とんでもない爆弾。
ドォーン!!
突然、部屋の空気が震えるほどの衝撃音が響き渡った。
カツン、カツン、と硬い靴音が廊下に反響し――。
バァーン!! と、無残にも扉が蹴り破られた。
「リナ嬢!! 無事か!?」
雷鳴のような声とともに飛び込んできたのは、ルシアンの父親だった。
あまりの音と迫力に驚いた私は、反射的に隣にいたルシアンに抱きついていた。
「っ!?」
私の腰をぎゅっと抱き寄せ、迎撃の構えをとっていたルシアンだったが、乱入者の顔を見るなり、露骨に顔を歪めた。
「……チッ」
聞こえるか聞こえないかの音量で、彼は明確に舌打ちをした。
ルシアンの父は、鋭い視線で部屋の惨状(というか、甘すぎる空気)を一瞥し、それから息子と私を交互に見た。
「……伯爵邸に立てこもり、式も挙げぬまま、リナ嬢を手篭めにした……というのか?」
「手篭め!? されてません!!」
「……まだ、してない」
「される予定だったの!?」
ルシアンの不穏すぎる補足に、私は食い気味でツッコんだ。
「リナ嬢。ご両親が心配され、我が家に助力を求められたのだ」
ルシアン父の言葉に、ルシアンは吐き捨てるように言った。
「……余計なことを」
「ルシアン。お前は自分が何をしたか分かっているのか?」
「……結界を張っただけだ。彼女の安全のために」
「その結界のせいで、リナ嬢のご両親たちは庭先にテントを張ってサバイバル生活を強いられているぞ?」
……へ?
いやいや、ちょっと待ってほしい。
離れにある別邸とか、屋敷の他の階層とか、いくらでも住む場所はあったはずだ。
なのにテント?
私は隣のルシアンを仰ぎ見た。
彼は図星を突かれたのか、なぜか頬を染めて照れている。
(……反応がおかしい! そこは照れるところじゃないでしょ!? 完全に追い出した自覚あるでしょ!?)
「……あ、あの。実はですね」
私はこの異常な状況をどうにかするため、自分の魂が不安定なことと、ルシアンの『過剰な保護』について、包み隠さずルシアン父へ話した。
「診ても?」
「……どうぞ」
ルシアン父が私の手首を取り、ゆっくりと魔力を通していく。
彼の魔力はルシアンのものより重厚で、私の体内を隅々まで見透かしていくようだった。
やがて、彼は深く、重いため息を吐き出した。
「これは……。王宮へ報告すれば、間違いなく国家レベルで強制保護されるだろうね」
「……っ!? リナは渡さない!!」
ルシアンが激昂し、私を奪い返すように抱きしめる。
だが、父親の視線は冷ややかだった。
「ルシアン。お前を見る限り、お前もリナ嬢に『魅了』されている」
え……。
あ……ルシアンも?
「……私の魔力が、ルシアンを狂わせたんですか?」
私の問いに、ルシアン父は苦々しく頷いた。
「そうだ。現に今、俺もリナ嬢の魔力に吸い寄せられそうだ。抗うのがやっとだよ」
「そんな……じゃあ、やっぱり両親がおかしくなったのも……」
「完全に魅了に負けたからだな。彼女を愛し、囲い込み、独占したいという衝動を増幅させてしまったんだ」
「元に戻す方法は……?」
「さてなぁ」
顎に指を添えて悩みながら、彼は息子を見た。
「……この想いは偽物ではない!」
ルシアンが私を抱きしめる力が、痛いほど強くなる。
「リナ! 信じてくれ! 俺はリナを愛してる。本当だ、魔力のせいなんかじゃない!」
「……で、でもルシアン。普通じゃないし……」
私がちらりと自分の足首を見ると、そこにはめられた重すぎる愛の結晶みたいな物理魔導具が、チャリ、と皮肉な音を立てて鳴った。
ルシアン父が、こめかみを指で押さえながら断言した。
「まずはリナ嬢をこのままにしてはおけない」
「ダメだ!! リナは今、不安定なんだ! 俺が、俺だけがリナを守る!!」
「ルシアン。分かっているんだろう?」
「……嫌だ」
「……このままでは、国が滅ぶぞ」
えっ!?
今、なんて言いました?
「く、詳しく!? 今の、詳しく!?」
私は二人の顔を交互に二度見した。
重すぎる愛の話をしていたはずなのに、
いつの間にか『国が滅ぶ』とかいう、
とんでもない爆弾発言に頭を抱えるしかなかった。




