに来て笛……か。そりゃどんな音色を奏でるんだ?」
「歴代の勇者を死に追いやった、絶望のロンドを奏でるのよ。その血で死を踊りなさい」
ブヒブヒ……と鼻を鳴らすサターンは魔笛を吹いた。両手のチートソード・ニートソードを構える俺は、
「魔王と勇者の歴史は知らんが、そんなもんには出来れば関わりたくないんだぜ。第一に俺とお前に個人的な因縁なんてねーし、勇者と魔王でも互いを認め合えるんじゃねーか?魔王神もいい加減落ち着く事だ」
「私達みたいな常軌を逸した存在がそんな簡単に仲良くなれるわけないでしょう。勇者は民衆を守り、国を支配しないでまたどこかに消えるから正しい事をしてるように見えるけど、勇者の戦った後の残骸を見て恐怖してる民衆もいるの。その人達から見れば自分の国の一部を壊した大犯罪者と同じよ。私が本気で殺しにかかる以上、五体満足では死ねないわよ」
「それはお前が、だろ?」
ブン!ブン!ブン! とソードのエネルギーを飛ばすソードアタックで顔面を狙い撃った。その一撃をサターンは軽々と回避したが、目の前には間髪入れずに俺が投げていたナイフが迫っていた。
「一撃目のソードアタックを目隠しにしての隠しナイフね。あくびが出るわよ勇者アデュー」
「それは結構」
そのナイフは、サターンの回避した身体に吸い付くように追撃した。それを、キンッ! と魔笛で払いのけた。
「ワイヤーを剣の持ち手に仕込んでいたのね。それを魔力で操った。勇者のクセに仕込みが多い事。貴方の手の内の全てを見せてもらうのもいいかもね。これからの魔王神サターン様の世界支配における兵器開発の参考にもなるし」
「ん?チートソードとニートソードが使えない?」
何故かチートソードとニートソードが次元の狭間に戻ってしまった。これはおそらく……。
「お前の魔笛で次元を歪ませでチートソードとニートソードを戻しやがったな。やってくれるぜ」
「歴代の勇者もその二刀流だったからね。どこから召喚されるかわかっていれば、そこに戻してしまえばいいのよ。私は貴方以前との勇者との戦闘経験があるから対処方法はそれなりに知ってるわよ。そして貴方は死ぬの」
「そんな攻撃をする余裕は与えないぜーー」
満身創痍の身体にも関わらず、俺の動きは以前に増して軽快だった。それは勇者と魔王神というライバル心故か。
前傾姿勢のまま、俺はナイフを持ちサターンに迫る。
シュン! とサターンの両足に向かって四本のナイフを投げた。しかし、サターンは直立不動のままで動かず微かな小声で呟いた。
「微かに、ワイヤーが揺らいだ。正面と見せかけて背後からのようね……」
サターンの思った通り、目の前のワイヤーナイフは四方に散った。
刹那――。
前のワイヤーナイフの背後に、全く同じ軌道のナイフが飛んで来ていた。作戦通りだ。
計八本のナイフがサターンに刺さりそうになった瞬間、魔笛の音色と共に一陣の風が竜巻のようにサターンを囲んだ。
「手の込んだ事をするわね、勇者アデュー」
「また豚の魔笛か――しかし、真上に風のバリアは無いぜ!」
「――!」
突如サターンの真上に現れた俺は、先の鋭い氷結魔法を乱射した。しかし、脅威の動体視力でその弾を回避しやがった!
「はああっ!」
勢いのまま体術でサターンに襲いかかる。
それをサターンは魔笛で防ぐ。
ブヒブヒ!と鬱陶しく鼻を鳴らすサターンはようやく押され気味になりやがった。
「どうしたんだい! やはり体術は苦手のようじゃねーか!」
「体術など野蛮な者がする事だわ。戦いも魔法もスマートじゃなきゃ……」
「そうかよ!」
腹に一発蹴りを入れ、左手に持ったナイフをサターンの心臓目掛けて繰り出した。
血が舞った。
「くぅ……!」
繰り出された俺のナイフは何故か寸前で止まり、カウンターで魔笛を顔面に受け口の中が切れた。サターンは鮮やかに魔笛を吹きつつ、
「毒は精神が肉体を凌駕しているからある程度は耐えられるでしょうけど、加算された重力には耐えられないでしょう?」
笑みを浮かべ、サターンは地面に仰向けのまま這いつくばる俺に近づく。
「その音色、重力変化を操るのか。いやな能力だぜ……」
「その状態では御自慢の魔法も撃てないでしょう? 勇者としての能力。そして勇者でありながら魔の力を秘めた魔眼の力を身体に宿す特異体。これからじっくり調べさせてもらうわよ……」
人間らしい瞳の輝きが無くなった魔王神サターンは俺に迫る。
(状況は俺に不利だ。しかし、相手が油断する好機でもある。もっと近寄れ……)
苦しい顔を浮かべつつ、俺はサターンを仕留める計略を巡らす。
「調べたければ調べてみろよ。魔眼が勇者になった時に生まれついてあるだけで、勇者としても普通の人間だ」
「普通の人間に魔の力を移植しても呪いの力に耐えきれず、すぐ死に至るわ。それを生まれながら宿し、死んでいない貴方は良いモルモットになるわ。他の魔王達もモルモットとして優秀な素材を持ってるけど、やはり勇者の貴方は別格よアデュー」
「……カオリとミーナのどちらが優秀なんだ?」
「自分の仲間への過信が過ぎるわねアデュー」
(他人の全ての情報を知る事の出来る、インプットキスか……しかし後、もう少しだ……)
サターンは自らの口づけで俺のフィジカルデータを脳内にインプットする為、キスをした。馬乗りになった瞬間、俺の足元にあったワイヤーに足を引っかけた。
プチとワイヤーが切れた瞬間、ヒュン! と地面に生える草村から一本のナイフがサターンの顔面目掛けて放たれた。
そのナイフはドス! とサターンの右手の平に突き刺さる。
血が、俺の頬にたれる……。
「諦めの悪いモルモットねアデュー。重力圧の範囲を広げましょうか」
左手で魔笛を吹き、サターンは重力圧の範囲を半径五メートルまで広げた。辺りの草村も重力の変化で全て寝て、俺の仕掛けた数ヶ所の罠も無効化された。
(やれやれ、だからこの女は嫌いだ……!)
妖艶な表情で、サターンは俺のフィジカルデータを得る為にキスをする。すると、俺の左目に魔眼がキリキリと動く。目を見開き、狂喜するサターンは言う。
「これが魔族にすら見極められないモノを見極める事が出来る魔眼……。この魔眼とインプットキスがあれば鬼に金棒だわ……」
そう思うサターンの思考に、直接的にノイズが走った。
罠は常に二段構えだ。
本命はこっち――。
「この声は私の脳に直接響いている……。この魔眼の輝き――まさか!」
焦るサターンの右目の前にある俺の魔眼が突如輝き、一筋の閃光が放たれた。
シュパアァァァァ! と俺の魔眼から放たれたチートニートフラッシャーの一撃は、サターンを消滅させた。
天の雲が掻き消えた後、重力から俺の身体は解放された。そして、異次元空間から元の魔王神タワーの最上階に戻る。
「……はぁ、はぁ。魔眼から勇者エネルギーを射出するのは、かなり疲れるな。一気に寿命を持ってかれる感じだぜ……しかし!」
満身創痍、疲労困憊の身体ながらも無理矢理立ち上がった。
「これで本当に全て終わりだ。一気に終わらせる……」
「みーんなで、終わらせましょうアデュー君」
「カ、カオリ?」
とうとうカオリが復活したようだ。
サターンに捕まってた疲れも感じさせず笑顔満点だぜ。これで元気百倍だぜ!
「行くぜカオリ!二人でサターンを……」
「ちょーっと待った!」
バナナの匂いと共に、金髪ツインテールのゴスロリ美少女が現れた。
「こっちにもアンタの仲間はいるわよアデュー。バナナ魔王ミーナの一撃で魔王神サターンも終わりよ!」
『いっけーーーー!』
「ブヒブヒーーー! ちくしょーーー!!!」
サターンを破壊し、魔王神サターンの野望を打ち砕いた。
けど、俺の魔眼にかすかな反応がある。
「魔王神サターンは死んでない。けど、この街の人間は眠ってると思うだろ。魔王神は眠る生き物だってのを知ってるからな。また復活したら、俺がチョチョイと倒してやるさ!」
勝利した俺は二人のヒロインの肩を抱きながら、黄昏が闇に変わる空を見上げ、笑った。




