永久機関デビューなんて勘弁してほしい。
「リナ嬢の協力のおかげで、王都は目覚ましい発展を遂げている。本当にありがとう」
魔術研究所の所長は、穏やかな笑みを浮かべて私を労った。
「いえ、こちらこそいつも良くしていただいて、ありがとうございます」
私が会釈を返すと、所長は満足そうに目を細めた。
所長は視線だけで、私にふかふかのソファへ座るよう促した。
言われるがまま向かい合って腰を下ろしたものの、所長はすぐには口を開かなかった。
ただ、静かに私を見ていた。
じっとりと熱を持った視線がまとわりついて、なんだかひどく落ち着かない。
「……何か、望むことはあるかね? 私に叶えられる範囲なら、だが」
「私の望み、ですか?」
急な提案に首を傾げると、所長はにっこりと微笑んだまま、とんでもないことを口にした。
「……君の『運用計画』が、決まったからね」
え?
なんて言ったの、今?
「運用、計画……?」
「ああ。私の可愛いモルモット……コホン。リナ嬢を優秀な雄と番わせ、子を成してもらう。そのあと、時期を見て『封印』することが決定した」
今、モルモットって言いましたよね!?
いや、ツッコむべきはそこじゃない!
番わせて子を成したら、封印!?
「ぜ、全部おかしいですけれど、いちばん気になる『封印』について詳しく教えてもらえますか!?」
私が身を乗り出すと、所長はゆっくりと立ち上がり、私の前に跪いて両手で私の手を包み込んだ。
まるで神に祈るような、恭しい仕草だった。
「偉大なる力を、後世に永久に残すための尊い犠牲だよ。リナ嬢の肉体と魂を、特殊な魔導具の中で永久保存するんだ」
「それ、死んじゃうじゃないですか!」
「いや、死ではないよ。君の意識は消え、ただ半永久的に眠り続けることになる……はずだ」
「冬眠みたいに、ですか?」
「……これは、あくまで私の独り言なのだがね」
所長は声を潜め、私の耳元で囁いた。
「かの有名な『勇者』も、王宮の地下深くで今も眠り続けているのだよ」
「まさかっ! あの勇者!? あの絵本の!?」
私は思わず叫んだ。
ルシアンが寝かしつけの時に読んでくれた、あのわくわくするおとぎ話。
まさかあれが、実話ベースのホラーだったなんて。
「知っていたのか……。そうだ。聖剣は勇者の魂しか認めなかった。勇者が寿命で死ねば、聖剣が失われ、王国の加護も切れてしまう。だから彼らは、勇者を『保存』したのだ」
「私の場合は……?」
「君が寿命を迎えて魔力の供給が途切れてしまうことを、国の上層部が懸念した結果だ」
命の危機!!
「じゃあ、その前の『番わせる』って何ですか!? さっきから雄とか言ってますけど!」
「ああ、それはもちろん、リナ嬢に万が一があった際の『スペア』を確保するためだよ。君の子供たちに、その役目を子々孫々まで担ってもらうのさ。……ああ、なんて素晴らしい計画だろう!」
うっとりとした顔で、両手を組んで語り出した所長に、私は冷や汗を流しながら言い放った。
「……倫理的に、それは完全にアウトでしょう」
「ハハハ! ……さて、私の独り言はここまでだ」
所長はぱっと立ち上がり、いつもの穏やかで優しい魔術研究所長の顔へ戻った。
「何か望みがあれば、可愛いリナ嬢のために頑張って叶えちゃうよ!」
今更「可愛い」なんて言われても、背筋が凍るだけだ。
これは、ヤバい。
控えめに言って、超ヤバい。
王国の危機を救う(?)ために『治験』という名のモルモット扱いを受けて、ようやく『魔力抽出のんびり生活』に落ち着いたと思っていたのに……!
私の行き着く先は、人権ゼロの『永久保存版・人間発電機、しかも子作り義務あり』らしい。
永久機関デビューなんて、本気で勘弁してほしい。




