災厄の元凶
「く、詳しく!? 今の、詳しく!?」
やめてよー!
私のせいで国が滅びるってなに!?
あっ! わかった!
私の魔力が暴走して、王都ごとチュドーン! みたいになるってこと!?
人間兵器としてデビューした覚えなんて、一ミリもないんだけどな……。
私が脳内で大暴れしている間にも、ルシアン父は冷徹な声で事実を告げた。
「様々な生き物が、君のその魔力に吸い寄せられているんだ。今なお、現在進行形でね」
「ご、ごめんなさい! もう少し詳しく教えてもらえませんか」
「リナ嬢も覚えがあるだろう? 動物たちや魔物が、異常なほど君に集まっているはずだ」
あっ!
外に出るたびに起きてた、あの『どうぶつ王国状態』のことか……!
「父上。まさか……」
「ああ。異常発生した魔物の討伐隊が組まれている最中、親友の頼みで来てみれば……原因不明だった災厄の元凶が、まさかこんなところにあるとはな」
ルシアン父は、呆れたように鼻で笑った。
「……救う手立てはあります」
ルシアンが一歩前に出て、私を背に庇う。
「ほぅ。それは?」
「俺と、魂が繋がれば」
「それが『確実』だと言えるのか?」
「……そ、それは」
言い淀む息子を、父親は冷ややかな目で見据えた。
「ふん。魂を固定したところで、彼女から漏れ出る魔力が抑えられるとも思えんな」
そして、ルシアン父は私を見据えながら、決定的な一言を言い放った。
「しかも、ろくなもんじゃない方法を取る気ではないか?」
ビクッ、とルシアンの肩が大きく跳ねた。
「……禁術だな?」
びくっ! と、さらに大きくルシアンの肩が跳ねる。
「ち、ち、ち、ちが……っ」
(……嘘下手か!!)
あんなに堂々と私を監禁していたヤンデレはどこへ行ったのか。
親の前で挙動不審になる、ただの息子になっている。
「リナ嬢。私は、大切な息子を罪人にするわけにはいかない。わかってくれるな?」
静かな、けれど有無を言わさぬ父親の圧力。
「それは、もちろんです。私は禁術への同意も、賛成もした覚えはありませんから」
「そのまま死ぬことになっても、か?」
その問いに、私は小さく息を吐いた。
「……恐いです。でも、最後にしあわせな時間を過ごすことができたので」
そうだ。
私の本来の命は、きっとあの時に終わっていた。
これは、神様がくれたボーナスタイムみたいなものだったのかもしれない。
甘くて、重くて、長く続きすぎた夢みたいな。
「では、大人しく付いてきてくれるね?」
「もちろんです。私のせいなら、責任はとるべきですから」
「リナ! 何を言ってるんだ!」
ルシアンが血相を変えて私に手を伸ばそうとした、その瞬間。
トンッ。
ルシアン父の手刀が、迷いなくルシアンの首筋に入った。
「……り……な……」
ルシアンはあっけなく白目を剥き、そのまま糸が切れたように床へ崩れ落ちた。
「今までありがとう、ルシアン」
意識を飛ばした彼に、そっと別れを告げる。
「では、参ろうか」
「……はい」
***
屋敷の扉を開けて外に出ると、庭先に張られたテントから、両親や邸の者たちが涙ながらに走り寄ってきた。
「リナ! 身体に傷はないか!?」
「愛しい娘! 恐ろしい魔術師から解放されてよかった……さぁ、母の胸で思い切り泣いていいのよ?」
抱きついてくる両親に混ざり、地面に這いつくばった変態護衛騎士が叫ぶ。
「リナ様に踏まれないと生きていけませんッ!!」
「リナ様ぁぁっ!」
私は彼らの大騒ぎを浴びながら、とにかく深く頭を下げた。
「みなさま、私を愛してくれてありがとうございました! どうか、これからは健やかにお過ごしください」
背を向け、用意されていた馬車へと乗り込む。
向かいの席に座ったルシアン父が、御者に向けて短く命じた。
「魔術研究所へ」
「承知いたしました」
ゆっくりと車輪が動き出す。
流れていく景色をぼんやり見ているうちに、昔聞いた言葉がふいに脳裏へ浮かんだ。
『バレたら、研究対象として二度と表には出られない――』
私は、自分の足首にはめられたままの魔導具をそっと撫でながら、ガタガタと揺れる馬車の中で目を閉じた。




