崩れ落ちた完璧な檻。
腕の中で、彼女が糸の切れた人形みたいに崩れ落ちた。
「リナ!?」
床に倒れ込む寸前で、どうにか抱き留める。
驚くほど軽い。
それなのに、あり得ないほど熱い。
「リナ、しっかりしろ……! くそっ、熱が……!」
彼女を抱き上げ、ふかふかのベッドへそっと寝かせる。
いつもなら淡い桜色をしているはずの唇は、今は苦しげに白く乾き、そこから荒い息だけが何度も漏れていた。
手が震えた。
俺の手が、震えている。
魔法で氷を作り出し、布に包んで彼女の額へ当てる。
同時に、彼女の身体の中を巡る魔力の流れを視た。
絶望で、目の前が真っ暗になった。
俺のせいだ。
昨日、俺が彼女の左足首に繋いだ魂の術。
あのアンクレットに練り込んだ、俺の重すぎる魔力が、彼女の華奢な器の中で暴走し、限界を超えて焼き切ろうとしている。
魅了の余波でただでさえ不安定だった彼女に、俺のエゴを無理やり流し込んだ結果だ。
「……俺の、せいだ」
喉の奥から零れた声は、掠れていた。
一番傷つけないように。
一番大切に、安全な場所へ閉じ込めておくはずだった。
なのに。
俺自身の手が。
俺の愛の重さが。
彼女を壊そうとしている。
もし、このまま彼女の命が尽きたら。
術者としての冷静な思考が、最悪の結末を一瞬で弾き出した。
――取り残される。
もし術が完成していれば。
彼女の魂と俺の魂が完全に結びついていれば、死すらも恐れることではなかった。
彼女が死ねば、俺も一緒に死ぬ。
共に同じ場所へ落ちて、永遠にふたりきりになれる。
それは、究極の安心だったはずだ。
だが、今は違う。
術は未完成だ。
今、彼女の魂が肉体を離れてしまえば、俺はそれを繋ぎ止めることができない。
後を追って死んだとしても、行き着く先は同じじゃない。
繋がらない。
届かない。
彼女だけが向こうへ行って、俺だけが取り残される。
「頼む、鎮まれ……!
俺の魔力だ、言うことを聞け……!!」
俺はリナの左足首のアンクレットを強く握りしめ、逆流させるように治癒と鎮静の魔力を叩き込んだ。
額に汗が滲む。
足りない。
まだ、熱が下がらない。
「リナ……ごめん、ごめん……っ」
彼女の小さな両手を包み込み、自分の額に押し当てる。
良き婚約者の仮面も、完璧に整えた狂気も、もうどこにもなかった。
魂ごと置いていかれる恐怖に、みっともなく泣きそうになっている。
今の俺は、もうそれだけだった。
「お願いだ、目を開けて……俺を置いていかないでくれ……っ!」
静まり返った部屋の中で。
それはもう、ただの哀願ではなかった。
魂の底から絞り出された悲鳴だけが、いつまでも響き続けていた。




