研究対象として過ごす日々
こんにちは! 災厄の元凶、リナです!
「それじゃあ、今から魔力を抽出しますね〜」
「はい、お願いします」
「チクッとしますよ〜。身体を楽にしていてくださいね〜」
私が王都の魔術研究所に連れてこられてから、すでに半年以上の月日が流れていた。
現在、私は溢れ出る自分の魔力を、様々な魔導具へと分け与える日々を送っている。
ええ、まさに歩く魔力炉である。
「いやー! 抽出してもしても溢れ出る魔力! 本当に楽しいですね!」
「お役に立てているようで良かったです」
「……本当に、リナ嬢は素晴らしいですよ」
男性研究員が、妙に熱のこもった視線を向けながら、私の頬を指先でそっと撫でた。
……相変わらず、距離感がバグっている。
「あの、王国に魔物や動物たちは、あれから集まってきてますか?」
私が尋ねると、研究員は「うーん」と首を傾げた。
「正直に言うと」
ごくり、と私の喉が鳴る。
「まったく集まってきてないですね!」
「……! よかったぁ」
私は心底ホッとして、胸を撫で下ろした。
コンコン。
「失礼します。身体検査の時間です」
「あ、はい。今行きます!」
魔術研究所に連れてこられた当初は、両手足を縛られたり、残酷な実験をされたり、非道なモルモット扱いが始まるのかと本気で警戒していた。
しかし結果は、快適な衣食住が完全保証され、定期的に魔力を抜き取り、肉体と魂の定着具合を検査されるだけの日々。
ここに勤めている方々は、例外なく私にとても優しい。……ちょっと引くくらいに。
もみもみ。ぺたぺた。さわさわ……。
「うん! 大丈夫ですね!」
女性研究員が、私の身体のあちこちを念入りに触りながら、満面の笑みで太鼓判を押した。
今日こそ、絶対に聞かなきゃいけない。
「あの、その……この『触診』って、毎回本当に必要なんですか?」
「要ります。私が安心したいので!」
なんとも言えない空気が部屋に流れた。
「コホン。……では、一緒にランチに行きましょう!」
女性研究員は強引に話を打ち切ると、なぜかにこにこしながら私の手を取り、食堂へと歩き出した。
配膳された温野菜やスープを黙々と食べながら、私はふと考える。
ルシアンは、元気にやってるだろうか。
私から離れたことで、あの執着も少しは薄れたのかな?
「俺も、ここいいですか?」
「あ、どうぞ」
周りに空席はいくらでもあるのに、男性研究員がぴったり私の隣に座る。
「ズルい! 私も座る!」
今度は女性研究員が反対側に滑り込んでくる。
相変わらず、私の周りだけ人が密集しすぎている。
「……私から離れたら、どれくらいで正気に戻るものなんでしょうか」
ぽつりとこぼした私の独り言に、男性研究員が答えた。
「体内に残留した魔力は、だいたい半年から一年は抜けきらないはずですよ」
じゃあ。
ルシアンや、お父様たちは……そろそろ正気に戻ってきている頃だろうか。
私はカトラリーを握りしめたまま、綺麗に盛られた温野菜を見下ろした。
ルシアンが用意してくれた、あの完璧な焼き魚。
食べたいな……。
ここで食べる食事はどれも高級で栄養満点のはずなのに、あの日の焼き魚ほど『美味しい』とは感じられなかった。
ルシアンの、あの美しすぎる顔。
照れた時の不器用な仕草。
熱のこもった眼差し。
甘い声、落ち着く香り。
私に向けられる、あの狂おしいほどの執着。
初めて出会ったお茶会の日から、ずっと一緒だったことを思い出す。
はぁ、と。小さくため息がこぼれた。
もう逢えない人を想うのって。
こんなにも寂しくて、
息が詰まるほど苦しいんだなって、嫌でも分かってしまった。




