17.焼身
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ハコスの奴、インターホン押して固まってたけど何してやがんだ?
おら、とっととなんかヤレ!!
ジェスチャーで『イケ!』と伝える。
何とも言えない目でこちらを見つめている。
やっぱり囮役はオイラがやるべきだったか……?そう思っていた時、屋敷の玄関が開く。
おい、ハコスの陰でよく見えなかったが女じゃなかったか!?
もうちょい視線をずらせば見えるか……?
あ~ドアが閉まっちまった。美人の雰囲気がしたから、見たかったんだが……
後でジョークに問いただしてやる。
「おい、スティンキー。そこで何をしている?」
聞きたくない声が聞こえた気がした。
「おい、そのモヒカン頭はスティンキーだろ。顔が見えないからバレないとでも思ってるのか。藪に沈むな!出てこい!」
「仕方ねぇな……よぉ、昨日ぶりだなブライアン」
相変わらず眉間にしわを寄せて、代わり映えのしない黒いスーツ姿。いや、昨日やりあったから、髪は短くなってるな。
「今すぐ、この場から消えろ。せっかく拾った命を無駄にするな」
「ワリィな、そいつはできねぇ。ここで人と待ち合わせしてるんでな」
ブライアンが少し目を伏せて、懐から何かをゆっくり取り出した。
なんだ……?注射器に見えるが、ガラス部分から見える内部に異様な結晶と紫の液体。体内に入れたらヤバいことは明らかだ。
飛ばしてくるのか。すぐに反応するために、腰を低くする。
「そう警戒するな。こいつを打ち込むのは俺自身だ」
「……コカインには見えねぇぞ、それ」
「スティンキー、俺はお前みたいに自由に生きられねぇ……」
「おい、ブライアン?急にどうし……」
「黙って聞けや!!」
ブライアンが叫ぶ。なんだ、様子が変だ。
いつものスカした余裕がない。表情も、まるでこれから死にに行くような……
鉄砲玉部隊のやつらが良くする顔……
「ったく、若頭からの命令でやるとはいえ、最後に話すのがお前か……だが、お前の前なら心置きなく叫べるか」
ブライアンが無邪気な笑みを浮かべる。その顔に、何も言えなかった。
初めて見る表情に戸惑ったオイラに向かって、さらに続ける。
「誰だって一度は考えるよな、こういうの。実際に言える場面は来ないけどよ……お前はいつだってノリノリで叫んでた。正直ちょっと羨ましかったんだぜスティンキー」
「……何するつもりだ、止せブライアン!!」
「漢ブライアンの心火を燃やした散り様、その身に焼き付けろや!!……【焼身劫火】!!!」
ブライアンが注射器を首に刺して、薬が減っていく。技名を叫んで、髪が焼け縮んだ瞬間___
爆風がオイラの体を吹き飛ばした。屋敷の塀に叩きつけられ、痛みに呻きながらアイツに目を向ける。
全身がひび割れるようにして炎が噴き出して、豪焔が奴を中心に渦巻いている。
くそ、こんな火力……人の身で出していい威力じゃねえぞ!
ブライアンはほとんど意識もない状態で立ち、火を出し続けてる。野郎、間違いなく死ぬ気だ。
リベンジマッチがまだだろうが、勝ち逃げなんか……させるかよ。
「おい、スティンキー!何があった!?」
「いいタイミングだジョーク。って後ろの超絶美人は誰だコラァ!!」
青色の髪をポニテで結った女。オーバーサイズのワイシャツで体を隠してるけど……おい、その中履いてないんじゃないのか!?
ハコスこの野郎、屋敷の中で一発ヤってやがったのか!
「秘書さん!?ついて来ちゃったんですか!……ってまずはあの炎が先だろ!」
「ワタシもお力になれると思いますよ!」
秘書の青い髪がはらりと揺れながら短くなる。彼女が手を構えた途端に、ブライアンから吹く熱風が、オイラたちを避けるような流れに変わる。
「ワタシの前方に力を流しています!けど、長くは持ちません!」
「最高の女じゃねぇかよ!ジョーク、オイラにあいつを殴らせろ!」
最速でぶち抜いて殴る。
オイラにできる最高最善の方法。
「スティンキー、こっちに!押し出す!」
ハコスの髪が縮んで、塀の一部が四角く縁取られる。
それを背に、オイラも髪を縮める。
いつもの粘着液じゃ、この火に焼かれて意味がねぇ。出すのは粘着性を少なく、水気を含ませた___
「【摩擦零】!!」
全身からとろりと透明な液体が分泌される。
おっと、これ、直立するの難しいな。前傾姿勢で構える。
「行くぞスティンキー!」
「なら、技名叫べジョーク!!」
「……っ!あぁわかったよ!!行くぞこの!【バネ最大強化】!」
パカっと塀の一部が開くと、極太の紙バネが射出された。
バネのスピードがそのままオイラの背を押す。弾丸が放たれるように地面を滑る。
秘書の横を一瞬で通り過ぎ、さらに加速する。
炎をぶち抜いて、風を切るオイラの拳が、ブライアンの焦げた顔面に突き刺さる。
オイラはお前の悔しがる顔が好きだったんだ。
殴られて、そんな安らかな顔してんじゃねぇよ……
……くそったれ。
あばよ兄弟。
ローションで滑るのが俺の人生だった。
だから、俺とお前は兄弟だった。
本当に、惜しい奴を亡くしたぜ、あばよ兄弟。




