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15.最高能力治安官

「さぁ、始めましょう。すぐに終わらないでくださいね、最高能力治安官(ファビュラスマン)


武装した右手を構えるダミニク。NHS:BALDER(ボルダー)とか言ったか。

刃が出ているところから、近接戦闘となるだろう。関節を決めて連行してやる。


「格の違いを教えてやろう。来い」


奴との距離は3歩半といったところか、どんなに早くても刃が届くまでに受けの構えが取れる。

するとダミニクが距離を保ったまま刃を突き出した。

当然、私に刃が届くことはない。


はずだった。


「ぐっ……!?がぁ!!!」


一瞬の間に私のふとももの肉が抉れる。ここ数年、感じたことのない痛みが私を襲う。

瞬く間に脂汗が額に浮かび、息が切れる。何が起こった……状況を把握するため、意識的に目を動かす。


「ふむ、まだまだ精度は甘いですか。しかし、精度を上げると威力が……悩ましいですねぇ」


「ふぅ……ふぅ……そのボルダーとかいう武装か……」


「えぇ!!無敵を誇るファビュラスマンに、たった一撃で膝をつかせるこの威力!素材を提供した甲斐

がありましたよ!」


そうか、ドッドファミリーが素材の提供を……

その素材は間違いなく、髪……!!


「……いったいどれ程の髪を使った……っ!」


「納品書の数字は忘れてませんよ、エリア2つ分……たしか560万と62です。そして、ここで+1ですね」


刃を向けられた瞬間に床を転がる。

片足が使えない状況では無様に転がるだけで、すぐに反撃に移れそうにない。

だが、必ずここで奴を取り押さえる……!私は最高能力治安官(ファビュラスマン)だ!!


「前から思っていたんです」

「……何がだ?」


攻撃の手を止め、ダミニクがとんとんとこめかみを指で叩きながら語る。


「貴方の能力ですよ。拳銃程度じゃビクともしない身体、成人男性数十人をまとめて一掃できるパワー」


息を整える。


「貴方は必ず、最初の攻撃は避けない。どうしてかといつも思っていたんです。あのパワーはあなたが身体に受けた『衝撃』ですよねぇ?それを数倍に引き上げて放出しているんじゃないか、そう予想しました」


「……本当にそう思うか?」


正解だ。

私の能力は『自身の身体に受けた衝撃の吸収と放出』。衝撃を受けた瞬間に発動タイミングを合わせないと保持できないし、気を張って保持し続けなければ意図しないタイミングで暴発してしまう。

そして、最大の弱点が……


「切り傷は吸収できないようですね」


「……どうかな、近接戦闘(ショートレンジ)で傷を負ったことがないんだ」


「ふふふ、飛ぶ刺突攻撃は初めてでしたか?」


「この歳で初めて(ヴァージン)を経験できるとはな!!」


能力が分かったとて、負けるつもりは毛頭ない。

片足で踏み込み、まずは一番危険な右腕を抑える!

切っ先の直線状から体をそらすようにして、腕を片手でつかみ、もう片手でダミニクの顔面に拳を叩きつける。

しかし、奴に簡単に受け止められる。


互いに力が入り、腕を動かせずに硬直した。


「死に体でよく動きますね」

「はぁ、はぁ、もっと手加減が必要か?若造」

「……その加齢臭くさい体を近づけないでくださいよ!」


NHS:BALDER(ボルダー) AMPLIFIER』


ダミニクの髪が少し縮んだ。

すると掴んでいたボルダーがグネグネと波うち、一瞬で螺旋を描くように炸裂した。

切り刻まれ、吹き飛ばされる。壁に叩きつけられ、肺の空気が抜ける。


体が動かない。


視界が赤く染まる。


くそ、なんなんだ……あれは……


「さようなら、ファビュラスマン」


ちくしょう……ダミニク……ちくしょう……

______________________________

意識を失ったスタイロムの前で、ダミニクが肩を回していた。


「く……想定より衝撃が強いですね……腕が痛い」


すでに右腕の装甲は格納され、破れた袖から覗く逞しい腕にブレスレットが光る。


彼は十分手伝ってくれた。

まさかAMPLIFIER(アンプリファイア)まで使わせてくれるとは……

しかし、最後の一撃は不意を突かなければ衝撃吸収で受けられ、こちらに返される可能性もあった。


「エネルギー切れ、これも要改善ですね……」


ポケットから注射器を取り出して、自身の腕に刺した。

中の緑色の液体が減ると同時に、ダミニクの髪が元の長さに戻る。


「ふぅ、こいつももっと必要ですね。数本じゃ話にならない」


カチャリ

ドアが開き、一人の男が廊下に姿を現す。


「やっときましたね。では、彼を連れて行ってください、ケイシーさん」


こくりとうなづき、ケイシーと呼ばれた男はスタイロムを背負って地上に向かった。

_______________







真っ白い天井。

ぼやける視界が徐々に鮮明になる。

独特のにおい、病院か……私は、助かったのか……


「目が覚めたか、スタイロム」

「……エリック、総監……」


同期のエリック、出世して総監にまでなった私の長い友人でもある。

見舞いに来られると、少し照れるな。


「随分とやられたな。全身ズタズタじゃないか」

「あぁ……少し油断しました……ですが、証拠はつかみました……ブレイズカンパニーは黒です」


エリックは椅子に腰かけ、こちらをみる。

なんだその表情は、心配……いや、同情?


「ブレイズカンパニーは捜査対象から外れた」


「っ!?どういうことですか!総監!」


「上からの命令だ。お前への処分も直に伝達される」


「ちょっと待ってください!処分!?私がか?おい、エリック!!笑えない冗談はやめてくれ!」


「冗談じゃないさ、スタイロム……許可のない捜査をして、連れて行った後輩は殉職、自身も再起不能のケガ。我々にとってはこれ以上ない大打撃だ」


「わ、私はまだ戦える!この程度のケガはすぐに直せる!私は最高能力治安官(ファビュラスマン)だぞ!!」


たった1度の敗北で、こんなことになるはずがない。エリック、私にそんな悲しそうな眼を向けるな。

私は最高能力治安官(ファビュラスマン)だ。誰が何と言おうと……


「もうウィッグで誤魔化すのも無理だろう、ゆっくり休め」


「違う!そんなことを聞きたいんじゃない!」


「お前は誰もが認める最高能力治安官(ファビュラスマン)()()()よ」

「『だった』?違う!!私は今なお最高能力治安官(ファビュラスマン)だ!!」


エリックは軽く首を振って腰を上げた。病室を出ていく背中に叫び続ける。

こんな、ありえない!なぜだ!


空が暗くなっても、私はエリックの言葉を信じられなかった。

窓に映る姿に目を見開く。


もうほとんど髪なんてなかった。


声が遠くに聞こえる。男の悲痛な叫びだ。叫んでいるのは、私か……

あぁ……髪があれば……髪を……

この回、書いててめちゃくちゃ楽しかった……!!



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― 新着の感想 ―
嘘だろ…ファビュラスマンが… また立ち上がってくれるよな…? それがヒーローだろ…?
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