13.告白
「ドッドファミリーがNHS量産プロジェクトにかかわることは容認できないわ。外聞が悪すぎるもの。だから、手を引かせたいの。ハコス、お願いできる?」
数秒の沈黙。エラの発言を理解するのに時間がかかった。
ただの運び屋に、マフィアの相手をしろと??何をおっしゃっているんだ、このお嬢様は……
ありったけの皮肉で返してやろうと口を開きかけた時、スティンキーが割って入る。
「おうおう!いいじゃねぇか!オイラにも一枚嚙ませてくれよ!」
「そう、じゃあお二人にお願いするわ」
「ちょっと待て、俺はそんな危険なことはやらないぞ」
「わたくしは貴方の雇い主のはずですわ?」
一方的な物言いに、カチンときて言い返す。
命あってのモノダネだ。クビになろうと死にに行くのはゴメンだね。
「俺は運び屋、切った張ったは専門外」
それに、このお嬢様の最終的な目標すら知らない。
そんな相手のために命までは懸けられない。
「そう、それは残念……貴方はわたくしにとってのヒーローでしたのに」
そういう脅し方も好きじゃない。
ヒーローだって?バカバカしい。ファビュラスマンのようになれってか。ははは、まったく……
「ヒーローにはなれないかもしれないが、共犯者にはなれるだろ?」
スティンキーが口を開く。
「オイラにはよくわかんねぇが、嬢ちゃんの目的はドッドファミリーをつぶして終わりじゃねぇ。まだ先にあるよな?そいつを聞かせちゃくれねぇか?」
エラが目を伏せて、静かに語る。
「わたくしの父は、5年前からとある病気にかかって入院してますの……」
そこからエラの過去は語られた。
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わたくしの父、ヒューズ・ブレイズフォードは曾祖父の代から続く会社をたったお一人で現在の規模まで拡大させた人ですわ。母のイアナも凛とした気高い女性でしたわ。
二人とも誰にでも分け隔てなく接し、父は部下にも気安くランチを誘われるような人柄でした。
わたくしのことも、これ以上ないほどに愛してくださいました。
しかし、わたくしがまだ8歳のころですわ、父の弟がコネで会社に入ってきましたの。
仕事は大変優秀でしたが、父ほど誰かに慕われるようなことはなかったそうですわ。
会社では父と比べられて少し肩身が狭いご様子でした。
ある日を境に、父に金をせびるようになりましたわ。
父は眉毛を下げながら、今だけだから、あいつはちゃんとした奴だからと叔父を信じて金を渡しておりましたのに……!
叔父はその金でギャンブルや娼館に通いつめ、挙句の果てに会社の金を横領して自分の会社を立ち上げようとまでしていました!
父はそんな叔父の様子に心を痛めておいででした。そんな時、母が事故で亡くなって……
父はみるみる憔悴していきましたわ。逞しい肉体は急激にやせ細り、フォークを持つのもやっとの腕になり、頬や眼窩が窪んで死人も同然の顔色に……療養のために髪も剃られて……
父が会社の経営ができるような状態ではなくなって入院した時、叔父が返ってきました。
奴は父の代わりに会社を引っ張るのは自分しかいないと嘯き、乗っ取ったのです。
わたくしは、父の尊厳を奴から奪い返す……!
そのために誰にでも使える『NO HEAR SISTEM』を発足させましたの。
えぇ、システムの開発は専属の人間にやらせておりますわ?
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どうやら叔父に対する笑顔の裏に、どす黒い復讐の炎が広がっていたようだった。
エラが語った内容は、俺にはありふれたもののように思える。
ちらりとスティンキーを見る。奴もどうしたものかと困惑した様子だった。
そんな俺たちを見て、エラは頭を下げた。
「これはわたくしの復讐ですわ。貴方たちに関係ないことも分かっています。でも、どうか……!」
スティンキーと目を合わす。きれいな旋毛をみて、つくづくこの女は俺とは違う世界の人間だと思った。
こんな個人的な復讐に命を懸ける人間が、この街にいると思っているのだろうか。
「オイラは乗るぜ」
スティンキーが言った。
「元よりファミリーに一発噛ましてやるつもりだしな。お前はどうするよ、ジョーク?」
俺は……
「一つ、条件がある。お前の復讐が終わったら、俺の用事にも付き合ってもらうぜ」
「えぇ……!えぇ!ありがとう……!わかりましたわ、その条件を受けます」
女に頭を下げられるのが好きじゃなかっただけだ。
それに、腐っても大企業の娘さんだ。今以上にたんまり稼がせてもらおう。
なんだか自分への言い訳が増えていっている気がする。
でもこれで、この場にいる人間は共犯者になった。もう引き返せないのだろう、己の掌を見つめる。
何もない、空虚な人生だった。マフィア相手にケンカを仕掛けるなんて、間違いなくハイライトだ。
そう考えると、この話も悪くない。




