村というか……。
「村長さーん、お昼ご飯できたよー!」
私が窓から声をかけると、庭先で作業をしていたルシアンがふっと口角を上げた。
「ふっ、今日の村長夫人はずいぶんとご機嫌ですね」
「そりゃそうよ! 住人が私たちしかいない村の村長夫人なんて、ちょっと面白いじゃない!」
「たしかにそうだな」
私が笑いながら指差す窓の外には、信じられない光景が広がっている。
元々あった私たちの本邸――これでも十分立派な平屋だ――を囲むように、真新しい使用人棟、巨大なジャングル温室、広大な畑、食糧庫、厩舎、そしてなぜか本格的な『訓練所』まで並んでいるのだ。
「あれ? これ、村っていうか……完全に一つの『領地』じゃない?」
「こうして施設が増えてくると、最初の我が家がずいぶんと小さく見えてくるな」
「ねぇルシアン、いくらなんでもやり過ぎじゃない?」
「いや、いざという時の防衛拠点を兼ねるなら、これでもまだ足りないくらいだろう」
私の夫は、一体どこを目指しているのだろうか……。
真面目な顔で腕を組む彼を見て、私は思わずため息をつきそうになった。
「……いよいよ来月から、臨月に入るな」
ルシアンがふと、優しい声で私の大きなお腹を見つめた。
「うん! ルシアンが作ってくれたベビーベッドや魔導具も完璧だし、産着も縫い終わったから、いつお迎えしても大丈夫よ!」
「そうか。……なら、今日はまた少し街へ出てくる」
「うん、無理しないでね」
あの日、「奴隷を買う」という話になってから。
ルシアンは買い出しに出る合間に、条件に見合う忌み子を探しているらしいのだが、なかなか見つからないのだという。
(ルシアンの求める条件、厳しすぎるんじゃない?)
そもそもその条件って何? と聞いても、毎回うまくはぐらかされてしまう。
あやしい……非常にあやしい。絶対に裏で、物騒な組織を作ろうとしている気がする。
けれど、結局は『私の安全のため』に決めた条件なのだと思うと、強くは追及できなかった。
「魔力のチャージだけは、絶対に忘れないでくれよ」
出かける準備を整えたルシアンが、念を押すように言った。
「大丈夫。すぐに満タンにしておくわ。気をつけて向かってね?」
玄関先で、甘く、いつまでも離れ難い口付けが落ちる。
「……行ってくる」
「行ってらっしゃい!」
名残惜しそうに出かけていくルシアンを見送り、重い扉を閉じる。
私はそのまま地下室へ降りた。
部屋の中央に鎮座する『魔力石』へそっと両手を触れ、私の中に有り余る魔力を満タンまで注ぎ込んでいく。
「それにしても、この地下室もずいぶん様変わりしたわよね……」
最初に暮らし始めた頃はただの石だったそれも、ルシアンの手で次々と魔術回路や新たな石が継ぎ足され、今や見上げるほど巨大化している。
淡い光を放つその姿は、まるで前世で遊んだ某RPGのラストダンジョンにある特大クリスタルだ。
「ふふっ。ルシアンのことだから、そのうちこの地下を本当にダンジョン化しちゃったりなんかしてね」
……でも、あながち冗談で済まないのがルシアンなのよね。
そう思うと、少しだけ冷や汗が滲んだ。




