絶対に裏切らない助け
「ちょちょ、ちょっとルシアン! 奴隷って!?」
「何をそんなに驚いているんだ?」
「それ、人道的にどうなのよ!?」
「リナは、その奴隷を非人道的に扱う予定なのか?」
「そ、そんなことするわけないじゃない!」
「なら、何も問題はない。俺たちの生活の助けになる上に、奴隷側としても劣悪な環境から抜け出せるんだ。互いにとって救いになるだろう?」
極めて合理的なルシアンの反論に、私は言葉を詰まらせた。
たしかに、前世の感覚では絶対に受け入れられない。
でも、ここはそういう綺麗事だけじゃ回らない世界だ。
その時、ふと研究所で耳にした研究員たちの雑談が脳裏をよぎった。
『隣国から買い取った忌み子が、また暴発したらしいぞ』
「ねぇ、ルシアン。私、研究所にいた時に……」
私は、研究所の裏側で集められていた者たちが、どれほど悲惨な死を遂げていたかを彼に話した。
「……ただの偽善だとは思う。でも。もし『忌み子』として売られている奴隷が、私たちの手の届くところにいるなら……見捨てたくないな」
私の提案に、ルシアンは少しだけ目を伏せた。
「忌み子か……。たしか、生まれつき魔力の保有量が異常に多く、身体がそれに耐えられず他者を巻き込んで魔力暴走を起こす。そしてそのまま絶命するか、最悪の場合は強力な魔物を引き寄せると言われているな」
「なんだか、私にそっくりね」
「リナとは種類が違う」
即答された。
(あっ、そっか。私は人間も魔物も動物たちも、無差別に全部引き寄せちゃうからちょっと違うのか。……いや、でも、体質的にはけっこう近くない?)
ルシアンが顎に手を当てて、真剣に悩んでいる。
「……王国の犠牲になる子どもたちが、一人でも救われたら嬉しいな」
私がそっとそう付け加えると、彼は深く、長いため息を吐いた。
「……はぁ。わかった」
ルシアンは私をぎゅっと抱き寄せ、私の頭に顎を乗せながら言った。
「俺の提示する条件を完全に満たした奴なら、買ってやらないでもない」
なによそれ!
「それじゃあ、まるで私が無理を言って奴隷を欲しがったみたいじゃない!?」
「ははは!」
私の抗議に笑い声を上げた後、
ルシアンはスッと真剣な顔つきに戻った。
「だが、これから子供も産まれる。俺たちには、いざという時に『絶対に裏切らない助け』が必要だ」
「……うん」
「よし、そうと決めたら、まずは新しく侍従たちの住処を設計しなければならないな」
早速、ボソボソと何かの魔術式や間取りの思考を巡らせ始めた夫を見て、私は呆れながらも夕飯の調理を再開した。
「……ついでに、俺直属の『影部隊』も作るか」
今、背後からものすごく物騒な言葉が聞こえた気がしたけれど、気のせいだと思いたい。
裏切らない侍女や侍従、そして影部隊か……。
ルシアンはやっぱり、根っから支配者側の人間なのよね。
私と一緒にこんな魔の森の奥深くで、自給自足の手作り生活を満喫してくれているけれど……。
本来ルシアンは、王宮魔術師団長の次男。
戦闘魔術師として最前線に立つ実力を持ちながら、
実は『魔導具作りの天才』だなんてね。
まな板の上の野菜を刻みながら、私は自分の愛しい夫の底知れない才能と執念に、改めて小さく息を吐いた。




