それってつまり?
「……リナ嬢の望みはわかった」
所長室。
私の決死の願いを聞いた所長は、あっさりと頷いた。
「……っ」
「彼は最前線で魔物を殲滅し続けた、極めて高い魔力の保持者だ。優秀な遺伝子という意味でも申し分ない」
私は、膝の上で両手をギュッと握り締めた。
「ふむ。問題ないだろう。上層部へ申請しておこう。結果は近日中に出るはずだ」
「あ、ありがとうございます……!」
ルシアンに逢える!
そう思った次の瞬間だった。
「では、初夜に向けてしっかりと体調を整えておくように」
へ?
「……あ、あの。彼に逢えた、その日に、ですか?」
「彼が了承すれば、それが一回目の『種付け』になるからな」
***
それからどうやって自室に辿り着いたのか、記憶がひどく曖昧だ。
気づけば私は、ベッドの上に丸くなり、枕をぎゅっと抱きしめていた。
え?
ルシアンに逢えたら……即……子作り?
急展開すぎる。
いや、でも。
見知らぬ男といきなりおっぱじめろ! と言われるんじゃないだけ、マシ……?
そうだよ。
ルシアンが了承してくれたら……。
……してくれるよね? 大丈夫だよね。
あの幼馴染は、事あるごとに
「魂を繋いで運命共同体になる」と宣言してくれていたのだから、きっと……。
数日後。
再び所長室に呼ばれた私は、決定事項を告げられた。
「彼が了承してくれたよ。実行は明日だ」
「は、はい……」
ついに明日、ルシアンに逢える。
緊張で身体がこわばる私に、所長はにこにこと顔を近づけてきた。
「だが、忘れないでくれよ。次の子は、私の子を産んでくれ」
「……っ!」
すり、と。
蛇が這うように、所長の冷たい手が私の頬を撫でた。
ゾクリ。
全身の毛穴が粟立ち、胃の奥が冷たくなるのを感じた。
嫌だ。絶対に嫌だ……!
ルシアンに逢えればすべて解決するわけじゃない。彼との間に『結果』を出せなければ、私はこの所長をはじめとする、得体の知れない男たちに回されるのだ。逃げ道なんて最初からなかった。
(助けて、ルシアン……!)
逃げるように所長室を出た私は、フラフラと廊下を歩きながら周囲を見回した。
これまで「良い子」として協力してきた私には、物理的な監視の人間は付いていない。
まあ、そこら中に仕掛けられた魔導具で、一挙手一投足を監視されているのだけれど。
明日。
ルシアンに逢えたら……。逢えたら、彼にこの狂った状況を伝えて……。
「リナ嬢、こんなところで何をしてるんですかー?」
「ひゃっ!」
突然背後から声をかけられ、ビクリと肩が大きく跳ねた。
振り返ると、見知った男性研究員が立っていた。
「あ、えっと……所長から、明日の件を聞いて……」
「ああ、決まったんですね! おめでとうございます!」
「……ありがとうございます?」
「妊娠するまで頑張ってくださいね! なんせ、期日内に孕まないとお相手さんが――」
その時、遠くの廊下から別の研究員が血相を変えて走ってきた。
「おーい! 第3ラボでまた被検体が暴走したぞ! 鎮圧班、手が足りない!」
「あっ! やべぇ! じゃあリナ嬢、お幸せに!」
研究員は私の肩をポンと叩くと、慌ただしく廊下の奥へと走り去ってしまった。
私は、誰もいなくなった冷たい廊下に一人立ち尽くした。
「……お相手さんが、何!?」




