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ヤンデレ幼馴染に監禁されたけど、快適すぎた。  作者: ChaCha


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はじめてのおつかい。


最奥の転移陣の間。


低く唸る魔石の駆動音の中、俺は帯剣し、軽装のまま転移陣の前に立っていた。


「坊っちゃま? どちらへ行かれるのですか?」


転移陣を警護していた大柄な精鋭兵が、不審そうに俺の荷物を見つめて声をかけてきた。


「母上から刺繍糸、エミからは最新刊の小説を頼まれてる。それと父上に言いつけられた炙り肉の買い出しと、とある手紙の配達だ」


「……坊っちゃまの、はじめてのおつかい!? ……私が、私がお供いたします!」


護衛の目がカッと見開かれ、鎧がガシャリと鳴った。


「いや、ひとりで行くからな!?」


すかさず、隣に控えていた彼のペアである女性護衛兵が、青ざめた顔で胸元に手を当てた。


「ま、迷子とか……万が一、外界の不埒者に誘拐されたりしませんか!? 私、今すぐセバス様にお伝えして、護衛の精鋭を増やすように手配を――」


「要らないからね!? ついてくるなよ!? 誰もついてくるなよ!?」


俺が必死に拒絶していると、俺の手元にある手紙の宛名を確認した護衛兵が、ハッとしたように表情を硬くした。


「……失礼ながら、炙り肉は東国ですが……手紙は王国宛ですね……?」


「あー……別国かよ」


思わず頭を抱えた。


東国と王国。正反対の方向だ。

これ、絶対に途中で一回、実家に帰らせる気満々じゃないか!


「……影、来い」


俺が低く呟いた刹那、膝を突いた影が音もなく姿を現した。


「はっ! 坊っちゃま、御用でしょうか」


「炙り肉、刺繍糸、最新刊はそっちで手に入れてセバスに渡しておいてくれ」


「はっ! 御意に!」


おつかいを押し付けられた影は、一礼だけ残して転移陣の光の中に消えていった。

さすが我が家の隠密部隊、頼りになる。


「では、王国行きですね」


残された転移陣の護衛が、どこか神妙な面持ちで俺を見つめる。


「勇者の本拠地……一度、この目で見てみたかったんだよな」


俺の言葉に、護衛兵がすっと一歩前に出た。


「差し出がましいことを申し上げます! ……たとえ坊っちゃまであっても、王城一帯へはお近付きになりませぬよう」


鍛えてきたし、何故そんなに止めるのか。

俺が首を傾げると、護衛兵は苦渋に満ちた声を絞り出した。


「かの勇者が捕らえられているということは……あの王国は、それほどまでに危険極まりないということです」


「……それもそうか」


合点がいった。


世界を滅ぼしかねない災厄の塊である勇者を、何百年もの間、生かしたまま管理し、その末裔まで捕らえている組織なのだ。まともな倫理観が通用する相手ではない。


「俺でも一筋縄ではいかない、何かが潜んでいるんだな……」


つぶやいた俺の言葉を、護衛兵はどう勘違いしたのか、ガタガタと震え出した。


「畏れ多くも坊っちゃまに恐怖を与え、不敬なことを申し上げたこの身……! 命を以てお詫びを!」


チャキッ!


金属質の鋭い音が響き、護衛兵が懐から抜いた短刀を自身の首筋へと突き立てようとした。


「やめーい!! マジでやめて? 本当にやめて!?」


パシーン!!


俺は手刀を繰り出し、護衛兵の短刀を鮮やかに弾き飛ばした。金属が床に落ちて甲高い音を立てる。


「俺を心配してくれてありがとう! 感謝してるから! だから簡単に命を捨てるな!! 目覚めが悪くなるし、そもそも意味がわからないからね!?」


ハァハァと息を荒らげる俺の前で、護衛兵の目が潤んでいく。


「……坊っちゃま」


「まぁ……なんて大きくなられて……」


ペアの女性護衛兵まで感動の涙を流し始めた。

ダメだ、この人たち重すぎる。


「はぁ……俺は行くからな」


俺はくるりと身体を反転させ、背後の広い室内に向かって声を張り上げた。


「そこに隠れてんの、気配で分かってるからな! ぜったい! ついてくるなよ!? 誰もだぞ!?」


念のための忠告を虚空へ叫ぶ。


すると、遠くの物陰から、母上の細い手がひょっこりと現れて力強くサムズアップを作った。

だが次の瞬間、後ろから伸びてきた見慣れた大人の男の手が、その母上の手をキュッと握り締め、サッと闇の中に連れ去っていった。


父上が母上を連行していったな……。

どこへとは言わないが。


「お兄さま――! 行ってらっしゃいませ!」


別の物陰から、今度は妹のエミリアがひょっこりと顔を出して手を振ってきた。


俺は苦笑しながら妹に手を振り返し、ついに転移陣の中央へと足を踏み入れた。


「……王国へ」


直後、身体がふわりと浮き上がるような独特の浮遊感が全身を包み込んだ。


***


次の瞬間、鼻を突いたのは、厳かな香と冷たい石の匂いだった。


景色が一変する。


「え? 何ここ……神殿?」


高い天井に囲まれた空間から、スタスタと外へ出れば、そこは広大な訓練場だった。


その片隅で、こちらに気が付いた一人の男が、目を見開いて脱兎の如く走ってくる。


「は、拝謁が叶い、恐悦至極にございます……っ!!」


養成所の所長が、まるで神でも迎えたかのような目で、その場に滑り込む勢いで膝をついた。


その声を合図に、場内で剣を振るっていたちびっ子から少年少女たちに至るまで、精鋭の卵たちが一斉に動きを止め、俺に向かって一糸乱れぬ動作で膝をつき頭を垂れた。


……内心、めちゃくちゃビビった。

いや、そうだよな。


魔の森の最奥にいるはずの次期魔王が、ある日突然、前触れもなく転移陣からひょっこり現れたのだ。現場は大パニックに決まっている。


「……本日は、どのような御用向きでしょうか」


脂汗を流す所長に、俺はできるだけ威厳を保った声を意識して答えた。


「あー、所用だ。お前たちは気にせずに訓練に励め。……素晴らしい動きだった」


ほんと、一瞬でこれだもんな。ビビるわ。


「有り難き幸せにございます……っ!」


このまま俺がここに居座っては、子供たちの気が休まらないだろう。さっさと退散するに限る。


「では、俺は行く」


「はっ! ……あ、あの、恐れ入ります」


立ち去ろうとした俺の後ろから、所長がおずおずと声をかけてきた。

振り返ると、彼は冷や汗を流しながら、俺の背後をキョロキョロと探っている。


「……おひとりで、いらっしゃいますか?」


おひとり様ですけど?


なんなら、帰りは可愛いお嫁さんとおふたり様で帰ってくる予定ですけど?


「……そうだ」


俺が短く答えた瞬間、所長の顔がサーッと真っ青に染まった。


「み、未熟ゆえお役に立てるか分かりませぬが……っ! 今すぐ、当養成所の精鋭から幾人かお供を!!」


俺はスッと片手を上げて、彼の言葉を制した。


「……不要だ」


「し、しかしながら!」


「……俺は強い」


「……っ!」


有無を言わせぬ圧を込めると、所長が息を呑む。


「それに、父上や母上から持たされた、一国を滅ぼしかねない魔導具を山ほど持ってる」


その言葉を聞いて、所長は少しだけホッとしたような顔を見せた。

だが次の瞬間、彼は目を泳がせながら言った。


「……念の為、セバス様へご確認を取らせていただいても?」


あっ! 今、お前! 家出を怪しんだだろう?


「……家出じゃないからな?」


「ハハッ、滅相もないことで……」


完全に泳いでいる所長の目と、じっと見つめ合う。


これ以上ここにいたら、包囲網が完成してしまう。


「……俺はもう行く」


所長は無言のまま、疑うような目で俺を見つめてくる。


俺は一歩下がり、人差し指を突きつけた。


「ついてくるなよ? ぜったい!! ついてくるなよ!?」


俺は背を向け、足早に養成所の敷地を後にした。


***


比較的、危険度の低い浅い魔の森。

養成所を囲う結界をふっと跨いだ先は、絶対の禁足地

――つまり、凶悪な魔物だらけのデンジャラスゾーンだ。


ガサガサッ!


鬱蒼とした草むらから、血に飢えた凶悪な魔物が姿を現す。


チャキッ。


俺は腰の剣を抜いた。


俺の前世の知識を元に、父上が作ってくれた特製の魔導剣。

名付けて、超音波カッター剣だ。


スパッ!!


「お、サックサク切れて気持ちいいー!! てか、弱過ぎじゃね?」


手応えすら残さず、魔物の巨体が真っ二つになって倒れていく。


「俺TUEEEE!!」


テンション爆あがりである。


周りには誰もいない。

……多分。


それを良いことに、俺は前世のフランクな口調を取り戻し、お馴染みのRPGの初級ステージを行く感覚で、鼻歌を歌いながら森を進んだ。


「……こっちの方角であってる?」


なんせ、生まれて初めて魔の森の奥地を出たのだ。

地図のデータはすべて頭に入っていても、いざ実際に歩いてみれば、生い茂る巨木のせいでゲシュタルト崩壊を起こしそうになる。


困惑して立ち止まった俺の目の前、太い木の幹に、突如として白い矢印プレートがニュッと生えてきた。


【 ← 】


「そうか、左か」


テクテクと、俺は矢印の示す方角へと歩き出す。


……いやいやいやいやいやいやいやいや!!!


お前ら、やっぱりついてきてるじゃねえか!!


「……ありがとう」


恥ずかしさに耐えかねて俺が小さく呟くと、今度は前方の茂みから、スッと別の白いプレートが掲げられた。


【そのまま真っ直ぐです】


「おっけー! 真っ直ぐね」


……めちゃくちゃ恥ずかしい。

……これは、恥ずかしい。


「も、森を出るまでだからな!?」


……シーン。


「ついてくるなよ!? ぜったいだからな!?」


……返事がないのが、いちばん怖い。


俺は真っ赤になった顔を隠すようにフードを深く被り、案内板通りに足早に森を駆け抜けていく。


その先にある、王国と外界を隔てる境界の街道へと――。




アレク視点。

ミスを修正しましたm(_ _)m

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