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21.一歩

「スティンキー、俺に戦い方を教えてくれ」


思えば、ドッドファミリーとのいざこざに首を突っ込んでから、初めて自分から何かを決心したんじゃないだろうか。

今更、自分にスタイロムみたいな超パワーが眠っているかも、なんて期待はしない。


だが、俺たちの相手は街の裏側を支配しているマフィアだ。

それなのに俺たちの陣営でまともに戦えるのは、元ドッドファミリー鉄砲玉のスティンキーだけだ。

せめて俺も、戦場に立って敵を倒せる【何か】が欲しかった。


「おー、そういえば喧嘩もしたことないって言ってたな。とりあえず、ほれコレ持っとけ」


思い出したようにスティンキーがソレを手渡す。


片手でも十分に持てる重量。計算しつくされた持ちやすいグリップ。

トリガーの中央部に挟み込むように存在する安全装置(セーフティ)。

拳銃(グロッグ)である。


初めて触る感触に、手が少し震えた。


「強え能力相手じゃどこまで通用するか分からねぇが、それでもないよりマシだろ」


「……っ、あぁ、助かる」


「拳銃一丁だけかよって面だな。あー……どうなるかはお前次第だけど、元特殊部隊員(デルタ)の奴を教えてやるよ。代わりになぁ……」


代わりに、なんだ?

ふと思い出す。こいつも元マフィアだ。ともに戦い協力しているが、もともとは敵同士。

対価に何を取られるかわかったもんじゃない。少しだけ身構えるとスティンキーは言いづらそうに続けた。


「代わりに、情報屋と雑貨屋を紹介してくれ」


「……ぉおう。情報屋と雑貨屋ね……雑貨屋?」


「あぁ、ナタリの奴がな……『アジトが殺風景すぎる!センスのいいインテリア置いてくれなきゃアンタの装備作らないから!』(裏声)ってキレやがってよ……」


モヒカン男の裏声に心底鳥肌が立ったが、なるほどナタリの要望か。

彼女が納得するインテリアのある店か……

頭の中で街のマップを広げる。


「あぁ!西エリアにあったな。あそこならいい品がありそうだし、なんてったって店主がマフィアマニアのやべぇ男だ」


「面白いじゃねか!決まりだな」


どちらともなく拳を向けてぶつける。

互いに住所を教えあった。


決戦に向けて、ようやく自分の足で歩きだした気分だ。


____________________________________________


BOXERをナタリに預けているため、レンタルバイクを走らせて目的地へ向かう。


教えてもらった場所についたが……

東エリアの端っこ、高速道路の高架下のボロッちいガレージ。すぐ上を通る車の音が、非常に耳が痛い環境だ。

本当にこんなところに元特殊部隊の人が?


「こんちわー!」


半開きのシャッターに向かって呼びかけるも、応答がない。


「あのぉー!!誰かいませんかーー!!」


なお呼びかけるとガレージの奥のほうから、微かに「入れ」と声が聞こえた。

シャッターをくぐる。


中は広い車庫、しかし止まっている数台はボンネットが開いて中身がない。

それに少し錆びも浮いていて、人が触れていないことがわかる。

これは奴(スティンキー)に騙されたか、疑念が深まりつつもさらに奥へ。


生活感のある空間に出る。

薄暗い廊下の先、モニターの光が奥の部屋から漏れていた。


部屋の前までくる。

モニターに目を向けている人影の背中。


「あなたが、ヴァン・ディーゲルさんですか」

「おぉ、誰だ?」


ヴァン・ディーゲル。数年前まで特殊部隊に所属しており、対テロ、特殊状況における戦闘のエキスパートらしい。しかし、家族の病死を機に除隊。現在はこのメラニンシティにて汚ぇガレージを営む。

と、スティンキー談。


プロフィールから屈強な男性を想像していたんだが、返ってきた声は高い。


女性だろうか。

ヴァンは奥さんとは死別しているらしいし、後妻の一人や二人いても不思議じゃないが……

結構ガラの悪そうな口調だな。こういう女が好みなんだろうか。


「俺、ハコスって言います。ヴァンさんにお話があるんですが……あ、この場所はスティンキーから聞いて……」

「あの汁ガキから?」


女性がソファから腰を上げて振り向く。


おぉ、俺より背が高いな。

肩まで伸びた手入れのされていなさそうな紫髪。

色黒の肌と左眉に大きな傷、青い瞳。

想像以上の強面に威圧されつつ、目線を下げる。

ツナギの袖をを腰の位置で結んで、上半身のタンクトップは暴力的なバストではちきれそうだ。

おや……よく見たら何やら怪しいポッチが二つも!ぐへへへ、もう少しで見え____


「おいエロガキ、俺の胸に用があんのか?殴られたくなきゃ、とっとと話しな」


「……お姉さんが、もしかしてヴァン・ディーゲルさんですか……?」


「そうだが。あ?お姉さんってお前……つか、俺を知らねぇでここに来たのか?」


なんと、目的の人は彼ではなく彼女だった!!

これは何としてでもお近づきにならなければ!

俺は腰を90度に曲げて頭を下げる。


「俺に戦い方を教えてください!!」


「失せろ」


聞こえた返答は低く、腹に響くようなテノールボイス。

つまり、男性の声だ。お姉さんが発したとは思えず、頭を上げると、そこには筋骨隆々で紫髪の偉丈夫がいた。


「どぉぇっ!!?お姉さんは!!?」


「俺だ」


?????

混乱する脳を働かせる。よく見るとツナギにタンクトップの服装や背格好も先ほどのお姉さんと同じ……


信じられない。


信じたくない。


「しゃーねーな、おらよ」


そう偉丈夫は言うと、髪がほんの少しだけ縮んでいくと同時に、体格が丸みを帯びていく。

胸や腰回り、四肢も細くしなやかに、顔の輪郭も変わった。


先ほどのお姉さんがそこにいた。


「ウソダドンドコドォーーーン!!!」


膝から崩れ落ち、床に拳をぶつける。

隙のあるエチエチお姉さんが、こんな筋肉ダルマに……


「グハハハッ!あの汁ガキも、俺と知らずに口説いてきやがってな。ちょっと揶揄ってからバラしたら『黒人女は二度と口説かねぇ!!』って切れてたぜ!」


大口を開けて笑うヴァン。

一通りやって満足したのか、画面の前に戻ってゲームのコントローラーを持った。

へぇ、ゲームなんかするんだな。少し意外だけど、きっと銃をぶっ放して人を殺すようなグロセフとかだろうな。


と考えていると、やけに軽快でポップな曲が流れる。

それに間抜けな高い男の声がヒャッフー!と……

カウントを刻んでブザーが鳴る。ブウウンと軽いエンジン音が鳴る。


「ああ、クソ……スタートダッシュをミスった。だが、下の順位ならキラー出るしな」


言い訳するように画面上でバイクを走らせる。

これ、Twitch2のモリカーじゃねぇか!!?意外というか、こう……


俺の中で屈強な男、ヴァン・ディーゲルのイメージが崩れていく。


「おうエロガキ、まだいたのか。ちょうどいい、今イライラしてんだ。てめぇもやれや」


「え、モリカーをですか?」


ヴァンが振り返り呆れた目を向ける。


「見りゃわかるだろうが。とっととコントローラー持て。格の違いを見せてやる」


俺、ゲームとかやったことないんだけどな……

しかし、ヴァンの眼力に負け、おとなしくコントローラーを握る。

なんの操作説明もされずにいきなりレースが始まった。


赤い頭巾のキャラクターが俺の操作キャラだ。

適当にボタンを押していると、少し車が動いた。あ、ここがアクセルね。

スティック操作で左右に曲がれるのは、なんとなくわかる。

アイテムボックスにキャラがぶつかると画面左上で黄金のキノコが輝く。

でもこれ、どう使うんだ?


再び全部のボタンを順番に押していく。

あーここのボタンでアイテム使用か。はいはい、操作を理解するころには1位のキャラクターがゴールを切っており、第1レースが強制終了される。

順位を見ると俺が最下位、ヴァンは俺の一つ上の順位だった。


「おいおい、モリカー初めてか?こりゃ次は手加減してやらねぇとな」


勝ち誇るヴァンの顔が鼻につく。が、努めてにこやかな顔を維持する。


「いえ、もう操作は覚えたんで。それより『賭け』しませんか?俺が勝ったら対マフィア用の訓練つけてくださいよ」


「ドッドを突いてるイカれたやつがいるって噂はマジだったのかよ……やめとけ、殺されんぞ」


「今更です。それに、この街じゃイカれてないやつのほうが少ないですよ」


「クソガキが……どうせ俺が勝つ」


せいぜい頑張んな。ヴァンがそう言うと同時にレースが開始された。


____________________________________________

モリオカート。任侠堂のマスコット、モリオをはじめとしたキャラが車やバイクに乗り、レースをするゲーム。


俺はモリカーなんて触ったこともなければ、ゲームもほとんどやったことない人間だ。

それでもこのゲームの存在は知っていたし、触ってすぐに操作が解るほど、ゲーム自体は単純だと思う。

ただ、レース中に獲得できるアイテムや、コーナードリフトなどのプレイヤーのスキルを駆使して順位を上げる奥深さもあった。


やっぱり有名ゲームになるだけの面白さがあるな。


しかし……


「だぁクソッたれ!!なんでこんなところに壁があるんだ!!」

「アイテムボックスから甲羅しか出ねぇぞ、オイ!!」

「真っすぐ走ってブチ抜くのがレースってもんだろうが!!ア”ァ”ン!?」


ヴァン・ディーゲルは想像以上に不器用なようだった。

闘牛と見まがうほどの直線機動。

モリカーにそんな仕様はないが、車体がベコベコに凹んでいるように見える。

ドライバーの亀はむち打ちにならないか心配だ。


結果、俺が6位 ヴァン12位。

俺の勝ちだ。ヴァンから対マフィア戦術を学べるはず。


「……ちっ、仕方ねえ。クソガキ、付いてこい」


ヴァンがゲームコントローラーの左スティックを押し込む。

部屋の壁に積みあがったビールボックスから、キィと音が鳴って手前側に隠し扉が開く。

唖然としている俺に、ヴァンはしてやったりの表情だ。


「フッ……お前もこういうのは好きだろ?真似すんなよ」


「あ、はい……」


確かに隠し扉は好きだけど、ゲームのコントローラーに起動ボタンを仕込むのはちょっと……


両性師匠←NEW!


書けた分を投稿。

いろいろ重なって仕事がしんどいです。

不定期更新ですが、お付き合いください…

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