22.修行
ヴァンに連れられて、ガレージの地下に入る。
暗闇に目を凝らしていると、ヴァンがスイッチを入れてライトが点いた。
「な......なんですか、これ?」
「こいつは俺が作った訓練ブースよ。この街の要所施設とほぼ同じ間取りだ、ほれ」
渡された紙にはこの地下の間取りがおおざっぱに書かれている。
目の前にはトタンの壁に木製の簡素なドアしかないが、その向こうには入り組んだ構造。
何となく、ここでサバゲーとかやったら楽しそうだなと思った。
「クソガキ、お前にはここでひたすらイメージトレーニングをしてもらう」
「イメージトレーニングですか?」
「あぁそうだ。マフィア相手に正面からドンパチは、とてもじゃないが現実的じゃない。ブラフ、だまし討ち、人質、脅迫なんでもいい。銃の引き金を引く前に少しでも自分側が有利になるように準備するんだ」
なるほど、ちょうど今の俺たちがすべきことな気がする。
帳簿を手に入れ、ドッドファミリーの金の巡りを把握した今、得意先をつぶす、売り上げの強奪、情報のかく乱などできることは多い。
そう思うと、ここにいることが間違いではないのかと思ってしまう。
「そんで、イメージするのはその全部が上手くいかなかった場合だ」
「え!?そんなネガティブなイメージなんですか?もっとこう……最良の自分を想定して気持ちを高める的なことじゃなくて?」
呆れたような小ばかにしたような表情でヴァンは息を吐いた。
「いいかクソガキ、人間ってのは絶望した瞬間に止まる。思考も、身体も、心も。次のアクションがいつできるかは人によるが、重要なのは止まるってとこだ」
「戦闘中に止まるってのは死ぬことと同義だ。死にたくなければ常に動かせ」
常に動かす……思考を、身体を、心を……
「ここでするのは止まるパターンの経験値をためること。とことん絶望させてやるから止まるな、そんで止まったらとっとと動き出せ」
じゃ始めるぞ。そう言ってヴァンはポツンと置かれたデスクを指さす。
スタンドライトと鉛筆、折り畳み椅子しかないデスク。
「その紙にお前が想像しうる最悪のシチュエーションをすべて書き出せ。終わったらドアに入って見つからずに奥のゴールまで向かうんだ」
「かくれんぼってことですか?」
「自分で考えろ。10分で準備するから、それまでは座ってろ」
ドアの向こうに消えたヴァンの背中を見送り、デスクに向かう。
ポストイットにまずは一つ「所持武器無し」と書いてマップの端に張る。
最悪なぁ……「能力使用不可」も終わりだよな。あとは……「両脚負傷」とか?
どんどん書き出しては貼る。
う~ん、結構書いたけど、時間が余ったな。
いや、もっとアクション映画やアニメみたいな状況も考えてみるか。例えばそう……「ドアを開けた瞬間爆発」なんかもクソだよなぁ~。
敵の装備がフィクションみたいな超火力武器も最悪だな。カキカキ……
突然ブザーが鳴り、ドアからカチャンと鍵の開くような音がした。
「ブリーフィングは終わりってことね、OK。そう簡単には死なねぇぞ……」
ドアを開けた瞬間、爆炎と爆風に吹き飛ばされ、俺は意識を消失した。______________
なんか、明るい……?ゆっくり瞼を開ける。
何がどうなって……あ、俺爆発に巻き込まれて……
死んだのか……?
いや、身体中が痛いけど、たぶん生きてる。
クソ、なんなんだ……
「おぉクソガキ。生きてたか」
女になったヴァンが煙草をふかす姿が目に入る。
「派手に爆発しちまったからよ、死んだかと思ったわ!」
「今時ワイスピでもあんな爆発しませんよ……なんなんですか、アレ……」
「さすが、オレ様特製の演習場ってとこだな。さっきのはお前が書いたから採用してみたが……次はもっと火薬を少なくしねぇとな」
そう言いながら、広げた新聞に目を戻す。
「だいぶ街がクサくなってきたな……」
「……なにかあったんですか?」
「んお?知らねぇのかよ……どこもかしこも『ファビュラスマン引退!』の一色じゃねぇか。あとは、アレ……ブレイズフォードんとこのお嬢ちゃんが事故に巻き込まれて意識不明とか」
放られた新聞を広げると、確かに一面ファビュラスマンを映した記事だ。『引退か!?』と見出しされているところを見るに、正式な発表はまだのようだ。
彼の輝かしい功績が綴られているが、肝心の事件の内容については書かれていない……
裏面にブレイズフォード事故の記事。こちらは割と詳細に事件の内容が書かれている。
『グループ傘下の会社で打ち合わせ中に火事。たこ足配線が原因か』被害者1名。行方不明者1名。
『被害者はエラ・ブレイズフォード嬢、命に別状なし、全治2か月ほどの怪我』か。
どちらの事件も物騒で、何やら裏がありそう。
それとなく情報を集めてみよう、と脳内メモし体を起こす。
今は、死なないことだけに頭を使いたい。
「起きれるなら上等。とっとと次のチャレンジ行ってこい」
「ウッス!」
体をほぐすようにストレッチして、先ほど爆発したドアノブを握る。
今度はゆっくり、数ミリほどだけ開く。すると、向こう側のドアノブにワイヤーらしきものが見えた。
なるほど、こいつがさっきの……だが、俺はこのトラップの解除方法なんか知らない……
止まらない。
その一言だけが耳の奥に響くと、ドアを勢いよく引き開ける。
ドアの陰に隠れるようにして、壁に背を向けてうずくまる。
轟音と衝撃がドア越しに聞こえた。
おぉ……耳が……
音が曇ってるというか、遠くに聞こえる感じのままドアを覗くと、真っすぐな通路。
その通路の両サイドにドアが交互に2つずつ。
目的の通路の奥は、暗闇でよく見えない……
ドアは、開けなければ爆発はないはず。
一つ目のドアを通り過ぎる。
ゆっくりと忍び足で、だ。
汗がこめかみを流れる。吐く息が荒くなっていく。
二つ目のドア。三つ目を通り過ぎた瞬間。
背後のドアが開き、人影が飛出した。
「……っ!?」
とっさに俺がした行動は『逃走』。
そいつに背を向けて、奥へ駆け出した。
バァン!
音が消え、赤い液体が額から飛び散るのをみた。
すべてがスローに感じる。
くそ……
即死かよ……
今度こそ死んだな……
床に倒れ、意識を消失した。______________
修行回ってむっずい
アニメとかでダイジェストになるのがよ~くわかる…




