12.合流
暇だ。
病院なんてガキの頃以来だけど、こんなに何もないところだったか……?
スティンキーの容態は見た目の割に、命に別状は無いそうだった。
ただ、左頬から耳の上の側頭部当たりにかけての火傷が酷く、その部分に髪が生えることは無いそうだ。
丁度そこにあった三本の刈込線は綺麗になくなってしまった。
ぼーっと窓の外を眺めていると、布団が動く音がした。
「よぉスティンキー、ずいぶん色気増したな?調子はどうだ?」
「よぉジョークボーイ、二日酔いと高熱と賢者タイムが同時に来てるみたいに絶好調だぜ」
包帯まみれの顔で、自身の体の調子を確かめるように肩を回す様子をみて、問題ないだろうと判断する。
そんな時、スマホのメロディが鳴る。
「おいおい、病院だぜ?電源切っとけよ」
「わり、ちょい出るわ」
病室を出て、ロビーで電話に出る。
「はいよ、こちらハコス。御用のある方はピーと鳴った後に猫の鳴きまねをして」
「……ミャオ」
可愛らしい雌の猫だった。きっと上流階級のお家に飼われている、毛並みのいい猫だ。
「何をやらせるのよ」
あんまり出たくない電話の時に使うお決まりのセリフなのだが、まともに返してくれるとは……
急な振りに対応してくれたエラは少し不機嫌そうに言った。
「ぁぁ、悪い。今病院でな。長くなる話なら後にしてくれ」
「へぇ?どこかケガでも?」
「いや、知人の付き添いでな。で、配達か?」
「ちょっと違うわ……できれば直接話したいの。どこの病院かしら?」
ふむ、電話じゃ言えない内容。面倒ごとの匂いがプンプンするが、断ると後が怖いのでリンプ診療所にいると告げる。
後で向かうと言って、エラは電話を切った。
スティンキーの病室に戻ると、奴はどこから調達したのかウィスキーの瓶を呷っていた。
「お前それ……俺にもくれよ」
「オイラに飲まれてぇって出てきたのよ。おら吞め」
瓶を受け取り、俺も呷った。
「誰からの電話だったんだ?女か?」
「雇い主だよ。女だ、飛び切り美人のな」
ひゅ~♪と口笛を鳴らすスティンキー。
「ここに来るらしいから、会わせてやるよ」
「おぉ?いいのか?オイラに惚れちまうかもしれないぜ?」
「そうなったらいいな。で、仕事も世話してもらえよ。ここの治療代くらいは稼がせてもらえるはずだ」
ウィスキーを渡しながら、いった内容。
もしそうなったら、俺はお払い箱かもな。
「治療費はツケで頼むぜ。オイラはブライアンの野郎の面を拝みにいかないとな」
「はぁ?あの火の奴か。俺はもう助けないぞ?」
「くはは、俺が生きてると知ったあいつの面。きっと最高に笑えるぜ。それに……」
「それに?」
「オイラはもうドッドファミリーに居られねぇからな。ケジメ付けねぇとな」
本当に楽しみだと言わんばかりのスティンキーに、ドン引きしつつも助けてよかったと思えた。
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交互に瓶を呷っていると、ノックが鳴る。
病室に入ってきたのはエラとお付きのゾフィーだ。
「失礼しま……アルコール消毒は十分になされているみたいね、ハコス」
入るなり顔をしかめたレディに、お小言をいただいてしまった。
3本も瓶を開けたのは、さすがに飲みすぎたか。
「ひゅ~♪マジの美人じゃねぇか!どうだ?今夜空いてるか?」
「寄るな下郎、お嬢様お下がりください!」
「大丈夫よゾフィー……ハコス、こちらの方は?」
う~ん。どう紹介したものか。
元ドッドファミリーとは、言わないほうがいいよなぁ……
「エラ、こいつはスティンキー。あー……ちょっと前まで街を騒がす組織に居たけど、悪い奴じゃない」
「オイラは元ドッドファミリーのスティンキー。よろしくなエラとゾフィー?お嬢様のほうがいいか?」
「エラで結構よ。スティンキー、丁度よかったわ」
どうやら余計な気遣いだったようだ。エラは特に気にした様子はない。
それどころか、丁度いい?
「ハコス、貴方に渡したBOXERに使われている『NHS』だけど、計画は最終段階に入ります。具体的には量産の目途がたったの。でも……」
エラがタブレットを取り出して、写真を表示させる。
写真にはオフィスで向かい合うエラの叔父とその相手。
秘書を連れた、仕立てのいい黒のスーツの上からでもわかるほどのガタイのいい男。スーツが似合うアップパンクヘアに三本の刈込線を入れている。
おや、この秘書の女どこかで……
「ドッドファミリーの若頭、ダミニクが接触してきたわ」
「ダミニクの若旦那と!?おいおい嬢ちゃん、アンタ何者だよ?」
ひどく驚いた様子のスティンキーに、エラは自身がブレイズカンパニー総帥の娘であると告げた。
「それで、聞きたいんだけど。ダミニクは叔父様に取引を持ち掛けたそうなの、今までマフィアとの接点なんか無かったのに……目的の予想は着くかしら?」
「いや、若旦那はドッドで一番頭のいい策士だからなぁ、オイラじゃあの人の考えは想像もつかねぇ」
「十中八九、NHSだろうな。量産の利権ってとこじゃないか?」
言ってから気が付いたが、街一番の暴力集団が、こんな商談のような場を設けるだろうか……
スティンキーによればダミニクという男は頭脳明晰とのこと、そこまで疑問になることでもないはずなんだが……どうも気になるな。




