14.潜入
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メラニンシティ中央エリア、ブレイズカンパニー本社ビル。
地上300mほどの大きなビルの前に私たちは居た。
「さて、どうやって入るんです?スタイロムさん」
私の捜査に強引についてきた最良能力治安官・ケイシーが試すような目つきで尋ねる。
若造は気が競っていかんな。
「焦るな。少し待っていろ」
電話をしながら社員と思わしき人物が一人、ビルから出てくる。
私はスーツの襟とネクタイを直し、少し髪形を乱してから駆け足でその社員にぶつかった。
「すみません、急いでて!すみません!」
「あぁ!……はい、大丈夫です~そちらの件なんですけど……」
社員は私を睨みながら、電話から耳を離すことなく立ち去る。
その背中を真顔で見つめて、手の中にある感触を確かめる。
「すみません、すみません……っと、悪いな。借りるぞ」
「めちゃくちゃ情けない声が上手いですね、スタイロムさん」
笑いをこらえながら言ってきたケイシーに、先ほどの男から拝借した社員証を投げつける。
「とりあえず、それでビル内には入れるだろう」
手に入れたのは一人分の社員証だけだったので、私が先に入り客を招くていでケイシーもビルに入る。
さてと、ここからが本番だ。大まかな目星として地下の研究・開発室とビル上階に位置する社長室や資料室が捜査対象だ。
「じゃあ、当初の打ち合わせ通りに、俺が上階を調べます」
「あぁ、私が地下だな。しくじるなよ」
「そっちこそ、気を付けてくださいよ」
ケイシーと別れ、地下へ向かうエレベーターに乗る。
表示を見ると地下3階まであるようだ、すべて調べるのはなかなかに骨が折れそうだ。
地下1階でエレベーターが止まる。
次に乗るやつらとすれ違うように降りて、あたりを見回す。
ちょうどトイレに入ろうとしている白衣の男が目に入った。
「研究者か……ツイてるな」
思わずつぶやき、後を追う。
個室に入ったのを確認し、鍵を閉められる前にすかさず体を入れる。
「な、あ!なんだアンタ!俺はノーマルだぞ……!ってファビュラスマン!?」
「私がファビュラスマンだって?少し疲れてるんじゃないか?仮眠をとったほうがいい」
研究者の頸動脈を締めて意識を落とす。白衣と社員証を拝借し、便器に座る男には代わりにジャケットを着せた。
白衣を翻し、何気ない顔で歩く。
この階はブレイズカンパニーの主戦力である電力装置の開発研究エリアらしい。
作業台の上に基盤や工具が並べられており、保護メガネを付けた研究者たちが作業していた。
あたりを見回すと、奥で開発長のピンを付けた人物がPCに向かって何かを打ち込んでいる。
迷わず話しかける。
「開発長、ロビーに奥様がいらっしゃってましたよ。すごい剣幕で目が吊り上がってました」
「なんだと……!?す、すぐに向かう!!」
転がるように出て行った開発長のパソコンにメモリを差し込んでデータを抜き取る。
ものの数秒でダウンロードが完了したので、すぐさま去る。内容は後で確認すればいい。
次は地下2階へ向かおう。
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地下2階は先ほどと変わり、工場のような内装だった。
大型の装置が一定間隔で並び、作業着を着た者たちが火花を散らすように作業している。
見覚えのないものばかりだが、大型トラックのようなタイヤにミサイルのようなパーツまであり、ひどく雑多な印象を受ける。
また、全体的に焦げ臭い臭いが充満し、油や焦げのようなシミで壁や床が汚れている。あまり長居はしたくないな。
白衣を脱ぎ、ロッカーにかけてあった作業着を着る。
ヘルメットをしっかりと被り、装置に近づく。
近くで見ても、なんの装置か判断できない。知っているもので例えると……パーマ機が縦に重なっているような見た目だ。
私が3人縦になってもまだ装置のほうが大きい。
「おぉい!あぶねぇぞ!!」
声のしたほうへ振り向く。鼻の頭を黒く汚した男が私に注意していた。
作業音が響くので、私も声量を上げて返す。
「あぁ、すまない!ここの溶接があまりに見事だったんでな!」
「そこは俺がやったからな!当然だ!お前もあと10年やれば同じことができるぞ!」
「そいつは気の長い話だ!」
作業員をうまく躱して、移動する。
ざっと見まわしたところ、管理室のようなものはこの階にはなさそうだった。
作業場にあった設計書や装置を隠し撮りして、最後の階へ向かう。
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地下3階へ向かうエレベーターがない。
いや、あるんだがすべて認証が必要なタイプだった。そして、今持っている社員証では使えないようだった。
「お困りですか?」
振り向くと黒いスーツに似合う、アップパンクヘアに三本の刈込線の入った男がいた。
こいつ……!ドッドファミリー!?
ブレイズカンパニーとマフィアの繋がりをつかむどころか本人が出てくるとは!
落ち着け、こちらは潜入している身だ。騒ぎになるのはマズい。
「えぇ。どうやら社員証を落としたみたいで……」
「……そうですか、では一緒に行きますか」
男がカードを取り出して、承認機に通す。
エレベータの中、男と二人きりだ。不自然の無いよう、礼を言っておくか。
「助かりました、ありがとうございます」
「いえいえ、こちらも丁度、開発室へ向かうタイミングでしたのでついでですよ」
ははは、愛想笑いを浮かべて頭をかく。
こいつから情報を引き出せないかと考え、口を開きかけたとき、エレベーターが目的地に到着する。
降りると長い廊下だった。
横幅は人二人が手を広げたくらい、天井は高く白い照明に照らされており、廊下の先に扉がいくつかあるのが見える。
前を歩いていた男が振り返る。
「ここは最新プロジェクトのための階です。あなたが望む情報がここにありますよ、スタイロムさん」
「気づいていたのか」
「もちろん、貴方ともう一人ネズミが入っていることは把握してました」
男はスーツの内ポケットからスマホを取り出して私に放った。
画面が割れ、血痕が飛び散って汚れたそれはケイシーのモノだった。
息が止まった。拳を握り、怒りに震えながら、口を開く。
「貴様、私の後輩をどうした……?」
「困るんですよ、最高治安官サマにこんなところまで来られちゃ……でも丁度いいタイミングでもある」
腕をまくり、何やらデバイスを操作する男。
「こいつの使用データ、貴方相手なら存分に取れそうだ」
『NHS:BALDER 起動』
男の右腕に黒いアーマーのようなものが展開されていく。
髪が絡まっていくような様子から、酷く悍ましい物であることが肌で感じる。
肩まで装甲に覆われ、手の甲から幅広の刃が展開している。
「ふむ、このサイズだと腕を覆うのが限界のようです」
「な、なんだそれは……お前、何者だっ!?」
「今はドッドファミリーの若頭とだけ。それよりこちらをご覧ください!こいつはNHS:BALDER開発中のNHSを兵器運用するための試作機ですよ!」
上機嫌でしゃべる男。ドッドファミリーの若頭だって……?ではこいつが、【神算鬼謀】のダミニクか!
裏で人を操り、決して表に出ない。顔の情報すら出まわってなかったのに……
「さぁ、始めましょう。すぐに終わらないでくださいね、最高能力治安官」




